青春トライアングル
1
「はぁ…」
「なんとも言えないよな…」
吟矢は放課後の教室で一人、窓際の席に座って窓の外を眺めていた。
徐々に赤らんでいく空がグラウンドを照らしている。
グラウンドの端でカキーンと鋭い金属音が鳴る、吟矢もその音の鳴る方を見つめていた。 野球部が練習をしているのだ。
バッターボックスに一人の大柄な青年が立った。
吟矢はハッと目を広げてその青年を見つめる。
彼は飛んできたボールから一瞬たりとも目を離さず、バットの芯でそのボールを捉えた。
ガキーン!!
特大の金属音が鳴った、吟矢が聞いた中でも今日一番の快音だろう。
バットから弾き返されたボールは凄い勢いで美しいアーチを描き裏山の方へ姿を消した。
ホームランを放った青年の側にはチームメンバーが集まり笑いあっている、きっと「すごい」だとか「さすが」だとか言っているのだろう。
それを見て吟矢はまたため息をついた。
「アイツにゃかなわないよ…」
ホームランを打った彼と吟矢は良く知った仲だ。
いや、良く知ったと言うよりも親友といったほうがいいほど仲がいい。
彼の名前は
吟矢と隆弘の関係は中学からだった、その頃から大柄で野球一筋だった彼を吟矢は最初は近寄りがたかったが、話して見ると意気投合し、こうして同じ高校を選ぶほどの仲になった。
なんと言っても隆弘の魅力は努力家な所だ。
小さい頃からトレーニングを積んであの肉体を得て、中学の頃はくすぶっていたけども野球のことだけを考えて、遂にはこの野球の強豪校でキャプテンにまで指名されたのだ。
昨日はクラスでキャプテンになったお祝いをしたところだ。
でも吟矢は心から彼を祝福することができなかった。
そもそも吟矢がこの高校を選んだのは美雪の志望校だったからだ。
同じ高校に来れたはいいけど、成長するごとにますます可愛くなっていく美雪は案の定、多数の男子生徒からモテた。
吟矢は嫌な予感を感じていたが、その予感は当たってしまうこととなる。
最近、美雪と隆弘が付き合ったのだ。
「俺だって好きなんだけどなぁ…」
複雑な感情だった。
隆弘はなんと言っても努力の人だ。
これまで特に努力と言えるものなんてしてこなかった吟矢にとって隆弘は親友でありながら憧れの人でもあった。
でも、だからといってこの恋を簡単に捨てることは出来ないものだ。
「はぁ…」
また深くため息をついた。 こんな時はいつも妄想にふけってしまう。 隆弘が突然大怪我を負って、悲しみにふける美雪を慰める、美雪にとって白馬の王子様になる。 そんな想像をして努力をしない自分なんてますます隆弘に追いつけないだろうと思うと吟矢はまたため息をついた。
「そういえば」
そう言うと吟矢はスマートフォンを取り出し、SNSを開いた。
昨日、タイムラインに変な書き込みがあったのを思い出した。
画面をスクロールするとその書き込みに辿りつく。
【本気で欲しいものがある時にこの電話番号にかけるとそれが手に入るよ! 番号は…】
なんともバカバカしい投稿だが、今の彼にとっては嘘か誠かなんてどうでもよかった。
このモヤモヤした気持ちが少しでもなくなるのならばそれでいいのだ。
電話番号を順番に押していく、押し終わるともう一度間違っていないか確認してから発信を押した。
コールが鳴った。
1回、2回、3回…なんだやっぱりイタズラか、気休めにはなるかな、吟矢はそう思った。
6回、7回、そこでプツっと電話が切れた。
「呼んだ?」
突然背後から声をかけられてビックリした吟矢は机にぶつかりガタンと音をたてた。
強張った体でゆっくり後ろに振り返ると何故か真っ黄色のレインコートを着た美少女が誰も居なかったはずの一つ後ろの席に座っていた。
「え、えと」
驚きすぎて吟矢はなにを話せばいいのか分からなくなった。
「だから呼んだんでしょ? 私のこと」
少女はフフッと笑った。
その笑顔は美しすぎて、逆に不安を感じる。
「えと、君は誰?」
まずはそれを聞かないと始まらない。
「私は
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