第218話 圧倒的な実力差
覆われた土の鎧、隼人さんがこの場に居なくてつくづく良かったと思う。
雷魔法と相性が悪過ぎる……だが最悪な事にシャリエルがこの場に居る、彼女もまた雷魔法を得意とする、戦力にはならなかった。
それに加えてアルテナも負傷して居る、戦えるのは私だけだった。
「アルテナの怪我を見てあげて下さい」
素直にアルラの言葉に従う、自身が戦力にならないのは彼女も分かりきって居る様子だった。
ジルガルデスには何の関係も無いが久し振りのタイマンには腕が鳴った。
「一対一か?」
「そのようね」
「名前を聞いておこうか」
「アルラ」
刀をゆっくりと抜く、久し振りの抜刀に刀が喜んでる……そんな気がした。
土の鎧を纏った影響で彼の身長は2mを優に超えている、土魔法を発動するのに詠唱時間は無い……一般的に見ればかなりの強敵だが、私の敵では無い。
「アルラか……ハナっから全力で行くぞ」
そう言い放つとジルガルデスは地を鳴らしながら迫って来る、武器は持って居ない……素手で戦うつもりなのだろう。
振り上げられた右の拳、土魔法以外に特別魔力は込められて居ない。
刀の腹で拳を受け止める、だが想像して居たよりも、彼の拳は重かった。
「パワーには自信があるのさ」
誇らしげにそう告げる、確かに大したパワー、だが私を吹き飛ばす程では無かった。
「少し驚いた……その程度ね」
「さ、流石に驚いた……まさか吹き飛ばずに耐えるとは」
相当力に自信があるのか、かなり動揺して居た。
「全力で来ないのですか?」
刀を鞘に収め挑発する、隼人さんの推測ではシャルティンの関係者と言って居たのだが、流石に弱過ぎる気がした。
まだフェンディルの様に別の形態を隠して居るのか……それなら油断は出来なかった。
「舐められてるな……」
声に余裕が無い、先程の一撃が全力では無いとしても、これ以上の力は望めそうに無かった。
「パワーに自信があると言ったな、だが防御力はそれ以上に自信がある」
そう言い両腕を顔の前に持って来ると守りの体制に入る、その姿にアルラは少し戸惑った。
「えっと……攻撃をしろと言う事ですか?」
「お前の好きにしたら良い」
態勢は変えずそう言い放つ、久し振りの戦闘にテンションが上がって居たのだが……興が削がれた。
とは言えスルーする訳にも行かない、目的はジルガルデスの討伐、彼を殺さない事にはこの国は、アルテナは解放されないらしい。
正直どうでも良いが隼人さんの為……やるしか無かった。
呼吸を整え力を解放させて行く、額には小さな角が生える……彼には3割程度がちょうど良い筈だった。
変化して行くアルラにジルガルデスは苦笑いを浮かべた。
「防御に自信がお有りなのでしょう?」
微笑むアルラ、強く握り締めた右の拳を勢い良くガードの上に叩き込む、その瞬間ジルガルデスは感じた事の無い衝撃が全身を襲った。
拳が打ち込まれた数秒後、遅れて突風がやって来る、砂埃を舞いあげ視界が悪くなる……土の鎧が剥がれ落ちて行く音だけが聞こえて居た。
やがて視界が晴れる、ジルガルデスは吐血しながらもその場に立って居た。
「なんて……威力だ」
立って居るのがやっとの様子だった。
「貴方には死んでもらいますよ」
再び刀を抜く、出来ればあの一撃で死んで欲しかった……手を抜いた自分が悪いのだが、無抵抗な相手を殺すのは気が引ける、せめて抵抗でもして欲しかった。
「アルテナが来た時からそんな事分かりきって居た」
「その口振り、死を覚悟してるのですね」
その言葉にジルガルデスは笑みを浮かべた。
「いいや、死ぬつもりなんて無いさ……絶対にな!」
そう言い放つと再び土の鎧を身に纏う、先程よりも大きく、頑丈なのは一目瞭然だった。
火事場の馬鹿力と言うやつなのだろう、だが次は無い……ここで確実に終わらせる。
相変わらず防御態勢、だがこんな戦いも悪く無い様な気がした。
理性が飛ばないギリギリの範囲、約7割程の力を解放させる……完全に力を解放するにはまだ実力が足りなかった。
ツノが成長し瞳が赤に染まる、その姿にジルガルデスの顔には苦笑いすら無かった。
「それでは……さようなら」
拳をジルガルデスへ撃ち込む、凄まじい爆音が辺りに響き渡る、だがジルガルデスの鎧は砕け散らなかった。
「防がれ……た?」
出せる範囲の全力を出した筈……それなのにジルガルデスの魔法は解けず、彼は立って居る……信じられなかった。
「流石に侮りすぎて居ましたね」
どう言う原理から知らない、だが彼は私が思って居るよりも強い……それに敬意を評してしっかりと倒す、その為に刀を抜き構えるが彼の反応が無かった。
「どうしましたかジルガルデス、来ないのですか?」
何か策でもあるのか、もしくは油断をさせる為なのか……ゆっくりと近づいて行くがジルガルデスは動く気配が無かった。
そして目の前まで行くとアルラは刀を鞘に収め背を向けた。
「終わったのアルラ?」
突然敵に背を向け、シャリエルと目が合う、その言葉に頷いた。
「正直、戦い辛い敵でしたよ」
個人的な恨みが無い敵との戦い程やり辛いものは無い、隼人さんの頼みとは言えジルガルデスから目的のシャルティンとの関係性も聞き出せなかった……ただアルテナとこの国を救っただけだった。
だが少し違和感を感じる、ジルガルデスからなんの情報も得られなかったが本当に彼がこの国を此処まで悲惨な状況に追い込んだのか……疑問だった。
だが今はそれよりも瀕死のアルテナをリリィの元へ連れて行った方が良さそうだった。
「アルテナ、ジルガルデスは死にましたよ」
その言葉にアルテナは静かに涙を流して居た。
「シャリエル、任せられますか?」
「リリィの元へ……でしょ、分かったから早く隼人の所行きなさいよ」
アルラの言葉に仕方なく頷くとアルテナを担ぐ、先程からひっきりなしに鳴って居る爆音と舞い上がる火柱が気になって仕方ない様子だった。
「感謝します」
その言葉を残しアルラは姿を消した。
「アルテナ、生きてる?」
「ええ、なんとかね」
シャリエルの背中に揺られながら顔を埋める、ようやく終わった。
まだ実感が湧かない……だが本当に、終わったのだ。
「ようやく……安心して寝れる」
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