第226話 平和な1日

ルーフェウス達との戦いから一週間、俺達は海へ来ていた。



「なんつーか、あいつらは元気だな」



ビーチパラソルの日陰に篭りながら元気に遊ぶシャリエル達を眺める、港町アクスタに来たは良いがシャルティンの情報は皆無だった。



ルーフェウスやミリスティナがやられたにも関わらず動きは無い、そもそも何故彼が身を隠すのか分からなかった。



力の差は歴然の筈……自分で来ないのには何かしらの理由がある筈だった。



勿論理由なんて分からない、ルーフェウス達から情報も得られなかった今、シャルティン側が動くのを待つしか無かった。



束の間の休息という訳だった。



「隼人さん、私の水着どうっすか!」



いつも以上にテンションの高いユーリが水着姿を見せに此方へと駆け寄って来る、予想外の大きさに隼人は目を逸らした。



「どうなんっすか!」



「似合ってるよ」



隼人の言葉を聞きご満悦の様子で遊びに戻る、女性の水着をあんな間近で見たのは初めてだった。



遊んでいるシャリエル達を見て思う、自分の周りに居る女性は総じてレベルが高かった。



「この日差しは私にとって少し毒みたいだよ」



タオルで汗を拭いながらリリィが隣に座る、カッコイイ系の彼女が水着を着て居ると言うギャップでより一層綺麗に見えた。



「隼人は何もしないのかい?」



ずっと日陰に座っている隼人を見て不思議そうに尋ねる、ただ遊ぶ気になれないだけだった。



前回の戦いで運良く死者は出ていないがアウデラスが危うく死ぬ所だった……誰が死んでもおかしく無い戦い、まだ気持ちが切り替えられなかった。



「このひと時は今しかない……なら楽しんだ方が得じゃないか?」



そう言い太陽の元へと歩いて行く、少しだけ前の戦闘から彼女は変わった様な気がした。



女神の血晶を取り込んだと聞いたが異変は無い様子だった。



どちらかと言えば……



「大丈夫かマリス?」



隣でぐったりしているマリス、機械が熱中症になるとは考えられなかった。



「大丈夫、少し調子悪いだけ」



そう言い寝転がりながら背中を此方へ向ける、機械の調子悪いは心配だった。



「なぁマリス、お前を造った人の事覚えているか?」



「覚えてない、何で?」



「お前の前で言うのもあれだけどさ、凄い技術力じゃ無いか?」



自身で思考し、行動する機械……常識的に考えれば有り得ない事だった。



マリスの様な存在はこの世界でも珍しい、と言うか見た事がない……その技術力があれば見えなくなった左目も見える様になるかも知れなかった。



とは言え、その技術者が生きていればの話だが。



「一番古い記憶とかに居ないのか?造った人」



「私の覚えている一番古い記憶は戦場、ぼんやりとだけど剣を持ち、周りは敵だらけ……そんな状況」



「戦場の記憶……?」



マリスは戦闘に特化した機械人形、戦場に駆り出されて居ても不思議では無い、だが気になる事があった。



「マリスってどの国にも所属して無かったんじゃ無いのか?」



「うん」



「傭兵とかやってたのか?」



首を横に振る、傭兵で雇われて行った訳でも無い……ならば何故戦場が最古の記憶なのか分からなかった。



創造者の記憶が無いとなると命令された線は恐らくない、面倒臭い事が嫌いな性格を考えると自分で行く訳も無い……幾ら考えようとも答えは見つからなかった。



ふとマリスの方に視線を向ける、機械とは言え彼女が笑っている所を見た事が無かった。



「なに?」



見つめる隼人に首を傾げる、ランスロットの一件……あれ以降彼女に元気がない様な気がした。



数年前の出来事だが今でもはっきりと覚えている……彼女は俺の事を恨んで居るのだろうか。



「マリスは俺の事を恨んでるか?」



「恨む?なんで?」



「ランスロットの一件……俺は今も後悔してるんだ」



隼人の言葉にマリスは視線を下へ向けた。



「あれは私が悪い」



「マリスが悪い?どう言う事だ?」



「ランスロットばかり働いてた、私は何もしてない……彼が戦ってる時も家で寝てた」



流石に何も言えなかった、マリスが面倒くさがりなのは知っているがそこ迄とは……それを知らなかった俺も悪いが。



「そもそもなんでマリスは極端に働かないんだ?」



「分からない、ただ働きたくないだけ」



そう言いオイルを流し込む、今思えばマリスは殆どと言ってもいい程にオイルを飲んでいた。



「そういえばマリスって燃費悪いのか?」



「燃費?」



「いつもオイル飲んでるだろ?」



「うん、最近特に燃費悪い、1日3本は必要」



マリスの持っている大きなバックの理由がようやく分かった、1日3本……相当な燃費の悪さだった。



よく思えば最近調子も悪そうだった、燃費も悪くなり……少し心配だった。



「マリスはメンテナンスとかどうしてるんだ?」



「メンテ……ナンス?」



初めて聞きましたと言わんばかりの表情を見せる、造られてから一度もメンテナンスを受けた事が無いのなら、彼女の状態はかなりやばい気がした。



とは言え、彼女のメンテナンスを出来る技術者がこの大陸に存在するのか怪しかった。



「しかし……」



マリスの方へと再び視線を向ける、こうしてじっくり見ても人間との違いが分からなかった。



腕を触ってみるが弾力がある、機械の様な硬さは無い……不思議な作りだった。



「なに?」



「あぁ悪い、本当に機械なのかなって思ってさ」



流石に腕を突然触るのは失礼だった。



「……?ロボットだよ?」



そう言い腕を取り外す、そう言えば飛ばせるのを忘れて居た。



「だよな、それより体調は?」



「大丈夫、問題ない」



そう言い立ち上がり砂浜へと歩いて行く、大丈夫……そう言って居たが不安だった。



「リカ、機械技術に長けた国ってあるか?」



『そうですね……私の知る限りだとアイルツェラトかアスタの二ヶ国ですね』



「アスタ?」



当たり前だが初めて聞く国だった。



『はい、アイルツェラトと同じく機械技術に特化した国です……ただ』



「ただ?」



『あまり治安が良くないと聞きました』



治安が良くない、それはもう慣れていた。



「まぁその程度なら大丈夫だろ……アスタか」



また新しい国……だが目的が無いよりかはマシだった。



それにアスタでマリスのメンテナンスついでにシャルティンの情報も得られたら一石二鳥だった。



「君、アスタへ行くのかい?」



隼人の呟きが漏れて居たのか、一人の男が話し掛けて来た。



「はい、アスタをご存知で?」



「あぁ、悪い事は言わない……あの国へ行くのは辞めておいた方が良い」



「何故ですか?」



男の深刻な表情、冗談で言っている様には見えなかった。



「あの国は……変わってしまった、一人の技術者によって」



「一人の技術者?」



「はい、アルブスと言う機械技師、彼が発明した義体……元々は戦争で手や足、体の一部を失った人に対して普通の日常生活を送る為のサポートアイテムでした」



「それが何か問題でも?」



「ただの義体なら問題は無かった……ただ、アルブスは改造義体までも開発してしまった……戦闘に特化した義体、それの所為でアスタの国は壊れてしまった」



戦闘に特化した義体……少し興味があった。



「改造義体開発と国の崩壊、どう言う関係が?」



「アルブスは元々改造義体をとある盗賊団の為に開発していた……そして完成と同時に行方を眩まし、次の日から盗賊団による攻撃が始まったんだ」



何となく話しは掴めた、だがシャルティンとは関係無い様だった。



「今のあの国は一部を除いて無法地帯……行くのはオススメしないよ」



「一部?」



「力を手に入れた盗賊団でもアスタを壊滅させられない理由だよ、私も詳しくは知らないけどね」



一人で国を守っていると言うのは少し興味があった、セルナルド王国で言うライノルド的存在なのだろう。



「それでその一部にはどうやって行けます?」



「この港町から北に50km行ったら橋がある、その橋を渡れば関所があると思うからそこの衛兵に怪し無ければ入れると思うよ」



「北に50km……助かりました、俺は隼人です」



色々と説明をしてくれた男性に礼を言い握手の為に手を差し出す、一瞬男性は何か躊躇いを見せたが手を握った。



「俺はレブルス、また会う機会があれば食事でも行きましょう」



そう言い街の人混みへと姿を消す、特にマリスの体調も今は問題ない様子、出発はあまり急がなくても良さそうだった。



「もう少し、海を満喫させてやるか」



正直泳げない上に海が怖い俺にとってはあまり楽しめる状況では無いが他のメンバーが楽しいならそれで良かった。



「隼人さんは泳がれないのですか?」



寝転がる隼人の顔を覗く様にアルラが声を掛ける、あまり泳げない事は言いたく無いのだが……彼女なら笑う事も無いだろう。



「泳げないんだよ、水って言うか海が怖くてな」



「泳げないですか……隼人さんも可愛い所があるんですね」



微笑みながらアルラは言う、笑われるのが嫌だったのだが、案外そうでも無かった。



「あの、この水着……マールとシャリエルにアドバイスを貰って選んだのですがどうでしょうか?」



マールはともかく、シャリエルにアドバイス……随分と仲良くなった物だとしみじみ思いながらゆっくりと身体を起こしアルラに視線を向ける、彼女自体は見慣れているが初めて見る水着姿に隼人は固まった。



いつもは着物を着ている故に露出の少ないアルラが肌を出すと言うのはかなり貴重……思わず見惚れてしまった。



「あ、あの……ご感想は」



「あ、あぁ、凄く可愛いと思うぞ!」



「か、かわ……いい」



予想外の隼人の言葉にアルラは思わず顔を逸らした。



感想を早く言わなければと思い咄嗟に本音を言ってしまった……別に悪い事では無いのだが、女性に可愛いと言ったのは初めて……恥ずかしさで死にそうだった。



「あー!隼人さん私の時と反応違うく無いっすか!?」



たまたまアルラとの会話を聞いていたのか、似合ってるとしか言われなかったユーリが不服そうに登場する、だが彼女のお陰で場の空気が変わってくれた。



「確かにアルラさんは綺麗っすけど不公平っす!」



「ユーリさんはいつも露出の高い服を着てらっしゃるでは無いですか、アルラさんとはそうですね……いわゆるレアリティが違うんですよ」



困惑する隼人に詰め寄るユーリを見てアウデラスがフォローを入れる、内容は微妙だが。



「レアリティってなんすか!私だって立派なレディーっす!」



「分かりました、それではレディーのユーリさんはこちらで私と砂の城でも作りましょう」



「砂の城……なんか良いっすね!」



そう言い嬉しそうにアウデラスと砂で遊びに行くユーリ、なんだかんだ言って結局子供だった。



酔っ払ってレクラにダル絡みをするオーフェンとそれを眺めるフェンディル、マールと楽しげに女子力の高いトークを繰り広げるユリーシャ、浜辺近くにある酒場で海を眺めるリリィとそれをまた眺めるサレシュ、そして砂場で城を作るアウデラスとユーリ、そして何故か参加しているシャリエルとマリス……こんなに和やかな雰囲気は初めてだった。



ずっとこの光景を眺めていたかった。



「こんな日々が続けば良いですね」



「あぁ……そうだな」



平和は続かない、いずれ終わる事は知っている……だが隼人はアルラの言葉に深く同意すると微笑んだ。

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