第207話 ウルスの記憶

雨が降り頻る森の中、ウルスとシャルティンが戦っていたであろう跡地にアルラの肩を借りて隼人は立っていた。



「これがあのウルスなんて信じられないですね」



地面に転がる何とも形容し難い人の形をした何かを見つめてアルラが呟く、ドッペルゲンガーが忌み嫌われて居たのは知っていたがこの姿が原因なのだろうか。



「裏切った理由も話さず死にやがって……」



ウルスが最後に見せたルースの姿……あれがずっと引っかかって居た。



何故……あの姿で俺を鍛えてくれて居たのか、殺そうと思えば殺せた筈……ウルスは裏切って無かった?



今思えば守護者達も洗脳されて居ただけ、何のために裏切った様に見せ掛けて居たのか……分からなかった。



「隼人さん、ウルスの手に何か魔法を感じます」



そう言い隼人を支えながら刀を抜く、罠を危惧してなのだろうが罠では無いような気がした。



「アルラ、多分大丈夫だ」



ウルスが残した最後の魔法……何か手掛かりになるかも知れなかった。



「最後に遺したもの、見せてもらうぜ」



痛む身体をゆっくりと屈ませるとウルスの堅く握られた拳を開かせる、その瞬間辺りが光に包まれた。



『貴方ならこの手を開いてくれると信じてました……隼人様』



ウルスの声が頭の中に響いて居た。



『今から見せるのは私の記憶、情報の全てです』



時は隼人がウルスと戦う2日前、シャルティンが接触して来た日まで遡る。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



記録魔法……起動。



その声と共に記憶は始まった。



「ウルスと言ったかな、私はシャルティン、単刀直入に言うと仲間になってくれないかな?」



そう言い手を差し出すシャルティン。



突然の申し出、何処の誰かも分からない奴に裏切れと……普通なら戦闘になりかねない状況……だが私は彼を知っていた。



シャルティン……彼自体の正体は知らない、ただ彼とは100年程前に戦っていた。



あのお方と共に……アルセリス、いえ……隼人様に仕える前の主人と共に戦って居た。



名をレイ様と言う。



初代アルセリス様とでも言うべき人……隼人さんと同じ別世界から来た方だった。



この世界に来たばかりで何も知らない彼女と私は偶然出会った。



彼女は別の世界で会社員とやらをやって居たらしく、日々の労働に疲れ死のうと思って居た時にこの世界へと召喚されたらしい。



最初は別世界から来たと言う1000年以上生きて初めて見る現象に興味を惹かれ一緒に行動して居た。



だがどんな種族でも分け隔て無く接し、優しく気高いあのお方にいつしか惹かれて居た。



王国や帝都、あらゆる場所で人助けをする旅……決して平和な世界では無いが私達にとっては平和な日々だった。



だがそんな時にシャルティンが姿を表した。



私を殺して欲しいと……その為にレイ様に力を与えて召喚したのだと、彼はそう言っていた。



そしてその日から別の生活が始まった。



仲間を探しシャルティンを倒す旅が。



そしてアルラやフェンディル、今の守護者やアルカド王国が創られた。



その頃には既に鎧に身を包みアルセリスと名乗っていた故に正体を知るのは私のみと言う訳だった。



仲間を作り、シャルティンを協力して倒す……そんな時突然シャルティンが姿を表した。



レイ様と協力して戦ったが力及ばず、気絶し、気が付けば二人は消えていた。



死んだかはわからない、ただ残っていたのは大量の血痕と記録魔法だった。



『必ずシャルティンを討ってくれ』



それだけが残されていた。



それがあの方との約束……それからは帰って来るかも分からないレイ様の帰還を信じ、アルセリス様を鎧だけで動かし誤魔化した。



そして隼人さんがこの世界に来た……そこからの流れはご存知の通りだった。



シャルティンは憎むべき、殺すべき宿敵……だからこそ、あの方との約束を果たす為にも裏切り、内部を知る必要があった。



幸いにも私はドッペルゲンガー、100年前の戦闘の時とは姿が違う故にシャルティンにはバレて居なかった。



「分かりました……貴方についた方が賢明の様ですね」



差し出されたシャルティンの手を握る、こうして隼人さんを裏切り内部へと潜入した。



シャルティンを殺す、その事しか頭に無かった。



だが彼には隙が無かった、強力な従者を5人を従え、そのうちの一人は常にシャルティンの側に居る……強さで言えば私が勝てない程では無いが苦戦するレベルだった。



5人の従者のうちの一人、赤髪の少女は何故かリリィに強い殺意を抱いており、炎の魔法を使い戦う……と言う事くらいしか分かって無かった。



一年以上潜伏して分かったのは5人の従者を従えている事、そしてシャルティンには魔法の攻撃も物理攻撃も効かないと言う事くらいだった。



殺してくれと言う割には殺す術が無い……ふざけた奴だった。



基本的には自由行動、特に目的もない集団だった。



そんな時、シャルティンがとある遺跡へと入って行くのを見た。



元々隼人さんが目指していたあの遺跡だ。



『この先から言えません……私が出せる情報はこれだけ……どうか、シャルティンを、レイ様との果たせなかった約束を……果たしてください』



その言葉を遺し、記憶から現実へと引き戻される、あまりにも膨大な情報量に頭が混乱していた。



頭痛までする始末だった。



アルカド王国を作った初代アルセリスのレイ……シャルティンが俺を召喚した本人……訳が分からない、この世界はゲームの筈だった。



アルラもウルスも皆んなゲームで課金して手に入れたキャラ……そう思っていた……だが真実はレイの築き上げた物?



ならばアルラ達の忠誠は俺へのものではなくレイへの物なのか……遺跡の謎も残っている……もう頭がパンクしそうだった。



休みたい……だが、アルラに真実を話しておかなければなら無かった。



「アルラ……話しておかなければならない事がある」



「話し……ですか?」



深刻な表情の隼人にアルラも自然と表情が険しくなっていた。



言わなければならない……だが怖かった。



真実を言えば皆んな行ってしまうのでは無いのか……隼人の姿を明かした時とは訳が違う……主人と思っていた者が偽物だったのだ、だが言わなければならない、騙す……それだけはしたく無かった。



「アルラ……お前達の主人は、アルカド王国を作った人物は俺では無いんだ」

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