第193話 王の催し

ボロボロだった外観からは想像が出来ない程に手入れが行き届いた豪華な内装の古城に案内される。



辺りからは吸血鬼の気配がする、何故私だけが連れてこられたのかは依然として謎だが身を守れるのは自分しか居ない……ハルバードを強く握り締め直すと警戒をより一層強めた。



「お嬢さんの血は凄く美味しそうですね」



アイリスに背を向けながら唐突にカインが口を開く、その言葉に寒気が走った。



「一体何が目的なの」



「答えはこの扉の先にあります」



そう言い4m程の大きな扉の前で立ち止まるカイン、扉の向こう側からは微かに声が聞こえていた。



「さぁ、この扉を真っ直ぐに進んで下さい」



そう言い重々しい扉を軽々と片手で開ける、聞こえていた声が大きくなった。



無数の声……歓声だろうか。



「分かって居るとは思いますが拒否権はありませんよ」



「分かってる」



シャリエル達が人質と言う訳だった。



何をさせられるのか……ハルバードを落とした時に拾い上げたのを考えると戦いなのだろうか、だが何故私を選んだのか……疑問は尽きない。



扉を開けて居るカインの視線を感じ渋々扉の中に入る、すると扉は直ぐに閉まった。



「それでは……楽しませて下さいね」



その言葉を残しカインは去って行く、どんどんと遠退く足音……それとは逆に扉を進むと大きくなる歓声、戦闘は免れない様だった。



吸血鬼との戦闘……全くの未知数だった。



オーガなども鬼と呼ばれて居るがあれとは体格が違う……パワーやスピードも予測出来ない、知能が人並み以上にある所を考えると魔法を使うのは想像が出来た。



それに加えてオーガ種などの再生能力を備えて居ると考えると……



「厄介……」



正直戦いたくは無い、死ぬ確率の方が高い……だがシャリエル達の為、行くしか無かった。



長く感じる廊下を抜け、光が指す出口の前に立つ、聞こえて来る声……この先へ行けば戦いが始まる……覚悟を決めるしか無かった。



「大丈夫……大丈夫」



自分鼓舞し、一歩前に踏み出す。



眼前に広がる景色は一面吸血鬼、コロシアムの席が満員になる程の人数……此処まで数が居るのは想定外だった。



『今宵のご馳走が到着したようだ!』



聞こえてくる実況者の声、ご馳走……やはりそう言う目的で呼ばれた様だった。



『今宵のご馳走はアイリス、人間には珍しい白い髪に白い肌、美しい風貌はあのカイン様のお墨付きです!』



アイリスの紹介に会場はより一層盛り上がる、褒められて悪い気にはならないが状況が状況なだけに複雑な気分だった。



『今回行う催しは予めこちらで行った大会を勝ち抜いた5人の吸血鬼の戦士とアイリスが戦って貰います』



5人の吸血鬼と戦闘……分が悪いのは明らかだった。



『そして、見事勝ち抜ければ仲間は解放!しかし負ければ仲間もろとも食事となって頂きます!!』



こっちにメリットの無い理不尽な催し……ため息が出る。



『それでは早速……一回戦、いきましょう!!』



実況者の声に反対側の入場口から大柄な男が入って来る、身長は優に2mは超えて居る、だがカイン程の威圧感は全く感じなかった。



『彼の名はグラハード、殺した冒険者の数は18人、圧倒的なパワーの前には何者も無力!!』



どうでも良い情報が多い中パワータイプと言う情報だけが唯一敵の出方を予測出来る、同じパワータイプ……力比べという訳だった。



だが人間と吸血鬼、その身体能力の差は大きい、相手は見ての通り筋肉で固められた肉体、それに比べて私の肉体は女性にしては相当鍛えられて居るがそれでも人間レベル、限界は決まっている。



「ははっ、こんな美味そうな奴は久しぶりだな」



吸血鬼は指の骨を鳴らしながらアイリスの体を上から下まで眺める。



「人間の女にしちゃ相当鍛えられてるが俺たちから見りゃ貧弱だな」



そう言い勝ちを確信したかの様な笑い声をあげる、彼の言っている事は正しい。



だが……生身ならの話だ。



『それでは……戦闘開始!!』



実況者の合図にグラハードは地面を蹴り間合いを詰めて来る、魔法を使う様子は無かった。



舐めて使って居ないと言うのなら……有り難かった。



「その慢心……死んでから後悔して」



そう言いグラハードが振り下ろした右の拳をアイリスは片手で受け止めた。



「なっ……」



少女に渾身の一撃を受け止められた衝撃でグラハードの動きが止まる、隙だらけだった。



「首を切り離せば流石に死ぬよね」



グラハードが気付いた頃には首は地面に転がって居た。



「この俺が、一撃で……くそがぁぁ!!!」



最後に大声を上げ絶命する、コロシアムは騒然として居た。



『い、一体何が起こったのか、あのグラハードの一撃を片手で受け止め、一瞬にして勝負が決しました!?』



実況者も困惑している、無理もない。



生身の人間が吸血鬼の一撃を受け止めるのはかなり難しい、だが生身だったらと言う話し。



アイリスの両腕に付けられた筋力を底上げする腕輪に加えて筋力増強魔法、そして身体能力強化魔法が付与されているハルバードを合わせれば筋力は余裕で吸血鬼を超えて居た。



グレーウルフの鬼神と呼ばれる私にパワーで勝つのは不可能と言う訳だった。



とは言え……さすが吸血鬼、此処までバフを掛けても右手が痺れて居た。



『き、気を取り直して2回戦へ行きましょう!!』



あと四回勝てば解放される……道のりはそれ程険しくは無さそうだった。



「私ならやれる……」



もう一度自分を鼓舞し、ハルバードを握り締めた。

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