第197話 襲撃

どれほど時間が経ったのだろうか。



身体にはいくつもの傷跡、肉体も一目で分かるほどに変化している……一年以上は確実に経っていた。



だが修行は終わらない、時間は文字通り無限、師匠でもあるルースに一撃を当てなければ修行は永遠に終わらなかった。



だが強すぎる……アルセリスの力があったとしても勝てるか怪しい程の強さだった。



なんの理由で何のために俺を鍛えて居るのかは相変わらず分からない……かなりの長い時間彼女と一緒に居るが、厳しい性格以外素性は分からなかった。



「身体強化魔法の解放率は65%って所か、雷魔法は2位……こりゃまだ数年は掛かるかも」



かなり強くなった……だがその自信も打ち砕かれる程に意図も容易くルースは片手で攻撃を受け止める、彼女の言う通り、まだまだ時間は掛かりそうだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雨は止まない。



「隼人さん……大丈夫でしょうか」



窓の外を眺め30分前に散歩へと出掛けた隼人の身を案じる、吸血鬼の件もあり心配だった。



「雨の日は匂いが消えちゃいますから現在地は私も分からないっす」



ユーリの鼻も使えないとなると直ぐに見つけるのは困難だった。



「皆さん、何か……来ます!!」



隼人さんを探しに行こうと刀を杖代わりに椅子から立ち上がったその時、ユリーシャの街に仕掛けて居た感知の罠に誰かが引っ掛かる報告を受ける、このタイミングで敵襲……間が悪い。



「人数は!」



「それが……」



ユリーシャの表情は絶望に満ちて居た。



ゆっくりと窓の外を指差した。



人の形をした何か……人間では無い、それは確かだった。



「まさか……これは」



機械人形の兵隊……見覚えがある、マリスがいつか使って居た召喚魔法だった。



「マリスさんがこの近くに居るって事っすか」



かつての仲間……ユーリの表情は普段見せない程に険しくなって居た。



どうするべきか……マリス一人だけで来ている可能性もあるが別の守護者が居た場合オーフェン達をここに残してマリス本体を探しに行くのは危険、特にシャリエル達は戦力に数える事すら出来ないほどに守護者達と実力差があった。



「宿は完全に囲まれてます……この気味の悪い人形……本当にアルラさん達の仲間だった人の魔法なのですか?」



「気味が悪い?」



「ネクロマンサーだった父を持つ私だからこそ分かるんです……ただの人形じゃ無いです、人の死体を使った人形ですあれは……」



吐き気を何とか堪えながらユリーシャが言う、人の死体を使った人形……マリスの魔法の正体は知らなかった……今思えば街の人の気配がない、かなりの人数が人形にされたようだった。



正直この街の人間に興味は無い、ただ小さな街とはいえ数百人は居た……その数を相手するとなると……



「骨が折れそうね」



完全に囲まれている……今は隼人さんの安全を確保するのが最優先事項、この場に居る訳には行かなかった。



「アルラさん……守護者補佐の力舐めないで欲しいっす、行ってください」



「俺も一応英雄だからな」



ユーリとオーフェンが武器を構え一歩前に出る、マリスの本体が相手な訳ではない……彼らを、仲間を、信用してみても良さそうだった。



「頼みました!」



屋根を切り崩し外に出る、一面マリスの人形……本体が何処に居るか全く掴めない、それどころか隼人さんの位置も全く分からなかった。



まるで……この街、いや、この世界から居なくなったかの様に気配が感じられなかった。



「お久しぶりですね……アルラ様」



この声を聞くのも久しぶりだった。



「相変わらず服が派手ですね……マール」



「これが最新のファッションなんですよ」



そう言い戦闘には不向きのフリフリの服をくるっと一回りして見せつける、相変わらず性格は変わって居ない……仲間と言う意識が芽生え始めた今の私に元仲間と戦うのは少しキツかった。



だが……隼人さんを裏切り苦しめた、それだけで戦うには十分すぎる理由だった。



「ウルス様の為にも行かせて……」



指を鳴らしモンスターを召喚する、だが瞬きをしたその一瞬で召喚した筈のモンスター達は真っ二つに切り裂かれて居た。



「所詮守護者補佐……殺されなかっただけ感謝して下さいね」



そう言い刀を鞘に収める、ふとマールに視線を向けると気絶して居た。



だが少し不自然だった。



微かに喋れる程度に手加減はした筈、それなのに完全に意識が飛んでいた。



それ程にマールが弱かったのか、私が強くなり過ぎたのか……何にせよ片がついたのは確かだった。



「早く隼人さんを……」



「隼人……あの方はそんな名前だったんだね」



次から次に……次の相手はかなり辛そうだった。



「リリィ……何故隼人さんを裏切ったのですか」



その言葉に彼女は下を向いた。



「全ては……ウルス様の為」



そう言い光の槍を左手で握る、右腕が無いのは幸い……だがリリィの恐るべき点は驚異的な回復魔法、長期戦に持ち込み疲弊させ倒す、それが彼女の戦闘スタイル……短期決戦あるのみだった。



「何がウルス様ですか、一瞬で蹴りをつけます」



額からツノが生える、理性が吹っ飛ぶギリギリまで力を解放する。



「隼人さんを裏切った罪は重いですよ」



アルラの言葉にリリィは笑みを浮かべ、頷いた。

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