第217話 とっておきの力

外で鳴り響く爆音、熾烈な戦いが繰り広げられている様だった。



「明らかに誘導されてますね」



城の中は土魔法で作られた壁が何処かへ導くように続いていた。



完全に罠、そう分かってはいるが道が続く先に感じる巨大で最悪な魔力……ジルガルデスの魔力を感じた。



あいつを殺すためだけに生きて来た、ずっと復讐する事だけを考えて……例え罠だろうと望む所だった。



「アルテナ、少し早いわよ」



シャリエル達よりも数歩以上先を歩くアルテナを注意する、罠があるかも知れなのに彼女はお構い無しに進んでいた。



ジルガルデスの魔力を感じる、この先に、シャリエル達の声は届いて居なかった。



「アルテナ!!」



シャリエルの声が聞こえた時には手遅れだった、とある部屋へと続く扉の前に仕掛けられた魔法陣、アルテナが踏み込んだ途端に作動し、シャリエル達とアルテナを分断した。



「入って来な」



扉の向こうから声がする……あいつの声だった。



ゆっくりと扉に手を掛ける、何故なのか……手が汗ばんでいた。



緊張して軽く震えている……親を殺し、親友を殺し……国をボロボロにした男とようやく決着を着けれる……緊張では無い、嬉しいのかも知れなかった。



剣を鞘から取り出し扉を開ける、広がって居たのは幼い頃何度も訪れた……父との思い出が詰まった王座のある部屋だった。



その王座に……あいつが座っていた。



「四年振りか?」



両手を広げ足を組み替えジルガルデスは言う、四年前と全く変わっていない……目障りな金髪に無駄に整った顔立ち、あの頃と全く変わって居なかった。



「そこから……どけ」



父の椅子にジルガルデスが座って居る事がどうしても許せなかった。



「退いて欲しければ力尽くで退かすんだな」



安い挑発……だが今の私にはそれすら我慢出来なかった。



「殺す」



「それが出来なくて四年前逃げ出した癖に」



そう言いジルガルデスは剣を構える、そして踵を鳴らすと扉が土魔法で迫り上がった地面によって閉ざされた。



逃げ道は無い……だがそれで良い。



「もう逃げ出さない」



剣を構える、今日で全てが終わる。



「四年前と何が変わったか……見てみようか」



ジルガルデスは踵を鳴らすと鋭く鋭利になった地面が迫る、以前と何も変わって居ない。



最低限の動きで交わし距離を詰める、だが彼が踵を鳴らすだけで壁が現れ行く手を阻む……分かって居ても厄介な魔法だった。



詠唱時間なんてあったものじゃ無い……踵を鳴らすだけで魔法が発動する、チートもいい所……だがそんなのは分かりきって居た筈だった。



距離さえ詰められれば良い……策はある。



「四年前と全く変わってないな、相変わらず弱い」



ジルガルデスの言葉に耳は傾けない、言わせておけば良い……今は作戦を練る。



「その所為で皆んなを失った、違うか?」



「奪ったのはお前の身勝手な考えの所為だ……」



集中出来ない、彼への憎しみが私を掻き乱す。



「本当にお前は真実が見えて居たのか?」



「真実……何の事?」



「さぁな、自分で考える事だ」



そう言い曖昧にしてはぐらかす、真実……何の事か分からなかった。




間合いを計り無詠唱の低級火炎魔法を放つ、だが壁に全て阻まれ彼には届かない……隙の作らない無詠唱ではやはりこの程度……どうにかして距離を詰めたかった。



「鉄壁の防御を持つ俺にアルテナ、お前の力はあまりにも無力過ぎるな」



間違っては居ない、彼の防御は鉄壁……私の出せる最大火力の魔法でも恐らく突破出来ない、だがその慢心を利用する、突破できる筈は無いという。



「余裕で入られるのも今のうち」



隼人の戦いを見て学んだ、雷魔法は低級でも身体能力を大幅に向上させると……全身に纏う必要は無い、足先に集中させ一瞬だけでも加速できれば良い。



先程と同様に火炎魔法を放ち土魔法を発動させると互いの視界が切れる、そして4秒後土魔法は消えた。



「何回やっても同じだ」



壁が現れて消えるまで4秒、一度目は3秒だった……誤差は1秒、想定の範囲内だ。



地面から迫り来る土の棘を交わしながらルートを確認する、一度壁を経由して壁の向こう側へ一気に距離を詰める……シュミレーションは完璧だった。



先程よりも火力を上げて魔法を発動する、何も変わらず土魔法が発動され視界を遮る、その瞬間雷魔法を発動させ地面を蹴った。



そのまま壁を蹴り方向を変える、時間にして3秒……作戦は完璧だった。



だが……



「悪くは無い……だが俺も用心はする」



視界に映ったのは尖った岩だった、壁で勢いを付けた所為で止まれなかった。



「直撃は……まずい!」



空中で何とか態勢を変えようとする、岩は何とか真ん中を避けるも横腹を貫通した。



「おお、痛そうだ」



すぐさま岩を蹴り砕くが大量の血が地面へと流れ落ちて居た。



「……しくじったな」



口から血を吐く。



「あぁ、浅はかで戦略も何も無い……何も変わってないなアルテナ」



そう言い呆れるジルガルデス、その表情を見てアルテナは笑った。



「何も変わってないのはお前だジルガルデス……相変わらず慢心して居る」



「何だと?」



アルテナの表情に疑問を抱いたその瞬間、無数の赤い物体がジルガルデスの体を貫いた。



「何が……起こった」



身体に感じる無数の痛みにジルガルデスは困惑して居た、久方振りに感じる痛みに怒りすら覚えて居た。



「あんたは私を舐め過ぎた」



貫かれた腹部を押さえながらゆっくりと距離を取る、致命傷までは行っていない様子だった。



「血が凝固してる……」



貫いた物体を身体から抜き言う、操血……それが私の切り札だった。



名前の通り血を操る、幼い頃からずっと私に備わって居た忌まわしき力……昔はそう思って居た。



だが今となっては母の唯一の形見……母から受け継いだこの力でジルガルデスに傷を与えた、だがまだ終わりでは無い。



この力を使えば勝てるかも知れなかった。



「用心してたつもりだったが……舐めすぎた」



ゆっくりと呼吸を整えジルガルデスは目を瞑る、隙だらけ……攻撃を仕掛けようとしたその時、地面が揺れるのを感じた。



「もう慢心はしない、全力で殺しに行く」



辺りを覆って居た壁は崩れ、外の光が刺す、気がつくとジルガルデスの体には土魔法の鎧を身にまとって居た。



「これって……どう言う状況よ」



壁が崩れ去り、ようやくアルテナと合流出来たと思えば土の魔人と対峙中……訳が分からなかった。



「一先ず、アルテナがピンチと言うことははっきりしてます」



そう言い刀を抜く、アルラとシャリエル……頼もしい助っ人がようやく来てくれた。



彼に一矢報いる事はできた……もうプライドは関係ない、全力で倒しに行く、この国の為に。



「アルラとシャリエル、準備は?」



アルテナの言葉に頷く、そして三者武器を構えた。



「それじゃ……最終決戦と行きますか」

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