第133話 受け入れられない現実

人でごった返す城内、皆顔に不安を浮かべている、家族を探し叫ぶ人、無くなった者の形見を手に涙を流す人……様子は様々、その中に見覚えのある白髪のサイドテールが揺ら揺らと揺れていた。



「アイリス!?」



思わず叫んでしまう、シャリエルの声は騒がしい城内にもよく通った。



周りは英雄となったシャリエルの声を聞き一斉にこちらを向く、そして数秒の静寂の後、国民は津波の様にシャリエル目掛け押し寄せて来た。



英雄様、私の孫が……


家族、友人が……


同僚が……



皆口々にシャリエルに助けを求めた。



身勝手だ、確かに私はこの国を救った英雄と言う事になっている……だが全てはアルセリスとアルラのお陰……私は何もしていない。



それに兵士や冒険者は下でまだ戦っている……それなのに何故彼らはここを動かないのか。



弱いから?



武器が無いから?



違う……兵士や冒険者、力がある戦う義務のある者に任せているのだ……吐き気がする。



「シャリエルさん無事だったんですね!」



アイリスよりも先にサレシュが人混みを掻き分けやって来る、元気そうな姿に少し安心した。



だがアイリスとサレシュは目の前にいるがアーネストはいくら探しても見当たらなかった。



彼女の事だからまだ救命活動をしているのだろうか……



「ねぇ、アーネストは?」



「それが……教会から脱出する時に逸れて」



深刻な表情で告げるサレシュ、一瞬何故なのか分からなかったが直ぐに理解した。



「アーネストは光魔法が使えない……」



「そうなの……アイリスと態勢を立て直して行こうって……」



サレシュの言葉も聞かずに私は気が付けば雷装を纏い地面を蹴り砕く勢いで飛び立っていた。



何故か流れていた涙……嫌な予感が止まらなかった。



街の大通りに遥か上空から着地すると衝撃で地面が砕けアンデット達が吹き飛んで行く、動きは鈍いが数は多い……光魔法無しではドラゴン討伐よりも厳しい……今は無事を祈る事しか出来なかった。



群がるアンデット達が近づく前に再び地面を蹴り砕き飛び上がると街の離れにある教会へと向かう、光魔法を記憶した魔紙は5枚……もう少しストックしておけば良かった。



属性魔法は基本的に相性の良い雷と氷が多くストックしてある、光はサレシュが闇はアーネストが使える故にあまりストックは無かった。



5枚でこの数のアンデットは捌けない……国民の数よりも余裕で多いアンデットの数……暗黒神の目的が分からなかった。



人間を殺す事が目的なのか……この大陸を征服する事が目的なのか……どちらにせよ迷惑極まりなかった。



教会を囲む森の中に隕石の如く落下するとアンデット達が吹き飛んでいく、此処にも居るとは少し気が滅入りそうだった。



雷装状態に光魔法を上掛けし、拳に光を纏う、どうせ一年後には死ぬ命……怖い物など無かった。



迫り来るアンデットの頭を殴り砕くと教会へと向かう、だが数が多過ぎてきりが無かった。



四方から迫り来るアンデット、幾ら殴り殺しても湧いて来る、この方法はあまり効率が良いとは言えなかった。



シャリエルは飛び上がり木の上に着地するとアンデット達の群れを眺める、少し高い所に居ればコイツらは登ってこれない……アーネストも同じ方法で助けを待ってる事を祈るばかりだった。



「とは言えこの数……私も少しヤバイわね」



私はどちらかと言えば大規模魔法よりもタイマンで真価を発揮する魔法の方が使用頻度は多い……と言うかそれしか使わない、故に大勢を相手する時の術を持って居なかった。



少し前まではアーネストの魔剣アイリーンが暗黒魔法で猛威を振るっていたが……やはり一人だと無力なものだった。



だがこうしてる間にもアーネストは危険に晒されているかも知れ無い……何か、何か策を考えなければならなかった。



手元には属性魔法と転移魔法、治癒にその他がチラホラ……あまり良い策は浮かばなかった。



アンデットを殺すのに必須の属性は光、だが光魔法は他属性と併用出来ない……右手に光、左手に他属性なら使う事は出来るがそれじゃ意味は無い……何か良い手は無いものか……ただ時間が過ぎるばかりだった。



その時森の中で真っ黒な闇の柱が少し遠い位置で上がるのが見える、凄まじい魔力がぶつかり合っている様だった。



「こんな魔力……アルセリスしか居ないわよね」



恐らくアルセリスがまた何かと戦っているのだろう。



だが今は悪いが彼よりもアーネストが先決……その時ふと、とある方法が思い浮かんだ。



単純だが確実……殺さなくとも動けなくすれば良いのだ。



幸いにも辺りは雨続きの所為なのか地面に十分すぎるほどの水が溜まっている……これなら魔力の少ない私でも行ける筈だった。



魔紙を一枚破るとシャリエルの手に氷が纏われる、魔紙の効果はこれだけ……だが私も魔力が無いわけでは無かった。



近くのアンデットを殴り氷結させると壁にする、そして地面へと手を下ろすと極限まで集中した。



シャリールが言っていた、魔法は極限まで集中する事でその効力を高めると。



「暫くの間……眠ってて」



シャリエルは目を開くと溜めた氷の魔力を一気に濡れた地面へと放出する、するとあっと言う間にアンデット達の足元を凍らせて行った。



アンデット達は凍った足の所為で動けずに居る、これで多少は楽になる筈だった。



「後でちゃんと成仏させてあげるわよ」



呻くアンデット達を横目にアーネストを探すべく走り出す、教会まではもう少し……一気にスピードを上げようとしたその時、横目に綺麗な金髪が入って来た。



「アーネスト?!」



急いで足を止める、辺りには何故かアンデットは居なかった。



剣を地面に刺し木を背にもたれるアーネスト、アンデットによる傷は無い様子だった。



だが呼び掛けには答えない……シャリエルはゆっくりと彼女に近づいて行った。



「アーネスト?冗談キツイわよ?」



シャリエルの声が震える、辺りには無数の足跡……頭ではそんな訳ないと必死に言い聞かせていた。



だがアーネストは答えない……確かな現実がそこにあった。



「嘘でしょ……ねぇ、アーネスト?」



何も喋らないアーネストの体を揺する、するとアーネストの体は力無く倒れた。



「アーネスト……」



アーネストの首には手で絞められたような跡が残っていた。



だがそんな傷よりもアーネストが死んだ、その事実を受け止められない自分が居た。



まだ……謝って居ないのに。



「いや、いや……」



降り続ける雨はより一層激しさを増す、アンデットの呻き声と雨の音が混じり合う森の中、死したアーネストの体を抱き抱え、悲痛な叫び声をあげるシャリエルの声がただ……響き渡って居た。

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