第28話 闘技場

 酒場での支払いが終わった後、クロさんに言われた通り、私は商店街で仮面を探します。意外と探してみるとなかなか見つからなかったのですが、何とか白い仮面を入手することができました。宿屋に戻って仮面が似合っているかチェックをしている様子を宿屋の主人の方に見られたのは恥ずかしかったです。


 そして次の日、私は仮面をつけてクロさんが指定した場所に向かいます。そこには大きな広場を囲むように観客席が配備されていて、まるで闘技場の様でした。


「よく来たな、娘よ」


 クロさんが私の姿を見ると嬉しそうに頷きます。


「準備はできているようだな。くれぐれもあやつの前では喋るのではないぞ」


 そう言ってクロさんは私を近くの受付のような場所に連れて行きます。そこにはヨカゼさんとイストさんの姿もありました。


「どうしたんだクロ、急に闘技場に出たいなんて言いだして」


 ヨカゼさんが言います、やっぱりここは闘技場だったのですね。


「お主等の力を確認したくてな、このような催し物があると聞いたので良い機会だと思うてのう」

「それでその仮面をつけた人は? 」

「この闘技場は二人一組で参加するという規定だ。ヨカゼとイストがまず一組、そして我とこやつでもう一組。言わば我が闘技場に参加するための助っ人だ」


 え、私が闘技場に? まあクロさんがいるなら大丈夫だとは思いますが、何を考えているのでしょう。


「クロたんの助っ人ということは相当強いの? 」


 イリスさんが私のことをじろじろ眺めてきます。悔しいですけど美人ですねこの方。


「我ほどではないがな」


 クロさんがニヤリとしながら言います。勝手にハードルを上げないでください、回復魔法くらいしか使えませんよ私。


「そいつは期待できそうだな」


 ヨカゼさんが楽しそうに言いました。


「お主達は我に全力でぶつかってこい。ちなみに勝った方が相手側に言うことを一つ聞かせられることにしようか」

「それはやる気が出てきたぜ」

「へー、楽しそうだわ」


 仲良さそうに談笑する三人をこうやって黙ってみてるのは少し辛いですね。


「ヨカゼ、今日は得意の闇魔法を好きなだけ使っていいぞ。むしろ全ての相手を呪いで倒すぐらいの気持ちでいけ」

「珍しいな、普段は呪いに頼るなっていてるのに」

「たまには使わないと、いざというときに使い方を忘れてしまっては困るからな」

「ふーん、それで相方に仮面をつけさせているわけか」


 ヨカゼさんが私のことを見つめてきてますが、バレてないですよね。


「あれ、なんかどこかで見覚えがあるような」


 彼が私に近づいてきます。まずいですよクロさん。


「こやつは恥ずかしがりやなので、そう近づかれてしまうと怯えてしまう。そんなことも分からないようでは、村に残している娘に愛想をつかされてしまうぞ」


 クロさんは彼の前に立ちはだかります。


「何でここでエーコの話が出てくるんだよ」

「エーコって誰? 」

「ほれ、お主の口からイストへ教えてやれ」


 クロさんは意地悪そうに言います、完全に楽しんでますよね。私も恥ずかしくなってきました。


「それは……、また落ち着いたらな、とりあえず絶対に負けないからなクロ! 」


 顔を赤くしながらこの場から離れてしまうヨカゼさんと、彼を追いかけるイストさん。


「はぁ、まったくつまらない奴だのう」

「クロさん、なんでわざわざ闘技場に参加するのですか? 」

「ここで我らが勝てばヨカゼもお主がついてくることを反対はしないだろう。念のために勝った方が負けたほうに言うことを一つ聞かせるという約束もしたことだしの」

「でも私は回復魔法くらいしか使えないですよ」

「十分だ、万が一、我が傷つくようなことがあった場合は頼むぞ。それ以外の時はお主は立っているだけで良い」


 そう笑いながらクロさんは言った後、闘技場の手続きを行います。闘技場といっても王族が観戦するような正式なものではなく、自分達の実力をアピールしたい冒険者と娯楽に飢えている王都の人々が楽しむために定期的に行われる小規模なものとのことです。


 参加者の登録が完了した後、闘技場の抽選により試合のカードが決まりました。どうやら決勝まで行かなければ、ヨカゼさん達とは戦えないようですね。


「決勝で待ってるからなクロ」

「お主も負けるでないぞ」


 お互いに笑い合っているヨカゼさんとクロさん。その言葉の通り、ヨカゼさんは呪いを駆使して決勝に上り詰めます。一方、私達もクロさんの圧倒的な力により決勝まで無傷で来ることができました、ちなみに私はただ立っていただけです。


 決勝戦の時間になり、私達が闘技場の舞台に上ると歓声が上がります。


「あの黒い娘、見た目によらずヤバいぜ。身体強化の魔法でも覚えているんだろうか」

「後ろの仮面のやつはまだ何もしてないが、きっと相当できるやつなんだろうぜ」


 周りの人からの期待と歓声による緊張で足が震えてきます。


「あのクロさん、戦いといっても大怪我とかはさせないで下さいね」


 私はクロさんの力を間近で見て不安になってきます。


「わかっておる、今回の戦いはあくまでも力を見るためのもの。怪我をさせるにしても治癒ができる程度にとどめておく」


 そう言ったクロさんの目は戦いに飢えた狼、いや竜の目でした。その時、向こうからヨカゼさん達がやってきます。イストさんは被っていた帽子を手に取り、観客的に向かって帽子を振ってアピールしています。


「見ただけで相手がぶっ倒れるヤベー魔法を使うやつだ」

「隣にいる魔法使いもなかなかだぜ、やっぱり最終カードは見ものだな」


 観客達が楽しそうに話をする中、この闘技場の司会者の女性が大声でチームの紹介を始めます。


「さぁ、これから始まります決勝戦。珍しい魔法を使うヨカゼとイストの魔法使いチーム。そして対する相手は、すべての敵を一人で薙ぎ払った少女クロと謎の仮面少女シロのチームだ! 」


 シロは偽名です、本名で出たら意味がないですからね。ネーミングが安直すぎではないかとは思いましたが、クロさんは気に入っていたようなので良しとしましょう。


 チーム紹介が終わって盛り上がる観客席、司会者はその様子を満足げに眺めた後、右手を挙げて叫びます。


「それでは、決勝戦スタート! 」



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