VOL7

『有難う、小父様』


 ルイは毛布に包まれパトカー、いや違うな。黒塗りのセダンに乗り込む前、そういって笑い、俺の頬にキスをした。


『ねぇ、ちょっと』


 俺の側に立っていたマリーが、わざと目を吊り上げるような表情をして、


『いつの間に彼女をたらし込んだの?でも無駄よ。彼女、国にフィアンセがいらっしゃるんですってよ。後で痛い目に遭うわよ』


『痛い目なら、さっきまで散々遭ってきたさ。』


 俺は渡された紙コップから立ち上る、暖かい飲料を口にしながら答えた。


 ルイはそのまま、黒塗りのセダンの後部座席に乗り込んだ。


 ナンバープレートは、明らかに外交官ナンバー、つまりは『某国大使館差し回し』というわけだ。


『ねぇ、私は彼女の警護をして東京まで帰るんだけど、あなたはどうする?良ければ一緒に乗せってってあげるけど?』


『お構いなく。パトライトの特権でそこのけそこのけってのは、どうも好きになれない。何とかして一人で帰るさ』


『へそ曲がりね・・・・』彼女はいつもの癖で軽く微笑んでパトカーに乗りこんだ。


 威勢よくサイレンの音がまた高鳴った。


 黒いセダンの後部座席のルイがこちらを振り返り、ひらひらと手を振った。



 翌日、俺の口座に幾分多目のギャラが振り込まれた。


 新聞はどこも一面ぶち抜きであの大騒ぎを書き立てている。


 マリーからも電話があった。


 彼女を攫った(ということになってる)テロリスト集団は、ルイの母国の政変問題とは何の関係もなく、単なる日本国内で『暴力革命を起こそう』と狙っていた連中だったようで、前々から公安が目をつけていたとのことだ。


 要するに俺は公安の『岡っ引き』をさせられた訳だ。


 知らなかったとはいえ、あまり気分は良くない。


 しかしまあ、俺の目的はテロリストなんか関係はなかったし、ルイは故郷に帰り、父を助けて政治活動に身を投じ、尚且つ本来の目的でもある研究にも打ち込めるようになったんだからな。


 それはそれでよしとするさ。


『小父様へ、感謝を込めて』


 それとは別に彼女から添え書きをしたポートレートが届いた。


 ええ?


(タフガイがやに下がって嬉しいか?)だって?


 たまにはいいじゃないか。


 俺だってアニメの主人公を気取ってみたくなる時もあるもんさ。


                               終わり


*)この作品はフィクションであり、登場する人名、描写その他全ては作者の想像の産物であります。







 


 

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気分はルパン三世 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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