第125話 実力差

「さてさて、どちらからお相手になりましょうか?私的にはお二人でも大丈夫ですけど」



煽る様に笑みを浮かべ告げるルナール、どうやら舐められている様だった。



「アルラ、手ェ出すなよ」



剣を抜きながらルナールに近づいて行く、その姿にアルラはため息を吐いた。



「見え見えの挑発ですが……まぁミリィの実力を見るにはちょうど良い機会、私は観戦させてもらいますよ」



ミリィにギリギリ聞こえない程度の声量で呟くとアルラは少し離れた。



「貴女が相手ですか、手加減しましょうか?」



「ほざいてろ、数秒後泣きを見るのはお前だぜ?」



ルナールはイライラさせるのが得意な様だった。



だが言動では怒って居ても頭は至って冷静、相手の動向を伺いながら先に行動するかを考えていた。



一応腰に剣を携えているが使う様子は無い、主に魔法主体なのだろう、魔力のコアを付けているのがその証拠、だが今までの戦闘経験からして魔法使いだからと肉弾戦が苦手では無い……ミリィが様々な思考を巡らせている中、ルナールはただ笑みを浮かべ此方を見ていた。



飽く迄も自分からは動かない様だった。



「しょーがない……私から行ってやるよ!!」



剣を構え地を蹴りルナールの元へと突っ込んで行く、剣を抜く気配は無い、ミリィは剣を振り上げルナール目掛け振り下ろす、それでも彼はガードする様子は無かった。



剣はやがてルナールの頭部を捉える、だがバキッと言う音と共にミリィの握っていた剣は折れた。



「……」



一瞬折れた剣を見るがすぐさま後ろに下がる、まるで鋼……いや、鋼を切れる私からしたらもっと硬い何かだった。



「どうしましたか?」



「どうもしねーよ」



相変わらずスカした態度のルナール、腕が若干痺れていた。



恐らく硬化の魔法を使ったのだろう……魔力切れは期待出来なかった。



「それじゃあ次は……此方側から行かせて貰いますよ」



ゆらりと身体を動かすと一瞬で目の前に現れる、ルナールは拳を構え撃つ寸前、剣は折れている……腕でガードするしか無かった。



ルナールの胸部目掛け撃たれた拳を何とか腕でガードしようとする、だが170中盤の男からは考えられない程に重い一撃だった。



肋骨にヒビが入るのが分かる、150やそこらの身長しかない軽いミリィの身体は簡単に浮き、城外まで壁を吹き飛ばし吹っ飛んで行った。



強い……認めたくは無いが魔法を使えず、ただ身体能力が高く剣術が出来る私には敵うか分からなかった。



腕の骨は粉々になり肋骨にもヒビが入っている、だが立つ頃にはもう完治していた。



再生能力だけが取り柄……これは酷い戦いになりそうだった。



「実力差は分かりましたか?」



崩れ落ちた壁からルナールがゆっくりと出て来る、一先ず右腕を痛がるフリをしておいた。



「骨が砕けた様ですね……魔力のコアがある私は無敵……次は骨じゃ済みませんよ」



「良く躊躇いもなく女を殴れるなお前」



普通少しは躊躇するものだった。



「私はサディストですからね」



そう言い笑みを浮かべるとルナールは軽く踏み込む、そして地を蹴ると次の瞬間腹部に強烈なインパクトがあった。



ふと視線を腹部に移すとルナールの足がある、全く目で終えないうちに蹴飛ばされた様だった。



再生する余裕からか焦りはない、だが痛みはあった。



地面を転がり倒れこむ、再生しているのがバレないように少し蹲るとゆっくり立ち上がった。



「まだ立ちますか……強い人だ」



ふらふらとするミリィの目の前に立ち少し悲しげな表情で告げるルナール、完全に無防備だった。



それもそのはず、普通なら死んでもおかしくないダメージを負っているのだ、私じゃなきゃ死んでいる……彼は反撃の体力も残っていないと思っている筈だった。



だが瞬発じゃ勝てない……ヨロヨロと弱々しいパンチを顔面に打つ、その行為にルナールは嘆かわしい表情をした。



今がチャンスだった。



頬に打っていた右手の親指をルナールの目に突き刺す、指は深くめり込み彼は悲鳴をあげた。



「わ、私の……私の目が……目が!!!!」



ルナールはヨロヨロと後ろに下がる、やはり目までは硬化出来ない様だった。



動揺しているルナールに追撃を加えようと足を蹴り体勢を崩そうとする、だが硬化の所為でやはり倒れなかった。



寧ろ自分の足が折れた。



「このクソガキが!!」



ルナールは何とか見える左目を強く見開きミリィの首を掴む、掴む手は徐々に強くなって行く、だがミリィは苦しむ表情は一切見せなかった。



「んだよ……そんなもんか?」



「そんなに死にたい様なら殺してやるよ!」



挑発するミリィにルナールは荒れた口調で手に力を込める、そして次の瞬間辺りには血飛沫が飛び散り、そしてミリィは地面に倒れた。



「くそっ……スマートじゃない殺り方になってしまったな……ふぅ」



手についた血をハンカチで拭くと汚れたハンカチをミリィの上に捨てる、そして深く深呼吸するとルナールは落ち着きを取り戻した。



「さて、残すは貴女だけですね」



「硬い敵には不向き……アルセリス様に報告ですね」



ルナールの言葉に反応すら見せずミリィの元へと瞬間的に移動するアルラ、そして呟くとミリィの顔を叩いた。



「後始末は私が付けますからそのまま寝ててください」



「あいよ……」



殺した筈のミリィが言葉を発した事にルナールは驚き振り向く、傷は綺麗さっぱり消え、欠伸をしていた。



魔法で治癒できるレベルではない筈、再生能力……なのだろうか。



オーガ族は凄まじい治癒能力を誇ると聞いた事がある……彼女がそうであるのなら、殺意を此方に向けている彼女もまた。



「準備は整いましたか?」



ゆっくり、ぬるりと刀を抜き構えるアルラ、彼女と対峙した瞬間、恐怖を覚えた。



魔力のコアを付けてもらってから無敵と、怖いもの知らずとなった私が……こんな小娘に恐怖を感じたのだ。



放たれる威圧感、本当に少女なのか、感じる気配は歴戦の戦士そのもの……勝ち目が無いのは一目瞭然だった。



「す、少し待ってくれないか?」



「良いですよ」



意外にもルナールの言葉に応じる、彼女と戦うのは賢明な判断では無かった。



ルナール一族が築き上げた物は消えてしまったが最期の末裔の私まで死ぬのは許されない……それに魔力のコアは胸のやつと合わせて五つある……一つや二つ、命よりも安いものだった。



「て、提案したい、魔力のコアを二つあげよう……それで引いてくれないか?」



「二つ……ですか」



何に使うかは知らないが魔力のコアは貴重な物、一つあれば充分……それを二つやると提案したのだ、引き下がらない訳が無かった。



ルナールの顔には薄っすらと笑みが浮かぶ、だがアルラは首を縦では無く……横に振った。



「二つでは足りません、そうですね……五つ、魔力のコアを五つで妥協しましょう」



「五つ……?」



魔力のコアは胸のと合わせてちょうど五つ、これは安易に取り外し出来る物では無い……どうあがいても四つが限界だった。



「五つ……ですか」



空を見上げ息を吐く、もはやここまで……なのだろうか。



「覚悟は決まりましたか」



「あぁ……お前を殺すな!!」



視線をアルラに移すと魔力を全解放する、また溜めるのは面倒だが仕方なかった。



「魔力の全解放……余裕を持たず最初からやって居れば勝てたかも知れませんね」



耳元で囁くアルラ、刀を鞘に収めると背を向けた。



「何が起こって……」



視界が徐々に傾いて行く、体勢を立て直そうとしても体が言う事を聞かなかった。



「さぁ、死んでゆっくりと考えて下さい」



その言葉がルナールの聞こえた最後の言葉だった。



「やっぱ強ぇな……お前」



「貴女が弱過ぎるだけですよ」



寝転がるミリィにその言葉だけを告げ城内へとコアを探しに入るアルラ、自分が弱いのでは無く、彼女が強過ぎるのだ。



私は成功作の筈なのだが……何処をどう間違えればこうも実力差が出るのか、ミリィはため息を吐いた。



「私も強くなんねーとな」



生き絶えたルナールの剣を奪うとアルラの後を追い走って行った。

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