小鳥遊萌生と『トモダチ』の思い出・2

「……あなたが、“彗星”(コメート)?」


 そう口にするラベンダー色の少女は、その愛らしい外見に似合わない人ならざる者特有の気配を纏っている。曲がりなりにも、『賢者の石』のレネゲイドビーイングというだけのことはあるらしい。

気圧されない様に一つ息をつくと、返事をする。


「うん、合ってるよ。知ってるみたいだけど、わたしはUGNチルドレン“コメート”。名前は小鳥遊萌生だよ」


 そう名乗ると、少女はぱちくりと目を瞬かせる。


「(なにか変なこと言ったかな……?)」


 そう思って首を捻る萌生の姿に、少女の反応を疑問に思ったのが伝わったらしい。少女はゆっくり瞬きをすると、どうしてそんな反応をしたのか教えてくれる。


「……“コメート”は、お名前じゃなかったのね」


  そう言ってしょげる少女に、次は萌生が目を瞬かせる番だった。


「(そうか、この子はレネゲイドビーイングだもの。コードネームと名前の違いがわからなかったのね)」

「(……じゃあ、こう答えるのがよさそうかな)」


 少女と目を合わせるようにしゃがみ込み、手を差し伸べる。


「“コメート”もわたしの名前のひとつ。だから、間違ってないよ」

「……ほんと?」


 おずおずと重ねられる手を握りしめる。――小さくて柔らかい、守られる者の手の感触がした。


「うん。それでね、これから一緒に過ごすことになるわけだけど。わたし、あなたのことをほとんど知らないことに気付いちゃった」

「だから、教えてほしいの」

「――あなたの名前は?」


 目と目が合う。ぎゅ、と手を握り返された感覚とともに答えが返ってくる。


「……シリカ。そう、呼ばれてる」


 シリカ。それが彼女の名前。

――今回、わたしが守るべき人。


「(監視といっても、行動範囲はUGNの施設内。周りには常駐のエージェントだっている)」

「(だから、大丈夫)」


 今になって思えば。

わたしがそう考えていたことを、シリカは気付いていたのかもしれない。

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ダブルクロスたちの日常 皐月 @satsuki-24

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