第216話 燃え盛る少女

大きく息を吸う、荒んだ街だが空気が美味しいのは変わらない……良かった。



とうとうこの日が来た。



ジルガルデスと蹴りをつける……心臓の鼓動はこれ以上ない程に早く脈を打っていた。



「とうとうこの日が来ましたねアルテナお嬢様」



「ええ……」



「随分と仲間が散りました」



ルーフェウスの後ろで武器を持つレジスタンスのメンバーを見て悲しげに言う、30人……私がこの国を離れた頃よりもかなり人数が減って居た。



「今日で全て蹴りをつけましょう」



「ええ、私もそのつもり」



「アルテナ様は覚えて居ますか?私の娘を」



ルーフェウスの娘……よく覚えている、名はエレナ……王女の私に対して凄く生意気な態度で鮮明に記憶に残って居た。



「エレナの事は忘れられないわよ」



「あいつ……アルテナ様の様に強くなる為ずっと鍛錬を積んでました、あのバカ王女を越すが口癖で」



「知ってる」



いつも私に勝負を挑み、完膚なきまでに叩きのめして居た……弱いくせに毎日飽きずに。



「でもジルガルデスに殺された……」



ルーフェウスの言葉に唇を噛む、この場に居ない時点で察して居た……彼女は死んだのだと。



「いつ?」



「二度目の戦いです」



絶対に死なないと約束した癖に……私に勝つまで死ねない、そう言ったのに。



「バカエレナ」



涙を堪える、今は泣いてる場合では無かった。



昨日アウデラスが偵察の際に用意した侵入経路で隼人達が待っている……侵入時刻が迫って居た。



「ルーフェウス、絶対に死なないで」



その言葉を残しアルテナは集合地点へと向かった。



去って行くアルテナを背を見つめルーフェウスの表情は曇った。



「それは……出来ませんお嬢様」



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「大事な日に遅刻とは感心しないわね」



「ごめんごめん、少し考え事してたら遅れちゃった」



冷たいアルラの視線が突き刺さる、戯けて返すがアルテナの心は全く落ち着かなかった。



「それより作戦は覚えてるんですか?」



「大丈夫、アウデラスと隼人が正門で陽動、そのうちに私達が外壁の壊れた場所から侵入でしょ?」



その言葉にアルラは頷くが不機嫌、恐らく隼人の配置に納得行っていないのだろう。



「アルラ、俺なら大丈夫だ、いざとなればアウデラスも居るしな」



「お任せくださいませ」



そう言いアウデラスはお辞儀をする、それでもアルラは不機嫌だった。



「あの人本当に隼人の事好きなんだね」



「そうね」



壁にもたれるシャリエルに言葉を掛けるが彼女も何故か不機嫌だった。



決戦前だと言うのに団結感が無い……全く呆れる、だがこれ位の方が緊張感も解れて良いのかも知れなかった。



「そろそろ実行するか……お前ら、死ぬなよ」



「お互い様ね」



隼人とシャリエルは拳を合わせる、彼女の表情を見て気が付いた。



「本当に……モテるね」



「なんか言ったか?」



アルテナの言葉に隼人は反応するが首を横に振った。



しかしシャリエルとアルラが隼人の事を好きなのは意外だった、顔は普通……特別惹かれる物を持ってる訳でもない……強いて言えば優しく、怖いまでのお人好しと言うこと位だった。



何故彼は見ず知らずの私を助けるのか……少し旅をしただけなのに……恐らくシャリエル達はそんな所に惹かれたのだろう。



まぁ、隼人が女性だったら求婚していた。



「アルテナ、早くして下さい」



アルラの言葉に椅子から立ち上がる、もうすぐ作戦が始まる。



ジルガルデスと戦えるだけの力はつけた、それに仲間も居る……落ち着き、自分の役目を果たせば勝てる。



なのに何故こんなに不安なのだろうか、アルラ達の強さは近くで見た私が一番知っている……だが胸がずっと騒ついて仕方なかった。



何かを見落としている……そんな気がしてならなかった。



「アルテナ、早く行きますよ」



アルラの催促に歩く足を早める、気の所為だ……そう考えは胸の中にしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アウデラス、準備は良いか?」



「はい、いつでも」



城門に立ち刀を抜く、突然の訪問者が刀を抜いた事に衛兵達は驚き戸惑っていた。



なるべく衛兵達は殺さない……だが先手は打つ。



「アウデラス、衛兵を頼む」



「お任せ下さい」



その言葉を発して数秒足らずで衛兵達を気絶させる、彼らは洗脳されている可能性もある、殺す訳には行かなかった。



だが先手は打つ、俺達は飽く迄も陽動、派手に注意を引きつける必要があった。



「リカ、最高の一発を頼むぜ」



『任せて下さい!』



刀の魔力が増大して行く、最高の一発とは言ったが幾らなんでも魔力が溜まりすぎな気がした。



「大丈夫だよなリカ?」



『ぶっ放しますよ!!』



その合図と共に刀を軽く振る、すると刀に込められた魔力が氷結魔法となり、城の半分を吹き飛ばした。



あまりの威力に呆然とする、いくら最高の一撃とは言えこれはやり過ぎだった。



衛兵が無事だと良いが……この威力を見る限りそれは叶わぬ願いかも知れなかった。



「これは何事ですか?」



女性の声と共に発動した氷魔法が溶かされて行く、気の所為か周りの温度が上がっている様な気がした。



「状況を見る限り敵襲と考えた方が良いですね」



髪の赤い少女……彼女がミリスティナなのだろう。



氷を溶かしたのを考えるとかなり強力な炎魔法を使う……相性は最悪、リカは使えなかった。



『私の出番は無さそうですね』



心を読んだらしい、だがその通り……かなり高位の炎魔法使い、リカの氷魔法と同レベルかそれ以上だった。



「あんたはミリスティナか?」



「どうして私の名を?」



この反応、ビンゴだった。



「シャルティンを知ってるか?」



「……あのお方とどう言う関係か分かりませんが、敵だと言う事はわかりました」



そう言い剣を構える、赤く炎を纏った剣……リカとは正反対の剣だった。



彼女はシャルティンと繋がっている、それだけでも大きな収穫だった。



「どうしますか隼人さん」



「隼人……お前があのアルセリスか?」



アウデラスの言葉にミリスティナは反応すると驚いた表情を見せた。



シャルティンから何か聞いている様だった。



「リリィという名を知っているか」



雰囲気が変わる、辺りの温度がより一層上がった。



リリィの名を口にした途端……何かありそうだった。



「知ってる……そう言ったらどうする?」



その瞬間、彼女の目に火が灯った。



やる気を出した時などの比喩では無い……本当に瞳の中に火が灯った。



「焼き殺す」



「これはヤバそうだ」



彼女の怒りに火をつけたらしい……リリィが何をしたかは分からないが何にせよ、彼女を倒す事に変わりは無かった。

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