第96話 オリゲルの名を持つ者

異様な程に静かな城内、荒らされた形跡も無く洗脳兵も居ない……サレシュ辺りならば糸の異変に気が付いて城に来て居そうなのだが人の気配が全くしなかった。



自分が魔力探知に長けて居ないと言うのもあるが地獄の様な光景だった街を見た後だと不自然で仕方がなかった。



護衛も無く元凶はのうのうと屋上で洗脳を続けられるのだろうか……もしくは護衛など居なくてもいい程に強いかのどちらか……兎に角早くこの騒動を収め無いと取り返しのつかない事態になりかねなかった。



「天井をぶち抜いて一気に屋上まで……」



足に雷装を纏い10階層を一気にショートカットしようと踏ん張ると辺りに雷が走り地面が割れる、そして飛び上がろうとしたその時、大広間の奥へと続く扉が開く音が聞こえた。



咄嗟にシャリエルは飛ぶのをやめると軽くその場でステップを踏む、敵か味方か……敵ならば厄介だった。



「シャリエルさん」



聞き覚えのある声と共に扉の奥から少し色の薄い金髪の青年が姿をあらわす、その右手には剣、真っ赤に染まって居た。



彼を私は知っている……2年ほど前に王国騎士団へ入団したばかりの新人ながら師団長を務める若き天才、ルフレ・オリゲルだった。



なんでもかの光の騎士ランスロットの子孫と噂されている、それが事実ならば洗脳されていると少し面倒くさかった。



「ルフレだっけ、貴方……その血どうしたの?」



「あぁ……これですか」



シャリエルの問い掛けにルフレは血の付いた剣を掲げ眺める、滴る血の雫が地面に落ちる音が聞こえる程に辺りは静まり返って居た。



「向こうの部屋で俺の事を邪魔する人が居たんで……」



そう言い剣で部屋の方を指す、シャリエルは目を凝らし奥の部屋を見るとそこには大臣が血を流し倒れて居た。



洗脳済み……戦うしか無さそうだった。



「大臣は生きてるの?」



「さぁ?運が良ければって感じですかね」



そう言い剣を構える、何故彼と会話出来るのかは分からないが今はそんな事を気にしている場合では無い……貴重な魔紙を雷装、脚に続き腕の分も破り捨てようとしたその時、背後から声が聞こえた。



「魔紙は温存しとけ、お前やらないといけない事あるんだろ?」



セリスの声だった、肩に手を置きそう呟く彼の声……恐らくアーネストが頼んだのだろう、助けてくれと。



「はぁ……あんたも引き受けなくて良いのに」



「気まぐれってとこだ」



来てしまったものは仕方ない……此処は彼に任せた方が良さそうだった。



「じゃあ頼んだわよ、くれぐれも殺さない様に」



それだけを伝え天井をぶち抜こうとするがセリスはシャリエルの手を握った。



「な、なに突然?!」



いきなりの事に動揺して転びそうになる、だがセリスの手には何か紙が握られて居た。



「とっておきの魔紙だ、高かったから一枚しか無いが十分だろう……ピンチの時に使えよ」



そう言い一枚の魔紙を手渡すと背を向け一瞬にしてルフレを扉の遥か彼方へと吹き飛ばす、とっておきの魔紙……セリスほどの冒険者が言う魔法、正直物凄く気になった。



だが此処で使う訳にも行かない……それにこれを使えば自身の力で国を助けた事にならない、なるべく自分の力でこの国に恩返しがしたかった。



学なんてない自分が出来る恩返しはこれくらい……シャリエルはグッと地面を踏み込むと辺りに雷鳴を轟かせ屋上まで飛び上がって行った。



「さて……シャリエルも行った所で話しを聞かせてもらおうか」



シャリエルが去って数秒、ルフレの上に乗り喉元に剣を当てて余裕の表情でアルセリスは尋ねた。



「そうだな……まずなんでお前は洗脳されても尚話せる?」



アルセリスの問い掛けに渋い表情をするルフレ、話す気が無いと理解すると右腕をへし折った。



「っつっっっ!!?」



突然の出来事に声にもならない叫びをあげるルフレ、殺さなければ戦闘で出来た傷と言い訳が聞く……まだまだ折れる箇所は色々あった。



「さぁ話せ」



「……そう言う家系なんだよ、ランスロット・オリゲル、俺の祖父が光の魔力を持っててある程度の耐性が俺にもある……納得したか?」



渋々話し出すルフレ、ランスロットと同じ名を持っている事に疑問は抱いて居たがまさか家族とは思わなかった。



それに加えてランスロットは祖父と言う年齢では無かった……どう言う事なのだろうか。



「お前の祖父はまだ生きてるのか?」



「50年位前に戦争で死んでるよ、光の騎士と言う異名を残してな」



そう言い捨てるルフレ、拘束魔法で一先ず拘束するとアルセリスは立ち上がり腕を組んだ。



ランスロットの見た目はどう見ても10代後半から20代前半だった……だが此処にルフレ・オリゲルと言う孫が居る、嘘をついて居るとも思えない……訳が分からなかった。



50年前にランスロットが死んで居たとするならば王国に居た彼は何者なのか……オーフェンの様に偽物パターンなのだろうか。



「くそっ……分からん」



思考をフル回転させるが正直この世界は未知な事ばかり、最近ではゲームが元という事すら忘れていた……一先ずランスロットの件は彼の交友関係や家族に当たってみるしか無さそうだった。



「さてと……残りも掃除するか」



城内に残って居る複数の魔力を感知するとアルセリスは伸びをして剣を出現させる、そして屋上へと行ったシャリエルの身を案じながらも近くに居る魔力の元へと歩いて行った。

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