二人の出会い
第134話 出会い
迫り来るゴブリン、シャリエルの手には折れた剣だけ……絶体絶命のピンチとはまさにこの事だった。
初めてのクエストでこうなるのは流石に予想外、セルナルド領土の村付近に巣を作っているゴブリンの討伐の筈なのだが……巣は完成されたゴブリンも繁殖済み、話しが違った。
「流石にまずったわね……」
剣はゴブリンが作った粗悪な斧によりへし折られた、あの武器屋の店主は帰ったら殺す、こんなゴミに払った3千レクスを返して欲しかった。
とは言えそれは帰れたらの話、松明の灯りが疎らな感覚で並ぶ人が三人通れる程度の洞窟で優に10は超えるゴブリンに囲まれ逃げ道は無い……この数なら魔法を使えばなんとか切り抜けられるかも知れなかった。
「やるしか……ないわね」
壊れた剣を迫って来て居たゴブリンに投げつけると右手に小規模な火球を出現させる、そして近いゴブリンに投げつけるとあっと言う間に身体は炎に包まれた。
ゴブリンの断末魔が聞こえる、だが殺す罪悪感は無かった。
仲間が殺された事にゴブリン達は動揺する、下級魔法とは言えまだ連続発動は難しかった。
だがゴブリン達の陣形は崩れる、その内にゴブリン達の隙間を縫って走り出すと出口を目指した。
なんとか危機は脱した、あとは出口さえ見えれば……
だがそんな希望は簡単に潰えた。
入り口の光が見えたと思えば一瞬にして消える、入り口が閉ざされた訳ではない、行く手を阻むようにゴブリンの王、ゴブリンキングが立って居た。
「うそ……よね?」
銅タグの任務を受けた筈……だが目の前にいるモンスターはゴールドタグでやっと倒せるレベル、魔法もロクに使えない私が倒せる相手では無かった。
咄嗟に引き返そうとするが背後には既にゴブリン達が迫って居た。
出口にはゴブリンキング、後ろにはゴブリンの群れ……どう足掻いても逃げきれなかった。
打開策を考える間も無く出口方面を向くとゴブリンキングの無慈悲な拳がシャリエルの腹部を捉える、突然の衝撃に胃の中にあったものが逆流し、耐えきれず嘔吐した。
「うっ……」
体が吹き飛んで行かないようにゴブリン達がシャリエルを支える、既にゴブリンキングは二発目を構えて居た。
死への恐怖はあまり無かった。
だが……ライノルドへの恩返しが出来ないまま死ぬのだけは嫌だった。
「こんな……所で、死ねない……」
シャリエルの逆流物を食べ出すゴブリン達、こんな気持ち悪い奴らに殺されるのは嫌だった。
右手で再び炎魔法を発動すると炎を服に燃え移らせる、すると直ぐに服は炎上、シャリエルは火に包まれた。
「熱い、でも……」
ゴブリン達は炎に怯みシャリエルから距離を取る、すると咄嗟に燃え移った服を全て脱ぎ捨てゴブリンキング目掛け走り出した。
ゴブリンキングは唸り声を上げシャリエルを掴もうとする、だが動きが鈍かった。
左手をしゃがんで避けると右手の叩きつけをしゃがんだ勢いで転がり股をくぐり抜けゴブリンキングを躱す、そして出口へと一直線に走り抜けた。
「逃げきれ……た?」
洞窟から抜け出すと走りながら後方を確認する、追って来ては居ない様……だった。
安堵の溜息を吐きながら走るスピードを緩める、そして前を向こうとしたその時、何かとぶつかった。
「痛った!」
ゆるりとぶつかりシャリエルは尻餅をつく、顔を上げると其処には鎧を着た綺麗な金髪の少女が立って居た。
「え……露出狂?」
全裸のシャリエルを見てそう呟く、その言葉に自分が全裸なのを思い出した。
「み、見るんじゃないわよ!」
「そう言われても……」
ハハッと笑いながら頬を掻く、見られるのが嫌なのは変わりないが一先ず女性だったのは不幸中の幸いと言うべきなのだろうか。
「これ、一応私の着替えなんだけど……」
そう言い少女は少し安っぽいシャツとズボンを取り出す、シャリエルはそれを素早く受け取ると直ぐ様着替えた。
「悪いわね……」
パンツがない事に少し違和感を覚えるが借りてる身、多少は我慢しなければならなかった。
それに今は命があった事の方を安心するべきだろう。
「なんで裸だったの?」
シャリエルがひと段落ついたのを見ると少女は不思議そうに問い掛ける、その問い掛けにシャリエルは後ろの洞窟を指差し事の顛末を伝えた。
すると少女は心配そうな表情で告げた。
「取り敢えず内臓が心配だから治癒魔法掛けるね、其処に座ってくれる?」
そう言い木の幹を指差す、治癒魔法が使えるとは私とは大違いだった。
シャリエルは木の幹に背を預けると少女は治癒の魔法をかけ始める、するとスゥーっと痛みが引いていき、腫れも治った。
「ありがとう……」
見た所同い年の少女に此処まで助けられるのは癪だった……だが今は素直に感謝を伝えるとゆっくり立ち上がった。
「どう致しまして、貴女新人の冒険者?」
「えぇ……」
そう言いタグを見せようとする、だがタグを洞窟に落とした事に気がついた。
「タグ、落としたみたい……」
タグは冒険者である事を示す唯一の証明書、それを落とせば再発行は不可……タグを失うのは正規冒険者の資格を無くしたという訳だった。
「大丈夫、私が取って来てあげる」
その言葉にシャリエルは驚きを隠せなかった。
「で、でも洞窟にはゴブリンキングが!」
「大丈夫、私は天下のアーネスト・ファラン様よ」
そう言い胸に掛けたゴールドのタグを見せるアーネスト、これが彼女との初めての出会いだった。
背を向け歩いて行くアーネスト、タグを探しに行ってくれるのは有難い……だが悔しかった。
自分と同い年の人間が既にゴールドタグに到達している事実……年上でも悔しいがまだ年齢差を言い訳に出来る、だがアーネストに対してはどう足掻いても無理だった。
それなりに努力はしたつもりだった、ライノルドからも訓練を受けた……だが初めてのクエストでゴブリンに襲われ、ゴブリンキングの腹パンで嘔吐する始末、挙げ句の果てには全裸を見られた……もう呆れが通り越してもはや無だった。
「私も行かないと……」
アーネストだけには任せてられない……そう思い立ち上がった瞬間、洞窟の中から黒い何かが噴き出てくる、そしてその直後ゴブリン達の断末魔が響き渡り数分後にアーネストが出てきた。
「いやー、タグって小さいから探すのに苦労しちゃったよ」
そう言い右手に握られた銅色のタグ……情けなかった。
「……」
シャリエルのタグを差し出すアーネストの手から奪い取る様にタグを取るとシャリエルはその場から逃げる様に走り出した。
私はアダマスト級冒険者になると誓った……それなのに初クエでこの有様……不甲斐ない自分に腹が立っていた。
だがそれ以上に強すぎるアーネストへの怒りが強かった。
感謝しないと行けないのは分かっている……だが、どうしても悔しさが勝ってしまっていた。
「あっ……行っちゃった、可愛い子だったなぁ」
遠ざかって行く銀髪の少女を眺めながらアーネストは禍々しいオーラを放つ剣を鞘に収め呟いた。
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