第21話 模擬戦6



「いやぁぁぁぁぁっ!!」


 叫び声をあげながらも的確に銀をかわしていくリオード。

 先程までの活きの良さはどこへやら……一転ただのヘタレに見えてしまう。


「何かカッコ悪くね?」

「う、うん……」


 シンとテトラがヒソヒソとそんな会話をする。

 声にこそ出さないがグランとリリネットも同じような事を言いたそうな顔だった。

 しかしベルドだけは違った。


(逃げ方はあれだが上手く全て避けてるな)


 自分の投げた得物が全て紙一重でかわされている。

 そしてそれだけではなかった。


(微妙にこっちの動きを探ってねぇか?)


 そう疑問を抱いた時であった。


「クッソがぁぁぁぁぁぁっ!!」


 一足飛びで距離を詰めベルドに殴りかかる。

 ベルドはそれを片手で軽くいなした。


「おいおい、体術だけか? 魔術も使っていいんだぞ?」

「だからまともに使えねえって言ってんだろがあぁぁぁっ!!」

「まあまあそうカッカすんなって」


 叫ぶリオードを宥めながらベルドはもう一度銀を投げた。


「うおっ!!」


 自分に向かって飛んでくる銀をスレスレでかわした後、堪らずベルドから距離を取るために宙を舞った。


「チッ……外れたか」

「アホか! 当たったら死ぬわ!」


 フワッ……と着地して悪態をつく。


「いやいや、避けれたんだからいーじゃねえか。流石だな?」

「いやぁ、そんな誉められても何も出ねえ……ってそういう問題じゃねえよ!?」

「いやいや照れんなって」

「照れてねえよ! つか喋りながらナイフ投げんなっ!!」


 このやり取りをしながらも銀を投げてくるベルド。

 リオードも返事をしながらかわしていた。


「ホラホラ、肉弾戦だけで勝てると思うなよ~」

「え?」


 リオードの顔を冷や汗が伝う。

 楽しそうに言ったベルドは右手に雷を纏わせていた。

 それはシンたちとの攻防で見せたあの雷と同じもであり、バチバチと遠くからでも聞こえるほどに音をたてていた。


「え? マ、マジッスか?」


 冗談ですよね?とでも言いたげなリオード。


「マジだ」


 ベルドはそれをアッサリ否定して右手を振るった。

 ベルドの手を離れた雷は複雑な軌道を描きながらリオードを襲う。


「ぴ、ぴえぇぇぇぇぇるっ!!」


 リオードは逃げた。

 避けるとかかわすとか、そういった格好いい表現が合わなさすぎるほど無様に逃げた。

 リオードが逃げたすぐ後ろの地面を雷が叩く。


「古代魔術なんて反則だろ!?」

「戦いに卑怯も糞もあるか。ホラホラ早くしねーと痺れるぞ~」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 リオードは走るスピードでは追い付かれると判断したのか、その場で飛び上がり雷を避けた。


「隙あり」

「ぼふぇあっ!」


 宙にいるため無防備なリオードをベルドは蹴り飛ばした。


「くっそ……」

「まだ終わってねえぞ?」


 悪態をついたリオードの後ろにはさっきの雷が迫ってきていた。


(避けきれねぇ……クソが!)


 かわせないと判断したリオードは和服の袖の中に手を入れる。

 そこから取り出したのは何やら文字や記号が書き込まれた1枚のお札。


「爆ぜろぉっ!」


 そう叫び雷に向かってお札を投げつける。

 すると雷と札が接触した刹那、小規模の爆発が起こった。


「くっ……」


 近くで投げつけた為、自分にまで影響のくる爆風を体を庇いながら受ける。

 しかし、雷の直撃は避けたため大きいダメージを負うことは無かった。


「驚いた、符術を使えるのか」


 そう尋ねるベルドは一旦攻撃の手を休める。


「おう、魔術を使えねえ上に魔力値がくっそ低い俺にはうってつけだろ」


 リオードは服についた汚れを手で払いながら立ち上がる。


 符術というのはその名の通り護符や呪符など、札を媒体に発生させる術の事である。

 これは札に魔力を込めて効力を発揮するものと、魔力を込めずに発動させることの出来るもの、そしてある一定の条件を満たしたときに発動するもののパターンに別れる。

 リオードが言ったように魔力値が低い者や、魔術が上手く発動できない人に有効ではある。

 しかし使う状況や場所、そして何より札の効力を知っておかないとただの札になってしまう。


 その為、現在では符術使いはほとんど見ることは無くなっていた。


(コイツ本当におもしれぇ……)


 そう言いながら笑うベルドの顔は教師ではなく、戦士のそれであった。

 しかしそれはリオードも同じだった。


(ヤバい……この人超強え、こんなに熱くなる相手は父さん以来だ)


 リオードの表情は新しい発見をしたときの歓喜の表情に似ていた。

 体術、魔術、観察眼、どれをとってもベルドの力は一流であり、それがリオードを興奮させていた。


「なぁ、ベルさん……」


 小さく……だが、ハッキリとした声で話す。


「何だ?」

「まだ……終わりじゃねえよな?」


 ベルドの言葉にそう返す顔はまるで子供のよう。その質問は答えがわかりきっているが聞いている……そんな感じだった。


「あぁ、体術と魔符1枚だけじゃ評価なんてつけれねえよ」


 ベルドもまた同じ表情だった。

 眼はギラギラと輝いていて、どちらかといえば獲物を見つけた野生の猛獣のような顔だった。


「そうこなくっちゃな……」


 ベルドの返答にニヤリ……と笑うと自分の髪を纏めていた茶色の簪を外した。


「久しぶりだ……"コイツ"を使うのは」


 左手にある簪を見つめ感慨深そうに笑みを溢す。


「何だぁ?そんなもんで俺とやろうってか?」


 リオードの様子を怪訝そうに見ながら尋ねる。


「まぁな、ガッカリはさせねえと思うぜ?」


 そう返したリオードの顔は自信満々で揺るぎない笑顔だった。


(あれはアイツのMWか? 簪に形態変化させてるのは見たことねぇな)


 ベルドの抱いた疑問を悟ることなく、リオードは不意に口を開いた。


「我はぶ……疾風はやて御雪みゆきつかさどりし汝の名を……」


 紡がれたその言葉に共鳴するようにリオードの持っていた簪がほのかに光り始める。

 始めはただ淡く光っていたそれは、次第に輝きを増していく。


「く……」


 余りの輝きにベルドは顔をしかめる。


(あんなもの……見たことがねぇ。あれは一体……)


 しかしリオードはその光を気に止めることなく言の葉をうたい続ける。


武名ぶめい神楽かぐら神名かみなゆき、我と共に天を舞え!」


 そう力強く叫ぶと持っていた簪を軽く上に浮かせる。

 光る珠の如きそれは宙を舞った途端、その輝きを更に強くさせた。


「ぐっ……」

「く…」

「キャッ!」


 リオードの頭上にてその動きを止めると、まるで花火の如くその光を拡散させた。



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