第126話 達成

淡い月を見つめながらルナールの死体を肩に担ぎ夜の草原をミリィと共に歩く、特に会話をすることも無く、2時間程無言の時が続いて居た。



ミリィが担ぐ麻袋の中には水晶玉程度の魔力のコアが四つ、ルナールの胸部に取り付けられた取り外す事の出来ないやつと合わせて五つだった。



ルナールの胸部に取り付けられた魔力のコアは何やら特殊な方法で取り付けられているらしく、無理やり取ろうとすれば腕が吹き飛ぶ仕組みだった。



効果はミリィで実証済み、どう外すのか……ウルスが居れば簡単なのだが、いかんせん魔法には疎い……さっぱり分からなかった。



それ故に死体を持ち帰るしか無かった。



死体を持ち帰るのは少し憂鬱だがこれもアルセリス様の為……仕方なかった。



「なぁ、一つ聞いて良いか?」



突然ミリィが口を開いた。



「何ですか」



少し不機嫌そうにアルラは訊ね返した。



「いや、お前が何でアルセリスを慕うのか……単純に気になってな、私に刷り込まれた記憶ではお前は誰かの下に付くような性格じゃないのでな」



何故アルセリス様を慕うのか、あまりにも突拍子な質問にアルラは直ぐ答えを返せなかった。



何故慕うのか……慕うのが当たり前になり過ぎて考えもしなかった。



鬼神化して居た時にアルセリス様と出会った、その圧倒的な力の前に私は負けた……そしてその後何と無く彼について行った。



今思えば今のアルセリス様と過去のアルセリス様……少し何かが違うような気がした。



性格、言動……少しずつ何かが違う、この世界を統一すると言う目標は変わらないが周りとその事でよく話して居た。



別人になった……と言うレベルでは無い故に皆気にして居なかったが今思えばウルスはその事を少し気にして居た……今回の裏切りがその真実に辿り着いたという事なのなら……アルセリス様は何か隠していると言う事なのだろうか。



「どうした?」



難しい表情をするアルラにミリィは不思議そうな表情で尋ねた。



「いえ、何でも」



アルセリス様の隠し事……例えあったとしてもどうでも良かった。



どんな隠し事でも私を救って下さった事は変わらない、私はアルセリス様に暴走状態を止めてもらった、20年間ずっと体力を、精神を削りながら発動した鬼神化を終わらせてくれた……その事実はどんな事があっても覆らない、慕う理由はそれで十分だった。



「貴女も時季に分かりますよ」



アルラはミリィにそう告げると月明かりが照らす草原を歩いて行く、その言葉にミリィは疑問符を浮かべつつも麻袋を担ぎ直すとついて行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「強いな……お前」



照り付ける太陽を仰ぎながらオーフェンは言う、生い茂って居た木々は長時間の戦闘で薙ぎ倒され、一部分だけ不自然に開けて居た。



「アンタも強かったよオーフェン……冗談抜きにな」



剣術、パワー、全てにおいてトップクラス、流石アダマスト級冒険者……守護者のフェンディルといい勝負が出来そうな位に強かった。



己の努力のみでここまで上り詰めれるのは素直に尊敬だった。



「ははっ、アンタ魔法使えるんだろ……この大剣が無けりゃ秒殺だろうよ」



「武器が良いからってズルにはならないさ、アンタは強い……本当にな」



自分が情けなかった、剣術で言えばど素人、ゲーム時代のジョブをカンストしたお陰で入るステータスが反映されているのかは知らないがそれ抜きにしても俺にはステータス共有のお陰で強い……何も努力などしてなかった。



それに対して彼はどうだろうか、己の実力のみで、努力のみでここまでの強さに上り詰めた……幾ら己で望んだ強さでは無いとは言え、申し訳無かった。



「なんだか浮かない雰囲気だな……俺に勝ったんだから誇れよな」



負けた筈なのに清々しい笑顔で告げるオーフェン、その表情にアルセリスは何か、心を突き動かされた。



「なぁ……俺に、剣術を教えてくれないか?」



「剣術?そう言えばアンタ身体能力は申し分無いが剣術はズブの素人の様だな」



「あぁ、恥ずかしい事に今までは魔法かパワー押しでどうにかなったもんでな、今後同レベルの相手で魔法も使えない……そんな状況が来れば確実に負ける、だから俺に剣術を教えてくれ」



アルセリスの言葉にオーフェンは少し難しい表情をした。



無茶な頼みなのは分かって居た、自分に勝った相手から剣術を教えてくれなんて悔しいに決まっている、スポーツで言えば自分より上手い子が教えを請うて居る様なもの、断られるのは承知の上だった。



だが、彼は違った。



「しゃーねー、教えてやるよ」



眩しいくらいの笑顔だった。



その発言にアルセリスは少しキョトンとして居た。



「ほ、本当に良いのか?」



「あぁ、その代わり俺にも魔法……教えてくれよ」



そう言い手を伸ばすオーフェン、まるで青春の一ページの様だった。



相手はおっさんだが。



アルセリスは手を掴むとオーフェンの身体を起こす、魔法を教える……と言っても俺は昔から教えるのが苦手だった。



それにこのアルセリスと言うアバターは何も考えないでも魔法が元から使えた、魔法の使い方など微塵も分からなかった。



とは言え今更断れるわけも無い……その時、あの魔女が脳裏を過ぎった。



シャリール、一応彼女を逃がす時、居場所が分かるようにサーチの魔法を仕掛けておいたのだ。



「とっておきの魔法使いが居るから……楽しみにしとけよ」



そう言いアルセリスはオーフェンに背を向ける、こんな所でアイツが役に立つとは思わなかった。



早速出発しようと辺りを見回す、リカの姿が無かった。



一日中戦闘をして居た故、彼女の姿は1日以上見て居ない、だが何処かにいる筈だった。



「リカ、何処にいる?」



一応呼びかけて見る、すると少し離れた木がガサガサと言い始めた。



そこに視線を移すと木の上に彼女で寝転んでいる姿を見つけた。



「お呼びですか?」



素早く木から降りると一瞬にして目の前に現れた。



「待たせて悪い、出発するぞ」



「はい、それでオーフェンの件はどうなりました?」



心配そうに尋ねるリカ、そんな彼女にアルセリスは親指を立てた。



「バッチリだ」



その言葉にリカは少し安堵した様な表情を浮かべた。



「それじゃあ行くか……オーリエス帝国に」



アルセリスはそう告げるとグッと伸びをした。

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