第208話 真実

アルラが無言になって10分以上が経過していた。



打ち明けた真実をまだ受け止めきれて居ないのか……何の沈黙かは俺には分からない、胸中穏やかでは無かった。



「騙してたんですね、隼人さんなんて……嫌いです」



沈黙の後のアルラの言葉はそれだった。



覚悟はして居た……俺も知らなかったとは言え疑問を感じて居なかった訳では無い。



だがその問題を放置して居た……そのツケが今やって来たと言う訳だった。



だがずっと一緒に居たアルラにその言葉を言われるのは流石に耐え難い物があった。



「そう……か」



空を見上げる、雨が降ってくれて居て助かった……涙を誤魔化せる。



思い返せばずっと彼女には助けられっぱなしだった、いつも側に居て……守ってくれて居た。



だが逆に心配でもあった、ずっと側に居てアルラのプライベートな時間など無かった、俺に縛り付けられて居るのではないのか……そう考えた時もあった、俺から解放される、そう考えると幾らか気持ちは楽だった。



「そうか……今まで、ありがとうな」



『隼人さん……』



隼人と心が通じているリカには痛い程の悲しみが流れ込んできて居た。



アルラに頭を下げて礼を言う、他の守護者達にも伝えなくては行けなかった。



フラつく足で街へと向かおうと足を運ぶが背後から服を引っ張られ動けなかった。



「冗談でず……嫌いなんかじゃないでず」



後ろを振り向くと見た事のない、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたアルラが服を引っ張り何度も謝って居た。



「冗談って……お前」



「オーフェンが冗談も言わない堅い奴は嫌われるって……」



涙を拭きながら答える、確かに堅いとは思って居たが……タイミングが最悪すぎる。



コミュニケーションが苦手とは言え最悪の状態での冗談、だが嘘と分かったのに加えてアルラの初めて見る情け無い表情……一気に安心したせいで足に力が入らなかった。



「本当……馬鹿だなお前」



初めて人間らしいアルラの一面を見た、こうして泣いて居れば普通の美少女だった。



「アルラは怒ってないのか?」



「困惑はしました、ですが隼人さんが私に全てを明かしてくれたあの時……既に貴方の為に命を賭けると誓って居ますから」



「そうか」



アルラの頭を撫でる、彼女は嬉しそうな表情をして居た。



彼女が俺に忠誠を誓ってくれているのは充分に分かった、だが謎はまだ残っている。



それは何故アルラがそこまで俺にそこまでしてくれるのか……と言う謎だった。



俺に好意を抱いて居るのだろうか、頭を撫でた時の反応もそれに近しい……だがそれはそれで謎だった。



いつ、どの時にアルラは俺に好意を抱いたのか、特別な事は何もしていない気がする……ルックスも特別カッコいいと言う訳でもない、好かれる理由が無かった。



「どうされましたか?」



アルラは隼人の顔を見て尋ねる、泣き止み落ち着いたのか、普段通りのアルラだった。



多少感情が豊かになって居るがいつも通り……他の守護者達も彼女と同じまで行かずとも仲間のままである事を祈るばかりだった。



『大丈夫ですよ隼人さんなら』



「そう言ってくれるとありがたいよ」



リカにそう言うと再びアルラの肩を借りる、距離がグッと縮まった様な気がした。



特に言葉を交わす事もなく街へと向かう、そして街が見えて来ると同時に入り口で待機して居る守護者達の姿が見えた。



久し振りに見る守護者達の顔……変わって居なかった。



シャルティンを倒す為に集められた最高の実力者達……改めて彼らを見ると圧が半端なく強かった。



味方であれば頼もしい事この上ない……だが、それを決めるのはこれからだった。



待つ守護者達の前に向かうと息を吸い込む、伝える事は単純、そして願いも単純だった。



「俺はお前達の本当の主人では無い……もう従う理由も無い、これは榊隼人としての願い……ウルスの約束を果たす為、シャルティンを倒す為に……仲間となってくれないか」



隼人の言葉に守護者達は驚いて居る様子だった。



長く共にしたアルラはともかく、他の守護者からすれば今ここに居る隼人と名乗って居る青年すら誰か分からない筈……困惑するのも無理は無かった。



「隼人様は……アルセリス様の中身と言う事ですか?」



何処からとも無く姿を表したアウデラスが尋ねる、少し違った。



隼人は訂正すると共にウルスの記憶で見た真実を全て守護者達に伝える、すると困惑はさらに大きくなって居た。



「レイ様が私達の知っているアルセリス様で、隼人様は二代目……流石の私も少し混乱しますね」



アウデラスが難しそうな表情で言う。



「そう、俺はお前達を結果的に主人と騙して居たことになる……だから頼みとは言ってもお前達には何のメリットもない、聞く義理もな」



「と言われましてもね」



リリィが口を開く。



「俺達は世界から逸れた者たち」



「自由になったとこで帰るとこも無いしね」



フェンディルとレクラが共に顔を見合わせながら口を開く。



「それに、話しを聞いた限りシャルティンはレイ様を殺した、私たちにも戦う理由が出来ました」



そう告げるアウデラス、信じられない言葉……思っていた反応とは全く違った。



「仲間に……なってくれるのか?」



「勿論です、私達は隼人さんと共にシャルティンを倒す為、お供します」



アウデラスの言葉を合図に守護者達は片膝をつき敬意を示した。



こうも都合良く話が進むとは思わなかった、時間にして10分程度……罵倒も覚悟していたのだが。



「隼人さんは自分が思ってるよりも周りに好かれ易いのですよ」



そうアルラがにこやかに言う、その姿を見てレクラが驚いた表情をしていた。



あの冷血な鬼と言われたアルラがあんな笑顔を見せて居ることに驚きを隠せず、笑いそうになっていた。



「アルラ殿も随分変わられましたね」



「そうですか?」



「だいぶ変わったよ」



アウデラスとレクラの言葉に少し困惑していた。



「何つーか、化け物揃いだな」 



集結したアルカド王国のメンバーを見てオーフェンは呆気に取られる、隼人と出会ってから化け物を見て、戦い続けて来たが此処にいる彼らはそれを凌駕する化け物だった。



「ほんと……味方で良かったよ」



安堵のため息を吐き呟くオーフェンは他所に隼人はシュリルの姿を探すが何処にも見当たらなかった。



すると他愛も無い話しをして居る守護者達ので輪から少し離れた場所で空を見上げて居るユーリの姿が視界に入った。



「なぁユーリ……」



「シュリルは死んだっす」



「え?」



隼人の気配に気が付いたのか、ユーリはそれだけを端的に告げた。



「死んだって……」



「私が殺したっす、後悔はして無いっすよ、それにシュリルのことは嫌いだったっす」



完全に強がって居た、何故シュリルを殺す事になったのかは分からない……彼女に掛けられるのは言葉のみだった。



「辛かったな……」



「別に辛くなんてないっす」



「お前ら仲良かったもんな」



そう、嫌いや何や言っても、喧嘩をしても結局……仲が良かった、お互いがお互いの事を好きだった。



思い出が蘇って来る……一度別れは告げた、もう泣かないと決めた筈なのに。



涙が溢れて止まらなかった。



いつしか周りは静かになり、隼人の腕の中で泣き喚くユーリの声だけが響き渡って居た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「動け……ない」



マリスとの戦闘があり更地と化した街の地面に寝転がり雨に打たれ続けるシャリエル、アクトールの力を使い続けた影響なのか、全身が激しい筋肉痛に襲われて居た。



「あの人、最低限しか治療してくれませんでしたね」



シャリエルに治療を続けながらサレシュが言う、リリィから受けた治療は瘴気のみだった。



この筋肉痛も知って居た様だがシャリエルの苦悶の表情を見て満面の笑顔で去っていった……あれは正真正銘のドSだった。



だが筋肉痛よりもずっと気になる事があった。



「アクトール、記憶が消されて居るってどういう事なの?」



アクトールが戦闘中に言った記憶の事、私の記憶が消されて居る……一体誰の為に、何の目的で消されて居るのか……色々と気になることがあった。



『そう言えばそんな事を言ったな』



思い出したかの様にアクトールが言う。



「言ったわよ、それで、どう言う事なの?」



『記憶が消えて居ると言っても小娘、お前だけの記憶ではないぞ』



「私だけでは無い?」



『そうだ、これは……特定の人物の存在を忘れる世界規模の記憶消去だな』



特定の人物……ますます分からなかった。



「誰の事なの?」



『まぁまて、今思い出させてやる』



そう言いアクトールは実体化するとシャリエルの頭に向けて雷を発動させた。



その瞬間に思い出す、記憶から消されて居た大事な人の記憶を。



「なんで……忘れてたのよ」



命懸けで、必死に私を救ってくれた命の恩人……私がずっと探して居た人は意外と近くにいた様だった。



「隼人……貴方だったのね」

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