第4章 暗黒神編
第56話 クリミナティの目的
不覚……オーエンの城に侵入したは良いがこうも容易く捕まってしまうとは予想外だった。
ロレスと名乗る男には聞き覚えがあった、昔……60年程前、オーエンと言う国で戦士長を務めて居た男の名だった。
だが彼は20年前に戦場で戦死した筈……そんな訳ないと思いオーエン城に来たがまさか本当に生きているとは思わなかった。
シャリエルは鉄の鎖が壁に打ち付けられ両手両足に付けられた枷を外そうと試みるがビクともしない、ガシャガシャと音を立てていると薄暗かった牢の扉が開き、光が差し込んだ。
「逃げようとしても無駄ですよ、オーガ族でさえ壊せない特注の鎖ですから」
片目を黒髪で隠した男がそうシャリエルに言う、年季の入った特に変哲も無い鎧だけでは判断出来ないが片目を黒髪で隠し両方に剣を携えている特徴的な見た目は昔戦場で見たロレスにそっくりだった。
「何故私がここに……そう言う表情ですね」
薄暗く見えにくい筈のシャリエルの表情を読み取り言うロレスの言葉に驚く、だが当然の疑問だった。
「何故……なの?」
シャリエルの言葉に不敵な笑みを浮かべるロレス、小さな机にランタンを置き部屋を明るくすると彼は壁にもたれ、話し始めた。
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鳴り響く砲声、兵士の怒号……辺りには血生臭さが漂っている、片腕に刺さった矢を抜き素早く止血するとロレスは剣が握れるかを少し離れた洞窟の中で確かめた。
「今回ばかりは……死ぬかもな」
オーエン国の戦士長を務めて8年……様々な戦争を経験したが今回ばかりは規模が違った。
元々1万と言う少ない兵士数で様々な策を練り国を守って来た……だが今回の敵であるオーリエス帝国は規模が違う……10万と言う兵力、勝てる訳が無かった。
無数の足音が近づいて来る……大将が死ねば自動的に国は敗北する……これ以上犠牲を出さない為にもそろそろ潮時なのだろう。
「100人程殺して……華々しく散りましょうか」
ロレスは微笑み剣を握り締めると立ち上がる、その時洞窟の奥で声がした様な気がした。
「ん……?なんだ?」
『こっちだ……』
「何処から声が……」
不審な男の様な声にロレスは耳を澄ます、やはり声は奥から聞こえて居た。
だが奥から声がするのは不自然、この洞窟に入った時に確認したがそこまで深い洞窟では無かったのだから。
ロレスは剣を構えゆっくりと洞窟の奥へと足を進める、すると次第に霧が立ち込め、気が付けば薄暗い森の中に立って居た。
「これは……幻術ですか」
霧を吸い込んだ時に発動したのかは分からない……ロレスは冷静に分析をするが森を丸々一つ作り出すほどの魔力……今の自分には勝てるか怪しかった。
『小さき者よ……こっちだ』
森の奥へ行くにつれて声は大きくなって行く、そして一軒の小さな小屋の扉を潜るとそこは何も無い真っ暗な空間だった。
「ここは……」
上を見ても下を見ても……右も左も闇、冷静さを保とうとするが自然と手が震えて居た。
『声に導かれし小さき者よ……封印を解け』
その言葉にロレスは疑問符を浮かべる、封印……そう言われてもそれらしき物は……
何も無い、そう思ったその時、視線が勝手に移動して一つの魔法陣に向けられた。
先程までは無かった暗闇に輝く光の魔法陣……一目見て分かった、この魔法陣は解いては行けないと。
「私にそれは……出来かねます」
ロレスはそう言い首を振る、だが声の主はそれを許さなかった。
『小さき者よ……良く自身が置かれている状況を考えよ』
「私の置かれている状況……」
圧倒的な大差で追い込まれ国が滅びようとしている現状……だがそれを思い出した所で何になるのだろうか。
「私の状況がどうしたのですか」
『我を解放すれば国の一つを救うなど容易い……どうだ、契約せぬか』
その言葉にロレスの心は揺れ動いた。
自身の力ではもう助けられる術は無い……だが声の主は恐らく悪魔、悪魔との契約は禁忌、代償に何か大切な物を失うと聞いている……ロレスの心は揺れ動いて居た。
その時、悪魔の囁きが後押しした。
『代償は何も要らぬ……封印を解いてくれるのならばな』
その一声にロレスは負けた、そして魔法陣の端を足で線を入れ消すと辺りには不穏な空気が立ち込め、そして酷い悪寒がした。
『感謝するぞ』
辺りの闇が一箇所に集まる、そして次第にそれは人型の形を形成した。
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「こうして私はあのお方と契約をし、死んだ事にして裏でクリミナティと言う組織を作り活動して居た訳です」
長々と数十分にも渡る説明を聞き終えシャリエルは唾を飲む、不可解な点はいくつかあるが……あのお方が気になった。
「あのお方って?」
「暗黒神……グラナルズ様だ」
そう言い不敵な笑みを浮かべるロレス、ランタンを持ち扉を閉めると辺りは再び闇に包まれた。
アーネストと剣を取り返す為に潜入しただけだった……だがとんでも無い事に首を突っ込んでしまった様だった。
シャリエルは震える体をぎゅっと唇を噛み締める事によって耐えた。
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