第11話 仲間

「クロ、端的に言うぞ、仲間になってくれ」


 彼女は呆気にとられた顔をしたあと笑い出す。


「仲間だと、お主仲間の意味が分かっているのか。仲間とは対等の立場で付き合っていくものだ。何故、強く、高貴で、偉大な我がお主の仲間にならねばならない」


 彼女は笑いながら言う。強さは認めるが高貴と偉大は否定しておきたい。


「お前はやっぱり強い、今の俺では今後の旅は不安だ、力を貸してほしい」


 俺は深く頭を下げる。


「質問に答えておらんぞ、我には仲間になる理由はない、お主が我の下僕になるなら手助けの一つくらいはしてやろうか」


 余裕の表情をしながらクロは言う。しかしこいつのことだ、もし下僕なんかになったら自由に旅なんてさせてくれないだろう。


「俺はお前と対等な立場で冒険をしたい、困ったことがあればお互いに助け合える関係だ」


 俺は腕まくりをして彼女の目の前に突き出す。


「仲間になってくれるなら、時々俺の肉を喰わしてやる」


 俺の真剣な様子を見て、彼女は笑うのを止めて少し真面目な表情になる。


「その心意気は買うが、しかしそれは交渉材料にはならん。お主の肉は下僕にしても喰えるのだからな」


 淡々とした様子でクロは言う。


 俺はそんな彼女の目を真っすぐと見つめながら、ポケットからサクランボのような小さな赤い果物を二個取り出す。俺は右手と左手にその果物を一個ずつ持った。ちなみにこの果物は先程の森で収穫したものである。


「クロ、デザートの時間だ。好きな方を選んでくれ」


 俺は両手をクロの目の前に突き出す。彼女は少し怪しみながら俺の目を何かを探るように見てくる。一度彼女には呪われた肉を喰わせたことがあるから警戒されるのは当然か。


「安心しな、この果物に魔術はかけていないぜ。ただこの二つはそれぞれちょっとだけ違う部分がある」


 クロは黙ったまま俺のことを見つめ続けている。


「右手にある方が大自然の森で自由にのびのびと育った果物だ」


 俺は右手を軽く上下に動かすと、その動きをクロが目で追う。


「そして左手にある方が人間が植木鉢で育てて、徹底的な管理の下で育った実だ。言い方は乱暴だが自由なんてものは存在しない、まるで下僕のように扱われている環境で育ったといえるな」


 今度は左手を上下させる。そして俺はじっとクロの目を見ると、しばらくの沈黙の後に彼女は口を開く。


「ふむ、成程な」


 彼女は少し目をつぶって考えた後、ゆっくりと手を伸ばし右手の実を手に取って食べる。


 その通りだクロ、お前は味も気にするがそれ以上に自分の気分が良くなれるかどうかを重要視している、お前ならそっちを選ぶと思っていた。日本でも養殖より天然物の方が聞こえは良いし人気もあったはずだ、ここまでは想定内。


「どうだ、旨いか」

「自然の中で、自由にのびのびと育った物を食すのは良い気分だ」


 クロはこちらを見てニヤリと笑う。そして俺は彼女を真っすぐと見据えながら言う。


「俺はこれから女神を探す冒険に出る。その道中では山を越え、川を渡り様々な困難にぶつかるだろう、時にはお前のような竜とも戦うかもしれない。お前は俺の隣でそれを見ていろ、全て終わった時、俺はお前にとって最高のご馳走になっているぞ」


 俺の話が終わると、クロは目を細めて満面の笑みを浮かべ始めた、まるで腹をすかせた子供が冷蔵庫の中にあるケーキを見つけたかのようだ。


「下僕としてではなくお主に自由を与え、自由に生きるお主を観察し、本質を知った後に喰うか。面白いことを考える」


 食材がどこでとれたか、どういう生き物なのかを知ってから料理を食べると旨く感じることがある。こいつにとっては俺は極上の食材だ、より美味しく食うアイデアを提供するのは彼女にとって悪い提案ではない。


 願わくば俺に情がうつって喰えなくなってくれればよいのだが、あまり期待はできないかもしれない。


「一つ聞こう、女神を探すと言うことだが、あの娘の為に何故そこまでするのだ」

「エーコは俺がこの世界に来て一人ぼっちの俺を優しく助けてくれた。その恩返しだ」


 真剣な表情で聞いているクロ。すると何か引っかかった様子で聞いてくる。


「この世界に来て、というのは」


 俺はクロに別の世界から転移をしてきたことを話した。この世界に来てエーコと会って、クロを倒したこと、その後は一年間のんびり村で過ごしたことを伝える。


「別世界からか、にわかには信じがたいな」

「そう易々と信じてもらえるとは思ってない、何か証拠があるわけでもないしな」


 彼女は腕を組んで考え込むと、突然はっとした表情になる。


「すると、この世界に来たばっかりの奴に我は負けたということになるのか……」


 彼女は少ししょんぼりしてしまった。そんな彼女を少しなだめた後、俺は話を続ける。


「俺が元いた世界の神様は何もしてくれなかったから大っ嫌いだ。エーコも今は健気に女神を信じているが、いつか不幸が起こってしまった時、女神に対して裏切られたという感情を持ってしまうかもしれない。だから女神を連れてきて、できることとできないことをはっきり説明させる」


 俺の話を聞き終わったクロはほんの少しだけ頷いた、その顔には笑みが浮かんでいた。


「ここから西に行ったところにルインと言う町があり、そこの近くには古代遺跡がある。歴史を紐解けば女神についての手がかりが分かるかもしれんの。次の目的地はそこで良いか、我が仲間ヨカゼよ」


 先程とはうってかわり優しい笑顔で問いかけてくる彼女に対して、俺は力強く頷く。よしクロがいれば百人力だ、今まで無理かもしれないと思っていた冒険に希望の光が見える。


 そんな俺の様子を見てクロは満面の笑みを浮かべながら口を開く。


「よし、それでは服を脱げ」


 俺は彼女が何を言ったのか理解できず口をぽかんと開けた。



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