第17話 ガラクタに想いを込めて

 瓦礫を撤去した通路の先には、学校のクラス2つ分の大きさの部屋が広がっていた。部屋の壁は石でできており、壁の一部には文字が刻まれている。俺は古代の文字なんて読めるわけないよなと思いながら近づいてみると、【休憩所】という文字が目の前に現れる。


「あれ古代文字が読めるぞ」

「あたりまえよ、使ってる文字は昔から同じなんだからね」


 イストは俺の隣に立って、【休憩所】と書かれた文字を眺める。日本でも大昔の言葉を現代語に訳することはできているので、エールスの古代に書かれた言葉を俺が理解できるのはそこまで不思議ではないのかもしれない。


 イストは黒い帽子のつばに手を触れながら、部屋を見渡した後、周囲の物色を始める。俺達も一緒に捜索を手伝う、ここは休憩所だからであろうか、ベッドや本棚、大きめの机と椅子が置いてあった。当時の人々が談笑をしながらくつろいでいる姿が容易に想像できる。イストは部屋の片隅にある本棚から本を取り出して、ぺらぺらとページをめくって読んでいた。


「どれもこれもダメね、既に絶滅してしまった植物の調理法なんか役に立たないわよ」


 肩を落としてがっかりしている彼女、さすがにそんな分かりやすいところに宝物は眠っていないはずだ。探し物のプロの俺からしたら、まだまだ甘いと言わざるを得ない。


「隠しものするならベッドの下が王道なんだ」


 俺は豊富な経験からベッドの下が怪しいと判断、そんな俺に少女達は声をかけてくる。


「ずいぶんと自信があるようだのう」

「何でベッドの下が怪しいと思ったの? 」

「男の勘さ」


 俺が格好良く笑みを浮かべると不思議そうに二人は顔を見合わせていた。


「ん? 何か変な感じがするな」


 ベットの下に伸ばしている手に変な感触が伝わる、どうやら床に小さな窪みがあるみたいだ。三人で協力してベッドをどかししてみると、そこには天使が羽を広げているような絵が彫られていた。


「描かれているものは何なのだろうな、神の使いのように見えるが」


 クロが絵を眺めながら唸る。


「でも綺麗な絵ね、かなり昔のものみたい」


 彫られている絵を手でなぞりながらイストは呟く、俺もつられてその絵に手を触れた時、突如その絵に白く淡い光が灯り始める。


「貴方、いったい何をしたの? 」

「いや、何もしてないぞ」


 問い詰めてくるイストと首を振る俺、するとまるで機械が空気を排出するかのような音が鳴った後、絵が描かれていた床がスライドして開き、まだ見ぬ地下への入り口が出現する。


「これは大発見の予感よ! いざゆかん」


 そう言って我先にと階段を下りていくイスト、彼女をほっておくわけにもいかないので、俺達も急いで後をつける。階段を下りていくと先程までとは雰囲気が一変、さっきの休憩所は石造の壁であったが、今いる地下では壁や床は鉄のような金属でつくられている。試しに壁を手でノックしてみると、金属特有の鈍い音がかえってきた。


「これは魔鉄ね、鉄を魔法で加工することで強度を増してるのよ。現代でも魔鉄をつくることはできるけど、魔鉄だけでこんな巨大な建築物をつくるなんてすごいわ」


 所々、老朽化の為か小さなひびが入っているのもあったが、二千年前の物とは考えられないくらいしっかりしている。現在の日本の技術でさえ二千年もこんな良い状態を保てるものを作るのは難しいだろう。


 しばらく階段を下りていくと一つの大きな部屋にたどり着いた。部屋の大きさはサッカーコート一面分、高さは四階建てマンションくらい、壁と床一面は魔鉄でできている。


「すごい……、地下にこんな場所があったなんて」

「どうやらここが一番奥の部屋のようだ」


 俺達が部屋に足を踏み入れいく、一歩歩みを進めていく毎にカツンカツンと音が響き渡る。部屋の中には至る所にがらくたが散らばっており、部屋の奥の方では天井に届かんばかりにがらくたの山が積んであった。


 俺達は辺りを見渡しながら部屋にあるものを物色する。魔導の道具らしき物はチラホラあるが、それらはもう二度と使うことができないレベルでボロボロにされている。


「ここまで女神の怒りの力が及んでいたわけね」


 悔しそうにがらくたを漁っているイスト。どうやらこの様子では伝説の装備を見つけてパワーアップというイベントは期待できそうにないな。俺はため息をつきながら地面を見ると、足元に板状のがらくたが転がっていたので、ふと手に取ってみる。目を凝らして見ると、そこには何か文字が彫られていた。


「ん、何か書いてあるぞ」


 俺がそう言うとイストがすごい勢いで俺のところに飛び寄ってくる、一方クロはゆっくりと歩いてきた。


 そのガラクタにはこう書いてあった。


【我々は●■■▲■の実験により女神の逆鱗に触れてしまった、我々は知らなかったのだ彼女が我々をここまで愛していてくれたことを……、今直面している破滅はそんな彼女を裏切ってしまったことへの天罰なのだろう。裏切られた彼女は泣いていた、この世界はこれからどうなってしまうのだろうか……】


「やっぱり肝心なところは読めないようになっているわね」


 かすれて読めなくなっている文字を睨みながらイストは言う、文字がかすれている理由はただの老朽化か、それともネーサルの仕業なのだろうか。


「これを見ると人間がネーサルを裏切ったとあるな、どういうことだろう」

「愚かな古代人は、この世界を滅ぼしかねん道具でも生み出してしまったのかもしれんな」


 三人で顔を合わせて考えてみるが、そう簡単には答えはでない。俺達が思考を巡らせていた時、何か機械が起動するような音と同時に、部屋の奥にあるガラクタの山が崩れ落ちる音が聞こえてきた。


 俺達は慌ててそちらを見ると、そこには大きな丸い鉄球に手足が二本ずつ取り付けられた巨大な機械がゆっくりと立ち上がっている最中だった。その光景を前にしながら、クロは不敵な笑みを浮かべて言う。


「やれやれ、面倒な奴を目覚めさせてしまったようだ」

「ゴーレムね、動いているところが見れるなんて幸運よ」


 ゴーレムってゲームとかでも良く出てくる強敵じゃないか、そんな相手を前に笑顔の少女達、肝が据わっているな。


 ゴーレムは俺達を見つけると、邪魔者にここから撤退するように促すような警戒音を部屋中に響き渡らせるのであった。


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