第223話 あの頃と同じ
「リリィ遅いな」
リリィとミリスティナの戦いより10分程時間は巻き戻り、隼人達はルーフェウスがレジスタンスのアジトで開くジルガルデス討伐を祝しての宴を楽しんでいた。
未だ倒したと言う実感が湧かない者や、声をあげて泣き、喜ぶ者……様々な感情が入り混じる中、隼人はただグラスに注がれたワインを眺めていた。
「どうされました?飲まないのですか?」
ワインを眺めるだけの隼人にルーフェウスは不思議そうに尋ねる。
「あぁ、ワインが少し苦手なんですよ」
元々ワインはあまり味が口に合わず嫌いだったのだが、この世界に来て特に赤ワインはもっと苦手になった。
理由は単純、血の色と似ているからだった。
生死が掛かった戦いの最中はあまり気にならないのだが、こうした和気藹々とした平和な空間に居ると時々思い出してしまう、自分が戦った相手の最後の表情や飛び散る血飛沫を。
「隼人、飲まねーなら貰うぞ?」
グラス一杯に注がれたワインを片手に既に酔っ払ったオーフェンが隼人のワイングラスを持って行く、普通は少量で楽しむものなのだが、流石酒豪と言った所だった。
「あんまり酔っ払ってハメ外すなよ」
「大丈夫だよ、俺の酒の強さ舐めんなって」
そう言いながら女性陣が溜まって居る方へフラフラと歩いて行く、良くも悪くも、オーフェンらしかった。
だがこの平和も一時のもの、シャルティンとの戦いはまだ終わっていない……次にこうして宴をする時、全員が揃って居るとは限らなかった。
「なんと言うか、あまり慣れませんねこう言う宴は」
楽しむ人々を他所に困惑した様子のアルラが近づいて来る、確かにこう言う宴に慣れてるのはオーフェンくらいだった。
今思えばアルカドのメンバーではこう言う楽しげな雰囲気の宴はした事が無かった。
アジトを見回してみるが宴に馴染んでいるのはユーリやマールくらい、守護者達はあまり楽しんでいる様子は無かった。
いや、楽しんでいないと言うよりも、初めての宴に困惑して居ると言った方が良さそうだった。
「そうだな、こう言う宴って初めてなんじゃないか?」
「はい、そもそも私達は人間嫌いですし、戦いしかして来なかったですから」
「だな、シャルティンとの戦いが終わったらとびっきりの宴をやろう」
少しだけ死亡フラグっぽい発言に後悔する、だが死ぬつもりなんて勿論無かった。
ワインをオーフェンに取られ、手ぶらで会場を見回して居るとアルテナが此方に近づいて来るのが見えた。
国を取り戻したと言うのにアルテナもあまり楽しんでいる表情では無かった。
「どうした、ボッチか?」
「まぁそんなとこね、一国の姫とは言え箱入り娘だし、国の人とあんまり面識が無いの」
「アウェーは同じって訳か」
その言葉に笑いながら頷く、国の行く末が心配だが、ルーフェウスが居れば心配は無いだろう。
「隼人さん、ワインが飲めないならジュースはどうでしょうか?」
そう言いルーフェウスがトマトだろうか、赤い色のジュースを持って来る、トマトジュースというチョイスは謎だが有り難く受け取った。
「それにしてもリリィ達遅いな」
「そうですね、彼女の治癒ならもう来ても遅く無い筈なのですが……」
少しリリィ達が心配になって来たその時、オーフェンが突然倒れるのが視界に入った。
急いで駆け寄ろうとするがオーフェンが倒れたのをきっかけにする様に他の守護者達も倒れて行った。
「どうした皆んな?!」
「隼人……さん、意識が……」
「アルラ!?」
倒れるアルラを抱える、皆んなが当然倒れ出した……何が原因なのか、敵がいる事だけは確かだった。
「隼人、これは……」
困惑するアルテナ、彼女は倒れていない様子だった。
「残ったのは二人ですか、まぁ隼人……貴方程度なら私でも勝てるでしょう」
「ルーフェウス……?」
横たわるオーフェンを足蹴に此方へと歩いて来る、なんと無く察しはついた。
ルーフェウスの裏切り……いや、そもそも元は仲間だったのかすら怪しいが彼が敵なのは間違い無かった。
刀を抜き、構えようとするがルーフェウスは一本の試験管を取り出した。
「これは彼らを助ける唯一の手、解毒剤……ただし隼人、貴方は戦闘に参加しては行けません」
「俺は戦うなと?」
「そうです、もし手を出せば……彼らは助かりませんよ」
「じゃあどうすれば解毒剤を手に入れられるんだ?」
その言葉にルーフェウスは不敵な笑みを浮かべた。
「簡単ですよ、お嬢様……いや、アルテナが私に勝てれば、ちゃんと渡してあげますよ」
「ルーフェウス?どう言う事?」
「見ての通りですよ、私は今から貴女を殺す……ただそれだけですよ」
そう言い剣を抜くルーフェウスにアルテナは理解が追いつかず、酷く混乱していた。
「な、何でなのルーフェウス、何で裏切りなんて……」
「裏切り?違いますね……最初から私は仲間なんかでは無い、娘を……家族を殺したこの国なんて最初から滅ぼすつもりだったんだよ!」
ルーフェウスの言っている意味が全く理解出来なかった。
彼の妻の話しは聞いた事無いが、エレナはジルガルデスに殺された筈だった。
エレナの死と国は関係が無いはず、ましてや私が恨まれる理由も……
「私は悪くない……ですか?」
「え?」
「娘が死んだ本当の理由、知ってます?」
「エレナの死んだ本当の理由?」
「あの子は元々病弱で、それこそアルテナ、貴女と戦える様な強い子じゃ無かったんですよ」
エレナが病弱、そんな事は知らなかったし、信じられなかった。
「勿論貴女の前では気丈に振る舞ってましたよ、でもあの子は本当は戦いなんて望んでいなかった」
「望んで居ないって、エレナからいつも戦いを申し込んで……」
「自分が言った言葉……覚えてますか?」
「私が言った言葉?」
そんなもの覚えている訳無かった、口を開けば喧嘩ばかりだった。
「あんたとは友達じゃない……覚えていませんか?」
その言葉にアルテナは固まった。
だがあの言葉はそう言う意味で言った訳では無い……それにその後もエレナは普通だった。
「あの言葉以降、娘は変わってしまった……貴女と娘を繋ぐものはライバル関係しか無い、だからもっと強くならなくてはいけない……その焦りから病気を悪化させ娘は死んだ」
「死んだって、でもエレナは私がこの国を去る前も元気で……」
「こんな感じで?」
エレナの声がした。
あの頃と変わらぬ姿でルーフェウスの横に突然現れるエレナ、理解が追いつかなかった。
「久し振りねアルテナ!」
「エレ……ナ?」
こんな所に彼女がいる訳が無いのは分かっている……なのに涙が止まらなかった。
「いつからそんな泣き虫になったのよあんた」
「違う……エレナは此処に居ない」
「居ないって、此処にいるじゃ無い?」
気が付けば辺りはジルガルデスがまだ居ない、エレナと戦いを幾度と無く繰り広げた屋敷の裏庭になっていた。
「これ……は?」
「何やってんのよアルテナ、早く戦いましょ?」
今までの、隼人達やアルラ達との出会いは、ジルガルデスとの戦いは夢だったのでは無いか……そう思う程に目の前で広がる光景は現実味があった。
だがあの頃と唯一違うのはエレナの持つ武器だった。
「どうしたの?」
剣を構えて此方を不思議そうに見つめるエレナ、これがどう言う原理で、どんな魔法なのかは知らないが……あの頃の彼女で無いのは分かりきっていた。
「あの頃の続きって訳ね……」
ルーフェウスも趣味が悪かった。
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