第23話 あなたはビームを出せますか?
それから一週間程たち、いつものように俺とクロがギルドで他の冒険者と雑談をしていると、勢いよくギルドの扉が開かれる。
「ヨカゼ、クロたん! ちょっとついて来て」
興奮した様子のイストが飛び込んできたと思うと、俺達の手を引っ張って町はずれの草原に連れてくる。
「ついにできたわよ! この私の努力の結晶を見なさい!」
そう言ってイストは小さな指輪を取り出す、銀色で真ん中には赤い結晶がついていて綺麗だ。俺とクロはその指輪をじっと見つめる。
「まだ気づいていないようね、これはあのゴーレムの部品を小型化してできたものよ」
そう言ってイストは自分の右手の人差し指に指輪をはめ、遠くの木に向かってその指で指差すと、彼女の指先に白い光が集まって来た。
「行くわよ、おりゃー」
イストの指から野球ボールほどの大きさの白く光る球が矢のように飛行し、木に衝突すると、木はまるで突風をうけたかのように大きく揺れた。
「すごいな」
思わず言葉が漏れる。さすがのクロも目を丸くしていた。
「ふふふ、私の研究の成果よ。体に蓄積されている魔力を元に魔弾を発射するわ」
「魔力がある限り撃ち続けられる分、状況によっては弓よりも便利だな」
俺が魔弾の使い道をあれこれ考えていると、イストはニヤリと笑う。
「何を勘違いしているの」
彼女はポケットに両手を入れてごそごそする。
「私の指は後、九本あるのよ!」
ポケットから両手を広げて俺達に見せてくるイスト、その全ての指に同じように指輪がはめられていた。すごい、成金の大富豪のようにキラキラと両手が輝いている。
彼女は両手を合わせて、少年ならだれもが真似したことがある、かめは〇波の準備ポーズをとると、その両手に再び白い光が収縮されていき、小さな太陽となる。
「はあぁぁぁぁ、イストビーム!」
イストが両手を前に突き出すと、白い光線が発射される。光線は輝きながら遠方にある木の中心を貫通すると、木はゆったりと倒れて地響きが起こる。彼女のネーミングセンスは相変わらずのようだ。
しかしビームを十秒程照射していると、急に光は細くなって消えてしまうと同時にイストは膝から崩れ落ちる。その様子を見て俺とクロが心配してかけよった。
「はぁはぁ……、私の今の魔力だと十秒が限界ね」
息切れを起こしている彼女の顔には疲労が見える。
「そりゃ、あんなの使ったら疲れるに決まっているじゃないか」
俺はイストの肩を支えると、彼女は感謝の言葉を呟く。
「しかし、すごいの。ゴーレムが使っていたのと遜色ない威力だ」
「どう、もっと褒めてもいいのよ……」
ぐったりしながら声をだすイスト。
「喋ってないでしっかり休め、魔力はどうすれば回復するんだ? 」
「眠ればなんとかなるわ……」
辛そうな声で言うイストがそう言ったので、俺達は彼女を支えながら町へ帰る。宿屋に戻ると受付のお婆さんが驚くが、彼女がたどたどしい言葉で事情を説明すると安心した様子で部屋まで案内してくれた。
「二人ともありがとね」
イストはベッドに横になって、笑顔で言う。机の上を見るとゴーレムの部品の残骸が転がっていた。
「ゴーレムの部品を使って十個指輪をつくれたわ、もっと数を増やすとしたら新しく別のゴーレムを見つけなければいけないわね」
「一から作るのは難しいのか」
「ゴーレムの設計図をみたら不可能だとわかったわ。いろんな部分に高度な魔法が使用されていて、あんなの国中の魔法使いを集めても無理ね」
首をゆっくりと振るイスト。これを複製できれば魔導の発展が大きく進んだだろうに残念だ。
「貴方達には感謝しなきゃね。こんなことができるなんて思わなかったもの」
疲れているイストが笑顔をつくると、つられて俺達も思わず笑顔になってしまう。
「さて、俺達はそろそろ失礼するぞ。イストはしっかり養生しろよ」
俺達が別れの挨拶をすると、イストはニッコリして頷いた後、眠り込んでしまった。俺達は宿屋を出た後、酒場へ向かう。もう日が暮れていたため、道は薄暗く人通りも少ない。
「あの娘すごいな。魔族でもあんな事ができる奴はそうおらんぞ」
クロは進行方向を真っすぐと見つめながら言う。
「俺もまさかここまでできるなんてびっくりだ。彼女の魔導に対する熱意と知識は役に立ちそうだな」
「お主、あの娘を仲間に引き入れる気か」
クロは顔色を変えずにこちらを見てきたので、俺は頷く。
「あぁ、魔導を発展させて女神を呼び出すためにイストは是非仲間にしたい」
「そうか、あの様子ならお主が頼めば喜んでついてくるだろう。お主の目的達成へ向けて順調に物事が進んでいて、我も驚いているぞ」
ニヤリと笑うクロに、俺も笑顔で返す。この調子なら早くエーコのところへ帰れそうだな。すると、クロのお腹の虫が鳴き始める。
「さぁ、今日は何を食べようかのう」
クロは舌なめずりをしながら、もうこれからの食事について考えている。切り替えの早い奴だ。俺達はそのまま酒場へと歩みを進めていった。
翌日、すっかり回復したイストとギルドで会うと、彼女は昨日のことで改めてお礼を言ってきた。そこで俺は早速、例の話を切り出すことにする。
「俺達はそろそろこの町を出て、別の場所へ行こうと思っている。もし良かったらイストもついて来てくれないか? 」
「えっ、私が!? 」
少し戸惑うが、しばらくしてちょっぴり恥ずかしそうにもじもじする彼女。
「いいけど、私なんかが役に立てるかしら」
「あぁ、イストと話していて魔導に興味を持ったんだ。そこで俺達は世界中を回りながら魔導について調べていこうと思う。その旅に新・魔導学の第一人者であるイストには是非ついて来て欲しい」
イストは恥ずかしいのか魔女のような帽子で顔を隠してしまうが、少しして深呼吸をすると帽子を被りなおす。その顔は自信と元気に満ち溢れていて、いつもの彼女そのものだった。
「私の熱意が届いてしまったようね、分かったわ魔導の力を見せてあげる」
そう満面の笑顔で答えてくれた。イストと俺達がこの町を出ることはギルド内ですぐに広まり、受付嬢の提案で送別会を開くことになった。
俺とクロの装備は後一週間ほどでできるので、その翌日の夜に送別会、その次の朝に出立というスケジュールだ。イストがこの町を出ていくことを聞いた冒険者は今までの感謝を伝えたり、中には泣き出してしまう者もいた。
「皆、イストのことを大切に思っているんだな」
「彼女の頑張りはここにいる者たちはずっと見ていたのだから、それも当然であろう」
そんな様子を俺とクロは少し離れているところから見ていた。
時は進んで、俺達は装備を受け取りに鍛冶屋に行く。店に入るとバンダナのおっさんが暖かく迎い入れてくれた。
「待たせたな、最高の物が出来上がっているぜ」
自信に満ち溢れているおっさんの暑苦しい顔を見ながら店の奥に入ると、そこには美しいナイフと盾があった。
「まずはこのナイフだ。魔鉄をベースに黒竜の鱗を刃の部分に使っている。切れ味は保証するぜ」
銀色のナイフだがよく見ると切っ先の部分がわずかに黒みがかっている、思わず指で触りたくなるがグッとこらえる。
「こっちの盾は魔鉄と竜鱗を混ぜあわせている。物理攻撃だけでなく魔法にも耐性はあるぞ」
黒く輝く盾が渡される。盾の大きさは肘全体をカバーする程の大きさだが不思議とそこまで重さは感じない。
「嬢ちゃんにはこの盾だぜ。黒色が好きなようだから、黒を基調に赤の模様を付けておしゃれに仕上げたぜ」
クロ用の盾は、小さいながらも黒色の丸い盾に赤で竜の模様が描かれている。クロはそれを見ると口が思わず緩むが、すぐに真面目な顔に戻る。
「なかなかの出来だ、ありがたく頂こう」
クロは左腕に盾を付けて、いろいろと動作の確認をしている。どうやら気に入ってくれたようだ。
「こんなに素晴らしいものを作って下さり、有難うございます」
俺達は丁寧にお礼をいう。
「いや、俺もこんなに面白い仕事をさせてもらって感謝するぜ。また何かあった時はよろしくな」
良い笑顔をしながら俺達を見送ってくれるオッサン。俺達は新しい装備を手にうきうきで宿屋まで戻るのであった。
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