第13話 女神様の言い伝え
俺とクロはユエの町の出口にいる。西にあるルインの町へ続く道は馬車二台が簡単にすれ違うことができるような広さで、周囲では青天の下、心地よい風によって草や花が揺らいでいた。
「それで次の目的地、ルインに行くにはこの道をいけばいいんだな」
「うむ、徒歩なら急いで三日、馬車なら一日といったところか」
そうクロが言うので俺は馬車を探し始めると、彼女はそれを制止する。
「何を怠けようとしている、ルインまでは徒歩で行くぞ」
「だって三日はかかるんだろ、野宿とかしなければいけないじゃないか」
キャンプ用品が万全であった日本ですら大変なのに、ろくな道具すらないこの世界で野宿なんて想像もつかない。別に野宿が絶対に嫌というわけではないが、わざわざ馬車に乗らない理由もないだろう。
「今後、屋根のない場所で寝泊まりすることなんて日常茶飯事になる。この辺りは危険な魔物もいないから良い練習になるだろう。我にここまで言わせておいてまさか拒否するわけではないだろうな」
クロが睨んできたので面倒くさいけれども、徒歩で行くことにした。馬車が時々俺達の横を通り過ぎては、載っている人達が憐れむような目で見てくるので恥ずかしい。
ただ黙々と歩いているとクロは不意に口を開く。
「そういえば、お主は女神ネーサルついてどのくらい知っておるのか」
「ネーサルはこの世界に住む者を見守って、世界を平和に導いているんだろ」
「それだけか? 」
「え? 他に何かあるのか」
横を見るとクロが口を開けたままビックリしている。なんかまずいことでも言ったのだろうか。
「お主、良くもそんな知識で女神を探すなんて言っておったのう」
深いため息をついた彼女は、しばらく渋い顔をしていた。彼女は少し目をつぶって考え込んだ後、口を開く。
「これから古代遺跡に行く前の予習をしようか。エールスは昔、魔導という魔法で道具をつくる技術が発展していたのだ」
「それはエーコから聞いたことがあるゴーレムとか作ってたんだっけ? 」
「有名なのはゴーレムだが、当時は我らの想像を遥かに超えるような道具を創り出していたらしい、それを嫌ったのかは分からんが女神ネーサルの裁きが与えられてその文明は滅んでしまったという」
「え? 確かエーコは道具の暴走によって自滅したから、魔導文明は滅びたって言ってたぞ」
俺の覚え間違えでなければ確かに本にもそう記載されていたはずだ。少なくともエーコは嘘をつくような人間ではないのは俺も良く知っている。
「人間達はそう教わっているらしいな、だが我々魔族は女神の怒りこそが魔導文明消失の原因と考えている」
「神の怒りで文明消失って、それじゃあネーサルは悪い奴じゃないか」
「文明を滅ぼしたことが悪にはならん、魔導は危険なもので、一発で全生命の十分の一の命を奪う爆弾や生物の体内に入って殺す魔導生命体等を創っていたとも言われている」
「まさか、ネーサルはそれを防ぐためにあえて文明を消失させたってことか」
クロは頷く。成程、どうやらネーサルは地球の神様よりかは厳しい神らしいな。
「しかし、もう二千年ほど前の話だ、魔族と人間のどちらが正しいことを言っているかは誰にも分からん。魔族は長生きするものが多いとはいえ、二千年はさすがに生きられないのでな」
寿命の話になった時、まだクロの年齢を知らなかったことに気付いた。見た目は子供だが竜である彼女は何年生きているのだろうか。
「そういえばクロは何歳なんだ」
「三十だ、ちなみに我が種族は三百年は生きる。年長者には敬意を払うのだぞ」
クロはニヤリと笑う。いやな予感はしていたがやっぱり年上かよ、彼女をつけあがらせる口実が一つ増えてしまった。しかし、寿命が百年の人間で例えると、彼女はまだ十歳くらいなのか。
「そして、これから行くルインの近くには、かつて魔導研究を行っていたと思われる建築物の残骸が遺跡として残っている。女神ネーサルは魔導に関するものはあらかた破壊したと伝えられているが、くまなく探せばもしかしたら掘り出し物があるかもしれないの」
「上手くいけば戦闘を有利にできるような道具が見つかるかもな」
俺とクロはお互いの顔を見合わせてほくそ笑む。古代遺跡には何かすごいものが眠っていて伝説の武器とかを手に入れることができる絶好スポットというのがお約束だ。
そんな、ロマンあふれる場所を目指して歩みを進めていくのであった。
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