第37話 装備購入

 イストを引きずって広場から離れるとどこからかクロがやって来たので、さっき逃げたことについて追及することにした。


「お前よくノコノコと戻ってこれたよな」

「少しトイレに行っておってな、何かあったのか? 」

「本当かぁ? 」

「我がトイレに行っていたかどうかがそんなに気になるか。変わった趣味をしておるのう」


 クロはニヤニヤしている、よく回る口だな。俺とクロの会話を聞いて、エーコは苦笑い、イストは話がわからないのか首をかしげている。悔しいがこれ以上話をしてもクロは折れないだろう。


「じゃあ最後に武器と防具を準備しよう」


 目の前に現れてきた武器屋の看板を指差す。店に入ってみると無愛想な男性が店番をしていた。

 

「俺とクロは武器防具一式揃っているから、今回はイストとエーコの装備を購入する。エーコ、予算はいくらだ」

「そうですね、二人分なら金貨四枚といったところでしょうか」


 会計係のエーコが手帳を見ながら言う。会計係になってからエーコは家計簿のようにノートをつくって記録をしている。もし俺に簿記の知識があれば助けになれたのだが残念だ。


「私は魔法があるから武器なんて要らないわよ」


 実はイストは魔法を唱える時は素手であるため、杖等は所持していない。


「もし敵と接近戦になったとき大変だろ。魔法が効かない敵だって出てくるかもしれないし念のためにも買っておいたほうがいい」


 俺の指摘をうけてしぶしぶと武器を物色するイスト。しばらくすると刃渡り三十センチ程の小さな片手剣を選ぶ。


「イストは剣なんて使えるのか? 」


 脳裏には聖剣チャレンジで失敗して地面を転がっている彼女の姿が焼きついている。


「ええ、昔ちょっとかじったことがあってね。魔法で剣に属性を付与することもできるわ。剣は荷物になるから今まで持ってなかったけど」


 彼女は火と雷属性を剣に付与できる魔法剣士ということか、まるで漫画の主人公みたいだ。土と闇属性の俺からすると格好良くて羨ましい。


「でもあくまで剣は自己防衛用、メインは魔法だからそこの所よろしくね」


 イストは俺に詰め寄ってくる。前衛は俺とクロの二人が担当するので、イストは後衛の魔法メインで問題はない。俺が頷くとイストはニッコリと笑った。


「エーコはどうだ」


 エーコに声をかけると、彼女は身の丈程の細長い杖を一本持ってくる。


「杖か、これで敵を殴るには腕力が必要そうだが大丈夫か」

「杖は敵を殴るためではなく、この杖を使うことで集中力を高め魔法の力を強力にするのですよ」


 集中力を高めるか、受験勉強の時にハチマキを巻くようなものなのだろうか。それなら同じ魔法使いのイストも杖を持った方が良いのでは? 彼女の方を見ると笑顔でピースをしてきた。たぶんイストは杖があろうがなかろうが集中力は変わらないだろうな、そう思ってエーコの方に向き直した。


「杖は集中用というのは分かった。それなら護身用にナイフも買っておこう、使い方は俺が出来る範囲で教える」

「ヨカゼさんが……、手取り足取り教えてくれますか? 」


 俺が頷くと、彼女は喜びながらナイフが並んでいる棚に向かう。そして、彼女は模様などが描かれていないシンプルなナイフを選んだ。無駄に高いのを選ばないのは彼女らしい。


「次は防具だな。とりあえず盾は必須だろう」


 盾が並んでいる棚を覗いてみると、大きな鉄の盾から小さな木の盾まで様々な種類が置いてある。


「あまり重いのは動きにくそうよね」


 イストが大きな鉄の盾を拳でコツコツと叩く。


「その大きさだと私はそもそも持って動けるのかが怪しいです」


 エーコも恥ずかしそうにしている。


「すみません、この中で軽くて丈夫なものはありますか」


 店主の親父に聞いてみると困ったように返答が来る。


「そんな都合のいいもの置いていないさ、お嬢さん達に使えるのはこれ位かな」


 店主はおなべのふたぐらいの大きさの皮の盾を取り出した、イストとエーコが試しに持ってみると問題はなさそうだったので、買う盾はその皮の盾にすることにした。


「その次は頭を守るものだな」

「私はこの帽子があるから問題ないわ、簡単な防御魔法がかかってるから多少の攻撃は大丈夫」


 イストは自分の帽子をつつきながら自慢する。


「エーコはどうだ、この兜とか防御力が高そうだぞ」


 騎士が被るような顔全体を覆う兜を手に取ってエーコに見せる。


「うーん、ちょっと重そうですし、回復魔法を使うためには視界は出来るだけ広い方が良いと思います」

「年頃の女子に普通あんなの勧める? 」

「あやつのセンスは少し特殊なのであろう」


 クロとイストがひそひそ話をしている。センスが悪くてすまなかったな、でも性能と見た目を兼ね備えた装備なんてめったに見つからないんだぞ。ゲームで最強装備がダサかった時のがっかり感はお前達にはわからないだろうな。


「そうすると、軽くて視界が保てるようなものか……、そんなのあるかなぁ」


 少し考えると良いアイデアがひらめく、俺はバッグからあるものを取り出してエーコに渡した。


「これはヨカゼさんがつけていた兜ですか」

「ああ、丈夫で軽くて視界も十分。異世界の技術で出来た優れものだ」


 俺が渡したのは防災ヘルメット、鉄兜には負けてしまうかもしれないが最低限の打撃攻撃等はかなり緩和できるはずだ。


「俺のお古になってしまうがいいかな」

「ええ、ありがとうございます」


 満面の笑みを浮かべながら首のベルトで長さを調整する彼女。調整が終わったら、俺がそのヘルメットを軽く小突く。


「すごいです、衝撃が全然頭に伝わりません」

「どうだ。すごいだろう」

「お主の力でもないのに、なーに自慢しているのだ」


 クロは悪態をついてくる、まあ確かにその通りではあるんだけどな。


「でもそれだと今度はヨカゼさんの分の兜を選ばなくてはいけませんね」


 ヘルメットを両手で触りながらうっとりしていたエーコが言う。


「俺もできたら身軽な方がいいんだよな」


 兜が並んでいる棚を見るがなかなか良さそうなものがない。


「身軽なのがいいならこれはどうかしら」


 イストは布のフードを持ってやってくる。ためしに身に着けてみたが、まるで盗賊のようになってしまっている。


「おお、お主にぴったりではないか」

「結構似合ってるわね」


 笑っているイストとクロをスルーして、エーコがどう思うか聞いてみる。


「それならこれも一緒に着てみてください! きっと似合います」


 黒いマントを手にとって期待の眼を俺に向ける彼女。もちろん俺に拒否権はない。彼女から受け取ったマントを身に着けると、もう完全に盗賊にしか見えなかった。


「うわ、今にも女の子とか攫いそう」

「早く投獄したほうが良いのではないか」


 イスト達はニヤニヤしながら俺のことをじろじろ見る。


「そんなこと言ってると本当に襲うぞ」

「きゃー、怖い」


 イストに手を伸ばすと彼女は笑いながら俺から離れる。思わずため息が出てしまう。


「私はとっても格好いいと思いますよ」


 目をきらきらさせているエーコには逆らえず、俺はこのフードとマントを買うことにした。


「これは真面目な忠告になるが、街中ではフードは取っておけ、まず間違いなく兵士に連れて行かれるからな」


 さっきまで笑っていたクロが、一転して真剣な表情になる。アドバイスはありがたいが、そんなに犯罪者に見えるのか俺。ちょっとショックを受けてしまった。


「さて、これで準備も出来たことだし、後は芸術都市アルト行きの馬車に乗るだけね」

「アルトへは何日ぐらいかかるんだ? 」

「だいたい五日ってとこかしら」


 五日か、結構かかるんだな。


「なかなか時間がかかりますね」

「この大陸の南端まで行くのだからな、仕方がないだろう」

「大丈夫よ、途中で宿屋はあるから寝るところは困らないし、暇つぶし用の道具もバッチリよ」


 イストとバッグの中から、カードゲームやすごろくのような物を取り出していく。


「すごい充実しているな」

「これさえあれば一ヶ月は戦えるわよ」


 こういうところだけはイストはしっかりしているんだよな。その気合をもっと他の所に使ってくれればよいのだが。


「皆さん、すぐ出発が出来る馬車が見つかりました。問題ありませんよね」


 仕事をきっちりこなしてくれたエーコに向かって、俺達は頷く。


「それじゃ、次の芸術都市アルトに向けて出発だ」

「おー! 」


 俺の掛け声に合わせて、皆が声を出す。目指すは海を臨む芸術都市アルト、そこには何が待っているのだろうか。期待に胸を膨らませながら、馬車に乗り込んでいくのであった。




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