2、親友
謎の集会が終わり、人いきれが薄まった教室。舞花の指示を受けて、クラスのみんなが作業を進めていく。
文化祭が目前とはいえ、運動部は顧問の指導で練習を休めない子も結構いる。文化部に至っては一年で一番力を注ぐ場所なので、あまりクラスの方には参加できない。
それでも、無理をして時間を作ってクラスに貢献しようとする子も多い辺り、変態の集いながら団結意識の高いクラスだとは思う。
ちなみに、小宮川君は宣言通り、クラスの女子数人に引きずられてどこへか消えて行った。私に出来る事は、彼の冥福を祈る事だけだ。どんまい。
「やっほ~。お疲れ、律」
と、舞花が近くの椅子に座った。私も作業の手を止める。
「お疲れ、舞花。どう? 作業の進展具合は」
「うん、順調……なんだけど、律? それ、なにしてるの?」
「当日に壁とかカーテンとかにデコる飾りに、両面テープ貼ってる。これでノルマ達成」
「うわぁ、これまた地味で楽な仕事回されたね。まぁ、『ミステリアスで物静か、けどちょっと感覚のズレてる音無律』さんに、面倒な仕事はさせられないよねぇ」
「ヤメてそれ」
そうなのだ。西塚高校に入学して約半年、私はクラスどころか、学年全体からそんな感じの評価を受けているらしい。
いや、分かるよ? 私が人見知り且つコミュニケーション下手で、普通の返しをしようとしてテンパった挙句、なんか変な事を言って場の空気を凍らせる。その積み重ねが、この評価に繋がってる事くらいは。
でも、感覚のズレてる、はひどい。舞花の方がよっぽどかズレてるのに。
心中の不満が顔に出ていたのだろうか。舞花はさも愉しそうに笑った。
「まぁまぁ、そう言わないの。それより、メイドに選ばれて良かったね」
「良くないし。立候補からの投票ならまだしも、やりたいなんて一言も言ってない」
「美人だから選ばれたの。もっと誇ればいいじゃん」
美人、ね。そう言われると悪い気はしない。
切れ長の目はキツネっぽくて印象が悪いし、愛想もないと自分では思ってるんだけど。まぁでも、母さんは美人だし? その遺伝子を継いでいる私がそう見られちゃう可能性は十分あるのかもしれない。
それとも、自慢の長い黒髪をポニーテールに纏めているのが多少可愛げを演出しているとか? いや、舞花に無理やり買わされたリップが多少なりとも女らしく見せてるのかも?
「そう言えばさ。さっき先生達が話してるのを盗み聞きしたんだけど、近々転校生が来るらしいよ」
と、舞花が思い出したようにそんなことを言う。
「へぇ……は? こんな時期に?」
「うん、学年とかは分かんないけど。もしかしたら、もう来てるのかもね」
「ふ~ん。よし、終わり」
最後の飾りに両面テープを貼り付け、それらを纏めて段ボールの中に放り込みつつ私は立ち上がった。
「今日はもう帰るね」
「え? 別に追加で仕事させたりしないし、もうちょっと話そうよ」
「ごめん。今日は夕食作らなきゃならないから」
コートを羽織りながら、少しだけ声を潜めた。
私は何の部活にも入っていない、いわゆる帰宅部だ。が、それには理由がある。
両親が共働きで、しかも勤務時間が不安定な事が多い。二人とも夜勤な事もあるので、その時は私が夕食を作る事になっているのだ。
……まぁ、そういった事情が無くても帰宅部を選んでた気がするけど、さ。
「そっか、なら仕方ないね。また明日」
「ん、また明日。舞花も無理しないように」
「分かってるってば」
にかっ、と笑みを作る舞花に、そしてミステリアスな私に敬語で挨拶をする男子数人に声を返し、するりと教室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます