第215話 復讐前夜

「ようやく……ジルガルデスに復讐が果たせるのですね」



とある地下にある酒場のアジトに集まるレジスタンスの人々はアルテナの姿に様々な反応を示して居た。



ある者は泣き、ある者は嬉しさを爆発させ喜び……それ程までにジルガルデスの支配は酷い物だった。



「人気者だなアルテナは」



レジスタンスの皆んなに囲まれ揉みくちゃにされて居るアルテナを端っこの席から眺める、彼女の困惑する表情は初めて見た。



「王女とは流石に思わなかったわね」



「あぁそうだな、何か隠して居るとは思ったがまさか王女とはな」



「あんたも厄介な奴に良く絡まれるわね」



そう言い酒を飲む、俺の記憶ではその厄介な奴の記念すべき一人目がシャリエルなのだが……まぁ言わない方がいいだろう。



「隼人さん、調査を終え帰還しました」



アウデラスが隣の席にいきなり姿を現す、まだ1時間弱しか経って居ないのだが、仕事が早い男だった。



「どうだった?」



「そうですね……情報量が多いので何から伝えましょうか……」



曖昧な質問にアウデラスは少し困った表情をする、だが何か良い言葉を見つけたのか、直ぐに口を開いた。



「凶悪、その言葉がよく似合う人物でした」



「凶悪……か」



「はい、少しでも気に入らない事があれば直ぐに一人を除き側近でも殺す……あれ程残酷な男は初めて見ました」



アウデラスにそこまで言わせるジルガルデスと言う男……ますますシャルティンと繋がっている可能性は濃くなった。



「そう言えば処刑対象に入らないその一人は何者なんだ?」



そこまで残酷な男に処刑されないとなるとジルガルデスよりも上の立場なのか、もしくは大切な存在なのか……正直後者はあまり考えられなかった。



「正直よく分かりません、髪は赤く、名はミリスティナと呼ばれていました」



「ミリスティナ?」



聞いた事ある様な気もするのだが……気の所為だろう。



「ジルガルデスとミリスティナ、今の所脅威になりそうなのはこの2人、その他は雑兵、数は100程度です」



「なるほど……」



少ない、思っていたよりも戦力がずっと少なかった。



100程度ならレジスタンスの30人に加えて国民が団結すれば余裕で倒せる……だがそれをして無いという事は余程ジルガルデスとミリスティナが強いのだろう。



ジルガルデスはまだ良い、厄介なのはミリスティナの存在だった。



どんな力を使うのか全く分からない、アウデラスの偵察が無ければ戦況は大きく変わっていたかも知れなかった。



「アウデラス、ありがとう」



「いえ、私にできる事があれば何なりと」



そう言い姿を消す、そして何処から持って来たのか、ティーセットを片手に再び姿を現した。



「申し訳ありません、肝心な事を忘れておりました」



「肝心な事?」



「はい、明日は兵士達の休日らしいのです」



「兵士達の休日?!」



思わず驚きで声が大きくなる、劣悪な環境下にあるこの国の兵士に休暇が与えられるなんて信じられなかった。



「横から失礼します隼人様、アウデラス様の言う通り明日はこの国がジルガルデスに支配された日……それ故にその日だけは彼も兵士達に哀れみの休暇を与えるのです」



隼人の声を聞いたのか、ルーフェウスが捕捉する、丁度良く明日が休日と言うのは不自然だった。



「明日、皆死ぬ覚悟で居ました……ですがそんな中皆様が、アルテナ様が現れました、あなた方は希望、改めて……明日の戦いをお願いします」



土下座をし懇願するルーフェウス、俺たちが来る前から決めていた事の様だった……それに、護衛隊団長の土下座をレジスタンスが居る前で断る訳にも行かなかった。



「アルテナにも頼まれてる、任せてくれ」



隼人の言葉にレジスタンスのメンバーは喜びを見せる、だが隼人の中にはずっとすれ違い様、少年に言われた一言が引っかかって居た。



目に映る者が正しいとは限らない……何のことを言っているのか、ジルガルデスかミリスティナのどちらかが幻影魔法の使い手なのだろうか……分からない。



「アルラ達はどう思う?」



少年に言われた一言をアルラ達に伝え意見を貰おうとする、一人では全く何が何やら分からなかった。



「目に映る者が正しいとは限らない……ですか、状況からはルーフェウスを信じるなとも取れますが」



「言葉だけじゃ情報が足りないわね」



アルラとシャリエルも同様の反応だった。



「だめだ、余計に混乱するだけだな」



撹乱が目的で言った可能性もある、今は明日に備えて準備をし、言葉は頭の片隅に置いておいた方が良さそうだった。



「それにしても、あいつら大人しくしてるんだろうな……」



置いて来たオーフェン達への心配が尽きない、守護者達はまだ良いがオーフェンとユーリが勝手に行動しそうで心配だった。



「大丈夫……とは言い難いですね、唯一まともなのはフェンディルとサレシュくらいですからね」



微笑みアルラが言う、まともな奴の方が少ないなんて今思えばおかしな物だった。



「明日に備えて早く寝なさいよ」



談笑をする隼人達にそれだけを告げ寝床へと向かうシャリエル、そろそろ寝た方が良さそうだった。



「それじゃ寝るか」



「はい、おやすみなさい隼人さん」



アルラと廊下で別れるとそれぞれの寝室へと入る、リカをベット脇に立て掛けると座り伸びをする、一人になるのは凄く久し振りの気がした。



連戦続きで感覚が麻痺して居たが常に死が隣にあるのを思い出した。



明日、俺は死ぬかも知れない……だが恐怖はそれほど無かった。



何故恐怖がそれ程無いのかは分からない、感覚が麻痺でもしたのだろうか……だが今はそれで良かった。



ジルガルデスを前にして震えて戦えないなんて論外だった。



「そろそろ明日に備えて寝るか……」



大きくあくびをすると隼人は布団に入り、ゆっくりと目を閉じた。



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「そろそろ寝ないと行けないね……」



明日の攻撃に備え城の地図を頭に叩き込み、何通りもの作戦を考え、気が付けば皆就寝して居た。



明日はそれ程早い時間では無いとは言え、旅の疲れもある……皆んなが生きて居たのが嬉しくて疲れているのも忘れていた。



4年前の戦いで失った人の方が多いとは言え、生き残った知り合いも思ったより多い……正直ホッとして居た。



とは言え、明日の戦いでどれだけの人が死ぬか分からない……もしかしたら自分が死ぬかも……だが悲願の為なら仕方なかった。



ようやく此処まで来たのだ……長い旅路だった。



幾人と出会い、そして別れて来た……人の死に慣れつつもあった。



皆んないい人だった、特にレヴィリア……旅の冒険者だった彼女とは特に仲が良かった、人と深く関われば別れが辛くなる……もうあんな思いはしたく無かった。



「明日……全てを終わらせる」



その為に力を付け、その為に旅をした……それがようやく明日報われるかも知れない。



いや、報わせて見せる……それが私の最後の役目だった。

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