第219話 油断

「やっぱ一筋縄じゃ行かないな」



無数に降り注ぐ火の雨、無限にも思えるミリスティナの魔力……簡単な戦いでは無いと思って居たが予想以上にやり難い敵だった。



「近接主体の私には少し分が悪い相手ですね」



燃えた手袋を脱ぎ捨てアウデラスは言う、一定の距離を保ち近づく隙すら無いミリスティナの戦い方はアウデラスに取って最悪の相性、必然的に俺が主体で戦い隙を作るしか無かった。



「とは言え、あいつの魔力いつになったら尽きるんだ?」



ウルスの様な理不尽で圧倒的な強さとはまた別、今のところ大きな一撃は無いが絶えることのない連続した波状攻撃が厄介だった。



「お前達に付き合ってる暇は無いんだよ!」



苛立ちを露わにし火力を上げる、勝負を急いでいる様子だった。



「何か急ぎの用でもあるのか?」



隼人の質問に何も答えない、だが焦って居るのは確かだった。



ジルガルデスが倒されたのか……もしくは彼女の無限にも思える火炎魔法に関する何かしらのリミットが迫って居るのか……どちらにせよ攻撃が単調になり、少しずつ隙が出来て居た。



「アウデラス、隙が見えたら行けるか?」



「……はい」



返事をするまでに少しだけ間があった。



何かを気に掛けている様子、だが既に生成した雷の槍を右手に攻撃の準備は整って居る、尋ねはしなかった。



燃え盛る炎が視界を遮る、だが感じる気配と魔力を頼りに位置を絞り出し、そして雷装と魔法で最大まで身体能力を強化すると槍を力任せに放った。



炎の海を割り槍はミリスティナの肩を貫く、位置が少しずれたがアウデラスはその隙を逃さなかった。



「距離を詰めれば……此方の勝ちですよ」



アウデラスはミリスティナを地面に倒すと腕を後ろで曲げ拘束する、接近戦はやはり弱い様だった。



「私を殺すか?」



拘束されてもミリスティナはそれ程焦っては居なかった。



「やけに余裕ですね」



「こう見えても焦ってるよ」



そう言うが依然として表情は涼しいままのミリスティナに違和感を感じずには居られなかった。



「何か策でも隠してるのか?」



「いえ、魔法を発動しようとすれば直ぐに分かります、何も出来ない筈です」



その言葉にミリスティナは笑みを浮かべる、そして次の瞬間アウデラスは彼女の腕を離した。



「どうしたアウデラス?」



「離れて下さい隼人さん!」



その言葉と共に隼人を突き飛ばす、その手は酷い火傷を負って居た。



「初めて使うけど……人間爆弾とでも名付けようかな」



その言葉と共にミリスティナを中心に大爆発が起こる、アウデラスに突き飛ばされた隼人は爆発の中心から逃れるも、爆風を受け吹き飛んだ。



完全に油断した、近づかせず中距離で戦い、捕まってもなお余裕だったのはこの爆発を狙って居たから……アウデラスが庇ってくれなければもろに受けていた。



「アウデラス!無事か?!」



黒煙が視界を遮り安否を確認出来ない、アウデラスに限りあの程度の爆発で倒れるわけが無い……そう自分に言い聞かせて居た。



「アウデラス!!」



「無事……とは言い難いですが生きては居ます」



黒煙からよろよろと姿を表す、全身に酷い火傷……かなり危険な状態だった。



「リリィに見せないとまずいな……」



ミリスティナの気配を探るが感じない、相当リスクのある技なのか……追撃は無い様子だった。



だが今は好都合、アウデラスは一刻を争う状態だった。



「アウデラス、少し我慢してくれ」



「申し訳ありません」



申し訳無さそうに謝る、謝りたいのはこっちだがそれは彼が回復した時に言いたかった。



「捕まってろ」



雷装を身に纏いアウデラスを担ぐ、そして足に力を込めると隼人はアナスティアの街を高く舞い、その場を後にした。



「ようやくリリィと会えるのね」



隼人の去って行く背中を見つめ呟く、恐らくあれ以上戦っても彼らはリリィの居場所を吐かない……それなら敢えて逃がし、回復役のリリィの元へ案内させた方が効率が良かった。



「ジルガルデスが倒された様ですね」



鎧の音と共に一人の男が背後から話しかける。



「別にどうでも良い、私の目的はリリィを殺す事、この国もあんた達にも何の感情も抱いてないから」



顔を向ける事もなく冷淡に告げる、その言葉に男は笑って居た。



「酷い人だ、仮にも仲間だったと言うのに……あまり無茶はしないで下さいね」



その言葉にミリスティナは鼻で笑うと後ろを振り返った。



「よく言うよ……酷いのはお前だろ、ルーフェウス」



「そうでしたか?」



ミリスティナの言葉に笑うルーフェウスがそこには居た。



アナスティア王国、王護衛隊団長のルーフェウス・アルガード、この国を真に支配して居たのは彼だった。



ジルガルデスはただの駒、シャルティン様から授かった力で大切な人を人質に取り、悪役を演じさせるだけの駒に過ぎなかった。



シャルティン様から彼のサポートを頼まれただけの私に取っては何が目的でこの国を支配し、荒廃させたのかは理解出来ない……ただ生粋のクズという事だけは分かって居た。



「しかしジルガルデスも使えませんね、人質がどうなっても良いんでしょうかねぇ?」



「あんたの事だからどうせもう殺してるんだろ?」



その言葉にルーフェウスは気持ち悪い笑い声を高らかに上げた。



「はい!ジルガルデスの脅した次の日には、私が約束を守るなんて笑止千万……まぁシャルティン様の言う事なら守りますが」



ルーフェウスの言葉を聞き流しながら隼人に掛けた探知魔法で位置を探る、そろそろ街を出そうだった。



「何でも良いけどこれからどうするの?」



「貴女はリリィ、俺はアルテナに復讐を果たしに行きましょう」



そう笑みを浮かべながらルーフェウスは告げる、彼の目的を4年目にして初めて聞いた。



アルテナへの復讐……少し意外だったが特に気には留めなかった。



私の目的はリリィを殺す事……それだけなのだから。

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