VOL6

『そのう・・・・なんだ・・・・』


 俺は柄にもなく照れた。


『一度でいい。俺の事を「小父様」って呼んでくれないか?』


『小父様・・・ですか?』




 彼女は少し微笑んで、


『では、小父様』


 うん、悪い気はしない。


『では、本当のことを話そう。君がここに拉致されているから連れ戻してきて欲しいと、ある人に頼まれたんだ』


 俺は黙って上着の隠しポケット(連中、これにも気づかなかったのか)から、ライセンスとバッジを取り出して彼女に見せた。


『探偵さん、だったんですか?』


『ま、そんなところだ』


『ある人物に君が攫われたんで助け出してきて欲しい・・・・そういう依頼を受けたんだ』


『誰です?』


 その時である。


『居たぞ!』


 そんな叫び声が聞こえ、こちらに向かって敵弾が雨あられと振ってきた。


『悪いな、今はその話をしてる暇はない』


 俺は物陰に身体を半分隠し、応戦した。


『貸してください!』


 彼女が俺に声をかける。


『ええ?』


『それ!』


 ルイは俺が肩から下げていたAKを指さしたのだ。


『早く!』


 俺は彼女に放り投げて渡すと、実に正確な動作と姿勢で発砲した。


 それは正しく銃の扱いに慣れた人間のそれだった。


 目の前にいる敵が次々に倒れていく。


 幾らAKが扱いやすい銃だからって、そう簡単には行くはずはない。


 そして次の瞬間、彼女はジーンズのポケットに手を入れると、小型のスイッチを取り出し、それを押した。


 すると、建物のあちこちで火花が起こり、爆発音が響き渡った。


『逃げましょう!』


 これじゃ、助けに来たのか助けられに来たのか分からんが、まあ、しかし今はそんな事を言ってる余裕などない。


 俺たちは火花と怒号の中を、一目散に逃げだした・・・




 やっと麓までたどり着いたとき、田舎の山道は警官隊が押し寄せてきていた。


 あれだけの爆発音だ。


 幾ら辺鄙な場所だって、誰かが気が付いて警察に連絡でもしたんだろう。


 しかし、どうやらそうではなかった。


 警官隊の群れの中に、マリーの姿を見つけた時、俺は全てを悟った。


(外事課特殊捜査班の彼女がいたんだ。悟らない方が無理と言うものだ)


『分かってて、俺達の後を付けてたんだろう?』


 俺の問いに、彼女は曰くありげにほほ笑んだ。


『とにかく、有難う。私の頼みを聞いてくれて、ギャラは言われた通り、上乗せして払うわ』


『・・・・・やっぱり、お巡りは好きになれないな・・・・』


『え?何か言った?』


『何にも・・・・』


 テロリストグループのアジトにいた連中は全員根こそぎ逮捕されたらしい。


 逮捕者の中にはけが人はいたものの、何故か死者は一人も出なかったという。


 







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