四章 原因はビュリオラ、いろんな意味で(後編)




 エイリッヒさんのようすが変です。

 いえ、変なのは、いつものことなんですけどね。

 なんだか元気がないっていうか、思いつめた感じなんですよね。


 ご主人さまの手作りの絵本を読んでたせいみたい。

 いったい、どうしちゃったんでしょうか。


 でも、あたしに対する態度は前より紳士的になりました。優しすぎて、怖いです。


 それはともかく、あたしたちは無事に港へやってきました。


「港は広いですけど、どうやって船乗りさんを見つけたらいいんでしょう」


 すると、リンデさんが、

「やみくもに探しまわっても目立つだけだろ。なあ、エイリッヒ? やっぱり、まず、人魚のいけすで聞くのが一番だよな」と言いました。


 いつものエイリッヒさんなら、「ああ、そうだな」とか、「おまえに任せる」とか、なんか言いそうなものなのに、物思いに沈むように、だまりこんでいます。


「おい、エイリッヒ。しっかりしてくれ。正念場だぞ。いくら、おれたちだって、肉体を失うと死ぬんだからな。火焙りなんて、ごめんだ」


「え? ああ……」と、この調子。


 朝は早いけど、市場も近いので、けっこう通行人がいました。髪を黒く染めても、エイリッヒさんは人々の目をひく美形なので、ウカウカしていられません。


 というのも、さっき、お城のほうから、馬に乗った兵隊さんが来て、通りのあちこちに、おふれ書きを貼っていったからです。


 エイリッヒさんの似顔絵でした。

 あたしたちの似顔絵はなかったけど、仲間に黒ずくめの男と少女って書いてあります。


 やっぱり、罪人になっちゃいましたね。


「急ごう。姫さん、まだ歩けるか? おぶってやろうか?」

 リンデさんはエイリッヒさんのぶんも、がんばってます。いつも何かと苦労が絶えませんね。


「わたしなら平気よ。毎日、庭をかけまわってるもの」


 姫さまはローズちゃんをかかえて、上機嫌。


 あたしたちが通りすがりの人に怪しまれないですんでるのは、姫さまがいるからでしょう。姫さまが、はしゃぎまわるので、観光に来た旅人だと思われてるみたい。


 人魚のいけすに来ると、お店は休業中。

 でも、おかみさんが窓から、あたしたちを見て、とびつくように扉をあけました。


「ミケーレ。あんた、よく無事で……役人が、あんたを探しまわってるよ。あんたがマチルダを殺したって言うんだけど、そんなはずないだろ?」


 心配してくれるのは嬉しいんですけど、変装はバレバレなんですね……。


「はっきり、おぼえてないが、どうも違うらしい。それで、聞きたいことがあるんだ」


 親しげなおかみさんの態度に、エイリッヒさんは、ちょっと迷惑そう。きっと、おかみさんのことも、おぼえてないんですね。おまえ、誰だと言いださないのは、エイリッヒさんなりの気遣いなのかも。


 しょうがないので、あたしとリンデさんが事情を説明しました。


 おかみさんはリンデさんを見て、うなずきます。


「ああ、それで、あんた、夜中にも来たんだね。たたき起こされて寝不足だけど、そういうことなら、まあいいよ。


 あんたたちの探してるのは、おしゃべりジムだ。ミケーレ、あんた、ジムのこと、おぼえてないのかい? マチルダが、あんたにベッタリなんで、よくからんできただろ?」


「ふうん。そうなのか」と、エイリッヒさんは他人ごとみたい。

 でも、気にはなったみたい。


「ということは、そいつはマチルダに気があったのか」


「まあ、しつこく、くどいてはいたよ。マチルダはバカにしてたけどね。だから、あんたのことをそうとう恨んでたねぇ。ジムの証言だって言うから、怪しいもんだとは思ってたんだ。きっと、あんたに仕返ししたかっただけだね。ほんとに見たかどうかも疑問だよ」


 ええと……つまり、マチルダさんにふられた腹いせってことですか? ヒドイですねぇ。そんなことで無実の人を殺人犯にするなんて。


 あたしは憤りました。

「なんて人でしょう。ゆるせませんです」


 エイリッヒさんは納得しています。

「これで、偽証に素地があることはわかった。あとは本人に聞くだけだ。おしゃべりジムは、どこにいる?」


「あいつの乗ってる船は、とうぶん港を出ないからね。宿にでもいるだろうよ。行きつけは、黒炭亭さ」


「炭でできてるんですか?」


 あたしが聞くと、おかみさんは笑いました。

 ちなみに、髪をアップにして、青いドレスを着たあたしのことに、おかみさんは気づいていないみたいです。


「あんたみたいな金持ちの行く宿じゃないからね。木賃宿さ。炭代さえ払えばいい、ざこねの宿さ」


 よくわからないけど、安宿って意味みたいです。

 おかみさんに場所を聞いて、黒炭亭に行くことになりました。


 外に出たところで、リンデさんが提案しました。


「四人で動きまわると目立つ。それに、ああいう宿は、低賃金の労働者が行くところだ。ドレス着た女がうろついてたら、それだけで変だ。シャルランと姫さんは、どっかで待ってろよ」


「ええっ」


「おふれを見ろよ。役人が追ってるのは、エイリッヒだ。離れてるほうが、二人のためでもあるんだ。ほら、あそこに見える上等な宿なら、女二人でも安全だ。おれたちもジムを問いつめたら、ちゃんと合流するから」


「しょうがないですねぇ」


 あたしはともかく、これ以上、姫さまに危ないマネはさせられませんからね。


「わかりました。じゃあ、あとで必ず来てくださいね」


 なんででしょうねぇ。

 ぼんやりしているエイリッヒさんを見送るのが、とても心配でした。これきり、もう二度と会えないんじゃないかって、思ったりして……。


 そんな気持ちに気づいたのでしょうか。

 歩きかけてから、途中で、エイリッヒさんがひきかえしてきました。


「シャルラン。帰ってきたら、おまえに大事な話がある。忘れないように手帳にも書いておいた」


 そんな真剣な顔されたら、よけい心配じゃないですか。


 エイリッヒさんは、じっと、あたしを見つめたあと、ためらうように手を伸ばしてきました。あたしの髪を優しくなでます。


 それから……ほんの一瞬のことです。

 すばやくおりてきたエイリッヒさんのくちびるが、あたしの口をふさぎました。


 あたしってば、どうしちゃったんでしょうね。

 なぜか、イヤじゃなかったです。




 *



 宿の一室を借りました。

 三階建てのなかなか豪華な宿です。


 あたしたちの借りた三階の部屋は、窓から港が一望にできます。


 あたしは、さっきから、ずっと、この窓から外をながめています。


 けれど、青空のもと、おだやかに広がる大海原を見ていたわけじゃありません。宿の前の街路を見ていました。

 早く、あの人が帰ってこないかな……と思いながら。


 すると、急に、姫さまが、

「シャルラン。ぼうっとしてるよ」

 と言うので、あたしはあわてました。


「え? え? そんなことないですよ」

「そうかなぁ。エイリッヒのこと考えてたんでしょ」


「ええッ、ち、違いますよ!」

「怪しいなぁ。顔が赤いぞ。ねぇ、ローズ」

「はいです。姫さま。真っ赤っかです」


 うう……困ったオマセさんですねぇ。

 だいたい、エイリッヒさんがいけないんですよ。

 急に、あんなことするから……あたしは言いわけに悩みました。


「違いますよぉ。あの、その……ご主人さまが心配なんです」

「ふうん」


 そんな、あからさまに不信の目をしなくても……。


 そのときです。

 窓の外を、翡翠ひすいのようにキレイなグリーンの小鳥が飛んで来ます。どんどん、こっちに近づいてきます。


「わあ、きれいな小鳥」

 姫さまは目を輝かせています。

 でも、それにしても、どんどん、こっちに……。


「あれ、つっこんできますねぇ」


 小鳥はまっすぐ飛んできて、あたしたちのいる、この部屋の窓に入ってきました。


「すごーい。きれいね。シャルラン……? でも、あれって、リーフに似てない?」


 小鳥は天井あたりをグルグル輪を描いて飛んでいましたが、その言葉が聞こえたのか、急に舞いおりてきて、ちょこんと姫さまの肩に止まりました。


「あ、やっぱり、そうだよ。リーフだ」

「ほんとですね。どこから来たんでしょう? お屋敷のなかにはいませんでしたよね」


 お屋敷にいなかったってことは、もしかして、ご主人さまがつれていたってことで……。


 リーフは両方の翼で顔をおおって、泣きまねをしました。

「助けてっ。シャルラン。人間に殺されるよ!」


 あっ、ご主人さまだ!


「ご主人さま。今、どこにいるんですか?」

「殺されるよっ」


 ダメです。こっちの声が聞こえてるわけじゃないみたい。リーフに言葉を丸暗記させただけなんですね。


「うーん。いつもの被害妄想でしょうか」


 違いました。


「死刑だって言われたよ。今日の正午」


 大変です。


「もう、やっぱり、ご主人さまは一人にしておけません。姫さま、あたし、今から助けに行きます。姫さまは、ここで待っててくださいね」


「シャルラン一人じゃ危ないわ。あたしも行く」

「いけません。姫さまを危険にまきこめません」


「じゃあ、シャルラン。どうやってお城に入るつもりなの? あの古井戸の通路、マルグリーテがふさいでたら、どうするの?」


 ふにゅう……そこまで考えてませんでした。


 姫さまは得意満面です。


「えっへへぇ。そうだと思った。じつは、わたし、別のぬけ道を知ってるんだ」

「え? ほんとですか?」


「うん。教えてほしい?」

「はいっ! 教えてくださいです」

「じゃあ、わたしも行く」


 しょうがないですねぇ……。


「わかりました。そのかわり約束ですよ。危ないことが起きたときには、姫さまは逃げてください。シャルランは大丈夫ですから、あたしのことは見すてて逃げてくださいね。約束しないと、つれていきませんよ」


「わかったわよぉ。約束する。ねえ、リーフ?」


 ほんとに、わかってるのかなぁ。


 不安だけど、正午まで、あまり時間がありません。

 あたしは急いで、姫さまとともに王宮へむかいました。




 *



 そのころ、エイリッヒは船員たちの使う、いかがわしい宿のならぶ通りで、黒炭亭を見ていた。


 もう朝だというのに、二階の窓から、ヒラリとコウモリが飛びたち、エイリッヒの目の前で、リンデの姿になる。


「たった今、出ていったみたいだ。でも、匂いはおぼえてきた。あとをつけよう」

「ああ」


 エイリッヒはシャルランを残してきたことが、どうしても後ろ髪をひかれる思いだっだ。が、気持ちをひきしめて、リンデのあとについていった。


 すでに、リンデは猫の姿になっていて、犬のように匂いをかぎながら、せまい路地を歩いていく。

 ごみごみと小汚い下町を、みるみる通りすぎた。

 そのうちには港も出てしまう。


 どうやら、ジムは町の中心方向にむかっているようだ。

 高級な商店や裕福な連中の住居の多いあたりにやってくる。


 木賃宿を常宿にしているような下っぱの船乗りが、なんの用があるというのか。あまりにも場違いだ。


 だが、町の中央広場まで来ると、エイリッヒは変な気分になった。


 昨夜の記憶も、すでに大半ぬけおちている。が、この道、つい最近に歩いた気がする。

 たしか、広場に面した礼拝堂の裏手に墓地が……。


「ここは……」


 まちがいない。

 やはり、リンデが進んでいくのは、昨夜、城からぬけだすのに使った、あの古井戸のぬけ道から続く墓地だ。


 墓地の前まで来ると、リンデは人間の姿にもどって、エイリッヒのとなりに立った。


「このなかから、ヤツの匂いがする」


 なぜ、ジムは、この墓地へ来たのだろう?

 ただのぐうぜんだろうか?


 しかし、ジムのような身分の低い外国人が、知人の墓参りに来るような墓地ではなかった。ここには町の有力者や、身分のある者が葬られている。


「なあ、エイリッヒ。墓地のなかに、ジム以外の人間の匂いがする。ジムと話してるみたいだ」

「誰かと待ちあわせてたのか。人目をさけて、内密の話ってわけだな」


 それにしても、相手が船員仲間など、ジムと同じ階層の人間なら、わざわざ、こんな場違いな場所まで来る必要はない。


 この墓所は、密談の相手のテリトリーということではないだろうか。たとえば、王宮の誰か……。


「行こう。相手の顔をたしかめないと」


 エイリッヒとリンデは用心深く、あたりに気をくばりながら墓地へ入っていった。暮石に身をかくしながら進んでいく。


 ジムの姿は見あたらない。

 むこうも物陰に身をひそめているのだ。


 墓地の外れの雑木林の手前まで来たとき、ヒソヒソ話す男の声が聞こえた。林のなかで話している。


「……これで何もかも旦那の思いどおりですな。みごと、ミケーレのやつは殺人犯ってわけで。あいつもバカなやつですだ。おれの女に手を出すから、こんなことに」


 おれの女とはマチルダのことか。

 マチルダは、そのつもりではなかったようだが、まあいい。女がらみのいざこざは、エイリッヒのまわりでは、よくあることだ。


(やっぱり、おれを恨んでの偽証か。相手の男が、ジムに偽証させた張本人ーー)


 耳をすますが、相手の声は聞こえなかった。姿も見えない。


 もっと近くまで行って確認したい。

 しかし、雑木林のなかは落ち葉がつもっていて、足音が立ちやすい。慎重にならなければいけない。


「や、どうも。どうも。ありがとさんです。これを貰わなけりゃね」


 へっへっへっというジムの笑い声を聞けば、報酬を受けとっているのだろう。


 エイリッヒがリンデに目くばせを送ると、リンデは墓地に似合いのカラスになって飛んでいく。


 だが、まだリンデが雑木林に入る前に、とつぜん悲鳴があがった。ジムの声だ。それに続いて、低い男の声がする。


「……悪く思うな。このことは、誰にも知られるわけにはいかない」


 秘密を共有できる相手ではないとふみ、始末したのだ。


 エイリッヒは暮石のかげから走りだした。

 雑木林にとびこむと、かけ去っていく男のうしろ姿が見えた。フードつきのマントをかぶっている。


「待て!」


 追ったが、相手のほうが墓所の間取りに詳しかった。こまわりのきいた逃げかたをする。


 エイリッヒはすぐに男を見失ってしまった。あきらめて、ジムのもとへもどる。ジムはかろうじて息があった。が、瀕死ひんしだ。もう、どんな魔法でも治せない。


 エイリッヒは死にゆくジムのひたいに手をあてた。


 エイリッヒに残された、ゆいいつ、まともな魔法。

 たぶん、前世の自分が有していた能力。人間の記憶を見る力。


 目をとじると、ジムの生涯の記憶が、次々と浮かびあがってくる。


 だが、完全な形ではない。

 エイリッヒの力が失われて不完全だからだ。大部分は黒くぬりつぶされたように、見ることができない。


 ましてや、結晶化など不可能だ。

 それでも、どうにか、先夜の事情はわかった。


 一昨夜、マチルダを案じて、エイリッヒが外へ出ていったとき、ジムはマチルダのことで話をつけようと思い、あとを追っていた。


 マチルダの名を呼びながら路地裏を歩いていくエイリッヒの一部始終を、ジムは見ていた。


 エイリッヒが暗がりで急に立ちどまる。

 足にひっかかったナイフをひろいあげ、周囲を見まわす。


 そして、そのとき初めて硬直した。マチルダの死体に気づいたからだ。やはり、エイリッヒが行ったときには、すでにマチルダは殺されていた。


 エイリッヒは死体に気をとられていたが、ジムはエイリッヒより、さらに前方を走り去っていく男の影に気づいていた。


 船乗りではない。

 なぜなら、ここらに詳しい者なら、その路地が袋小路になっていることを知っている……。


 そこで映像がとだえた。

 ジムは、こときれていた。


 エイリッヒは手を離し、立ちあがった。


(おれが殺したんじゃなかった)


 おそらく、そうだろうとは思っていた。が、はっきり証明されて、安堵した。これで自分が人殺しでないと確信が持てる。


 さっきまでは、おれが人間を殺すわけはないと思いながらも、どこか不安だった。


 あるいは前世の血を噴く記憶が、酔いのせいで表れ、自分を裏切った白薔薇に復讐したのではないかと疑わないでもなかった。


 マチルダだけではなく、町で起こった連続殺人が、すべて自分の仕業ではないかと考えることは、良き精霊のエイリッヒには苦痛だった。


(よかった。おれは、そこまで化け物ではないらしい)


 少なくとも、他者の命をたっとぶことができるほどには。


 エイリッヒが、ほっとため息をもらしていると、リンデが帰ってきた。


「逃げられた」

「あの男の顔を見たか?」


「いや。かぶりもんしてて、よく見えなかった。ただな、あの古井戸につながる、ぬけ道に入っていったよ」

「城内の誰かってことか。予想どおりだな」


「ああ。それと……」

 リンデが口ごもった。

 きっぱりした性格のリンデにはめずらしい。


「なんだ?」

「自信はないんだが……あいつの匂い、どっかで、かいだことがある、ような気がする」


「おれたちの知ってる人間ってことか」

「たぶん。追うのに必死だったから、匂いまで吟味できなかったけど」


 だとすると、エイリッヒたちが一面識もない右大臣ではありえない。やはり、右大臣については、仲間をかばうために、マルグリーテがついたウソだったのだ。


 あるいは、マルグリーテ自身が犯人ということも……。


「城内で、おれたちが会った人間なんて、そう多くはない。マルグリーテ、姫、兵隊長、フローラン卿……」

「その他大勢の兵隊だったら、お手あげだ」


「まあ、そうだな。考えるのは、あとにしよう。シャルランたちも心配だし、一度、宿に帰るか」

「ああ」


 だが、宿についてみれば、待っていたのは置き手紙だった。



『ご主人さまが正午に処刑されてしまいます。姫さまと助けに行ってきます。勝手なことして、ごめんなさい』




 *



 いったい、どうして、こんなことになってしまったのだろう?

 ビュリオラは不思議でならなかった。


 さきほど、処刑前だからといって、暗い地下から眺望のいい場所に移されたのはいいが、処刑される理由が、どうにもわからない。


 昨日はとり乱していて、相手の言うことを聞いてなかったが、今日になってから周囲の人間の言葉をよくよく聞いてみると、どうも、ビュリオラの正体が精霊だと、バレてしまったせいではないらしい。


 ここまでビュリオラをつれてきた兵士たちも、ビュリオラを人形師ベリーヒトだと思っていた。


(じゃあ、いったい、なんで、こんなことに?)


 まったくもって謎だ。


 そういえば昨日、問いつめられたときに、なんだか会話がかみあってるような、かみあってないような、変な感じだった。そのせいだろうか?


(リーフ。ちゃんと、シャルランのところに行けたかな……)


 こんなときのための、人並み外れたシャルランの怪力だ。


 シャルランは記憶していないが、この数百年のあいだ、魔女狩りをのりきるために、どうしても、あの力が必要だった。


 ビュリオラの魔法と、シャルランの怪力で、今まで何度も死線をかいくぐってきた。命が危なかったことも数えきれないほどある。


(シャルランは被害妄想だって笑うけどさ。シャルランは、おぼえてないから)


 でも、いいのだ。

 彼女に自分が人間だと思わせておくためには、定期的に記憶を消してしまうしかない。


 きっと真実を知れば、シャルランはゆるしてくれないだろうから……。

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