第57話 強過ぎるだけ

辺りに飛び散る色取り取りなモンスターの血、粗方殺してしまった様でアルセリスの目に届く範囲に生体反応は無かった。



グッと伸びをすると拳に付いた血を拭き取る、力があるお陰でこんな風にストレス発散が出来るが改めて周りを見ると悲惨な光景だった。



様々な生き物の死体が辺り一面に転がっている……少し吐き気すら覚える光景だった。



「少しやり過ぎたな」



辺りの光景に少し反省をする、いくらだだっ広い荒野とは言え死体だらけなのは少し景観的にもあれだった。



アルセリスは大規模な闇を出現させるとその闇に死体を飲み込ませて行く、そして粗方綺麗に片付け終えると闇を消した。



簡単な空間転移魔法、自身や生命には使用は出来ないが命なき者ならば任意の場所に転移出来る便利な魔法だった。



転移場所は魔獣系の配下を飼っている階層、餌には丁度良かった。



「さてと……城に行くか」



剣を抜き城へと近づく、魔法障壁も探索系の魔法も張られて居ない様子だった。



アラサルの時みたいに罠が内部に張り巡らせてある可能性も考え慎重に動こうとも考えたが……やはり此処はアルセリスらしく、堂々と正面突破の方が良さそうだった。



「おい、誰か来たぞ」



「真っ黒な……騎士か?」



門番を務めて居た2人の兵士がアルセリスの姿を見て困惑する、隠れるそぶりすら見せず歩いて来るのだから無理も無いだろう……彼らに構っている暇は無かった。



「ランスロット、この名に覚えはあるか」



「な、何言って……」



兵士の反応を見た途端にアルセリスは兵士達を地面に叩きつける、生きているのか死んだのかは分からないが彼らがランスロットを殺したのでは無いと分かれば用は無い……門を潜り城の中に入るが中は異様な空気だった。



螺旋状の階段が真っ直ぐ上に伸びてその道中にいくつも部屋がある様な形の構造、外から見たら普通の城だったという事は空間魔法の類なのだろう。



「ったく……数百は部屋があるな」



一個ずつ探すのはめんどくさかった。



アルセリスはグッと拳に力を入れると支柱を殴る、すると城は大きく揺れた。



その衝撃で部屋からクリミナティのメンバーと思われる者たちが出て来る、数で言うと数千……いや、万は行っていた。



「わらわらと……さて、この中にランスロットを倒した奴は居るのか」



アルセリスは上を見上げ面倒くさそうに呟く、気配が多過ぎて個人の正確な強さまでは分からなかった。



「ランスロット、この名に覚えがある奴は出て来い!出てこないのなら皆殺しにする!」



拡声魔法を使い城に響き渡るほどの声でアルセリスは叫ぶ、その言葉にメンバー達は大爆笑した。



「一人で頭悪いんじゃねーのか!?」



笑いながら殆どのクリミナティは馬鹿にする、だがほんの数人……一人で此処に乗り込んで来たアルセリスの事を馬鹿にしていない人物が居た。



「実力的には補佐まで行くか怪しいが……強いのは居るには居るな」



「なーに言ってんだ?死にてぇのか?」



「黙れ」



アルセリスにガンを飛ばし近づいて来る男を少し強めの力で拳を振り下ろす、すると男は地面を突き破り地下まで落ちて行った。



その力に先程までの笑い声は無くなる、そして気が付けば皆武器を構えていた。



流石犯罪者の集団、舐めて掛かったのは評価出来ないが切り替えが早いのはいい事だった。



だがアルセリスの前では皆無力だった。



「馬鹿にした事……後悔させてやるよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



天井から土埃が落ちて来る、地上と遠くて音が聞こえにくいが誰かの話し声が一瞬だけ聞こえて来た。



サレシュ達の助けなのだろうか……そうだとすれば彼女達が危なかった。



「情報無しにこの城へ立ち入るのは迂闊……お願いだから逃げて」



万が一にシャリエルは祈りを捧げる、その時頭上から何かが勢い良く壁をぶち破り目の前に落下して来た。



「な、なに?!」



落ちて来た物にシャリエルは驚く、薄暗くてよく分からなかったが落ちて来た事によって上からの光が差しそれを照らした。



それは人、しかもクリミナティの一員だった。



「賞金首の……」



何処かの掲示板で見かけた顔……いや、それはどうでも良いのだが数十メートルはある何層もの天井をぶち破りこの男は落ちて来た、つまり凄まじい威力で落ちて来たという事……屋上から落ちてもこうはならない……なぜ落ちて来たのかは分からないが彼が地面に埋まってくれたお陰で壁に亀裂が入り鎖を取ることが出来た。



「取り敢えず……逃げないと」



扉から顔だけを出し辺りを見回す、上の騒ぎを聞きつけて行ったのか誰も居なかった。



「逃げ……」



逃げようとしたその時、自身が服を着ていない事に気が付いた。



視線を下に移すと少し汚れた自身の体が映る、その瞬間思わず声を出してシャリエルは誰も居ないのにも関わらず牢屋に戻ってしまった。



「な、な、なんで服着てないのよ!?」



一先ず牢屋で暗闇の中を探るが当然服は無かった。



「裸のままロレスと話して居たの……」



今思い出すと恥ずかしい……だがそんな事を言っている場合では無かった。



冷静に考えればエロい事が目的で脱がした訳では無いはず、私自身体の至る所に魔紙を隠し持ち戦うタイプ、それは脱がされて当然だった。



「とは言え……見られるのは嫌だし早く服を探さないと」



シャリエルは壁から外した鎖を武器代わりに部屋から出ると辺りに人が居ないのを確認して一気に階段まで駆け抜けようとする、だがその途中で一つだけ閉まっている牢屋があった。



「ここは……」



そっと扉に手を伸ばす、そして手前に引くと扉はギィと鈍い音を立てて開いた。



薄暗い部屋に外の光が照らされる、中にはボロボロの服を着たアーネストが倒れ込んで居た。



「あ、アーネスト!?」



その姿にシャリエルは思わず鎖を手放し駆け寄る、脈を測るがまだ生きている……だが凄い熱だった。



酷い拷問と劣悪な環境下での疲労……早く処置をしないと他の病気や傷口からの感染症を引き起こす可能性もあった。



「待ってて、直ぐに……助けるから」



自分よりも大きいアーネストの身体を背負いシャリエルは部屋を出ると階段の方へと歩いて行く、そして薄暗い螺旋状の階段を上がると上は凄まじい光景だった。



無数のクリミナティと思われるメンバーの死体が転がっている、皆掲示板などで見た極悪犯罪者達ばかり……ふと上を見上げると何か二つの影が落下して来るのが見えた。



そしてそれはロレスとセリスだという事が地面に落ちる数メートル手前でやっと理解出来た。



「貴方は……強過ぎますよ」



「すまないな」



ロレスの言葉に申し訳なさそうに謝るセリス、何故彼が此処に居るのか分からないがその謝罪の意味もシャリエルには理解出来なかった。



圧巻の光景で呆気に取られているとアルセリスが此方を振り向く、だが裸だという事に気が付いても顔を逸らさずこちらを見て居た。



「な、何見てんのよ!それに何で此処に!?」



シャリエルは咄嗟に身体を手で隠す、するとアルセリスは何も言わず一枚のコートを取り出すとシャリエルの方に放り投げた。



「アイリスから頼まれた、助けて下さいとな」



そう言いながらアーネストの頬に手を当てて治療魔法を掛けるアルセリス、その言葉にシャリエルは少し悔しさで唇をかんだ。



対等な強さとは思って居ない……だが仮にもランクでは自分の方が上、それなのに此処まで助けられるのはダイヤモンド冒険者として情けなかった。



この件だけでも自身で片付けたい……そうすればあの人達も私を捨てた事を後悔する筈、そう思って居たのに……何故同じ人間なのに、こうも強さに差が出るのか……理解出来ないし、したくも無かった。



悔しそうなシャリエルの表情を見るアルセリス、彼が何を思うのかは分からないが此処から先は魔紙も持っていない自分が付いて行っても足手まといなのは目に見えて分かって居た。



「ありがとう……後は頼んだわ」



アーネストの治療が終わるのを見計らいシャリエルは元気の無い声でそう呟くとアーネストを背負いその場から去ろうとする、だが不意にアルセリスが手を掴んだ。



「な、なに?」



「お前の装備、さっき倒した敵の部屋から奪って来た……もし戦う気があるなら着替えろ、勿論強制はしない……念の為にアーネストは転移させて置く」



アルセリスはそう言い転移の杖でお腹を突っつくとアーネストが何処かへと転移される、そして手渡された自身の服や魔紙を見てシャリエルは彼の顔……と言っても兜だが、それを何度も見返した。



「私が居ても邪魔なだけじゃ……」



「そう卑屈になるな……お前は強い」



そう言ったアルセリスの言葉が何故か……無性に嬉しく感じた。



彼の人間離れした強さを見ていつしか自分が弱いのでは……無力なのでは無いかと思って居たのかも知れなかった、アーネストを救えずアラサルも倒せなかった……だがやっと理解出来た、彼が強過ぎるだけなのだと。



自分の悩みが馬鹿らしく思えて来た。



「み、見たら張っ倒すからね!」



「分かったよ」



アルセリスは少しだけ機嫌良さそうにそう言うとシャリエルに背を向け、高く……何処までも高く続く階段を見つめた。

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