第55話 本拠点

セルナルド王国の城下町にある静かな住宅街の一角、小さな公園で一人青い空を仰ぐアルセリス、ランスロットの訃報を聞いて1日経った今、自分に出来る事は何も無かった。



マリスからの頼みでランスロットの遺体は彼女のみが分かる場所に埋められた……何故彼が殺されたのか、1日考えた今でも分からなかった。



死因は鋭利な物で身体を貫かれた事による出血死……王国の守護者補佐の中では一番弱いとは言え仮にも光の騎士と呼ばれ大陸でも名を馳せて居た……そうそう倒せる物など居ないはず、だが現にランスロットは殺された、何者かによって。



それがクリミナティなのか第三者なのかは分からない……ただ分かるのは王国にとっても脅威になる敵と言う事と……アルセリスと言う男の怒りを買ったと言う事だった。



「く……そがぁぁ!!!」



アルセリスは拳を握り締めて地面を殴ろうとする、だがふと我に返り寸前で手を止めた。



すると拳圧で辺りに砂埃が舞う、今の強さで地面を殴れば辺り一帯が吹き飛ぶ……冷静では無かった。



クリミナティの事も分からず仲間も殺された……完全に今の状態は向かい風、とても調子が良いものでは無かった。



マリスの精神状態も不安定……今はアルラの監視下で大人しいがいつ暴走するかも分からない状況……相変わらず何をやっても上手く行かなかった。



社畜時代もそう、どれだけ頑張って結果を残そうが大した実力も無い奴にマグレで抜かれる……不運だった。



せめてSKOの世界では部下を従え上手く立ち回ろうとした……だが結果は数ヶ月もしないうちに部下を失った……情けない、隼人の時から何も変わって居なかった。



ベンチに座り空を見上げる、一体どうすれば良いのか……分からなかった。



ランスロットの死により王国内で不安の声が聞こえるとアウデラスから報告が入った……だが人を従える立場になった事が無い以上対処の仕方も分からない……やる事は山積みだが今は何もやる気にならなかった。



「社長も楽じゃ無いのかもな」



ボソッと呟き再度天を仰ぐ、この世界が現実だとまだ信じられなかった。



それ故にランスロットの死も何処かゲームと同じ感覚になってしまう……つまり悲しみが無かった。



アルセリスは小石を拾っては遠くに投げるを繰り返す、一体自分は誰なのだろうか。



アルセリスなのか隼人なのか……自分自身は隼人のつもりだった……だがこの世界の人々の認識はアルセリス、隼人という人物は消え去ったのだろうか。



もしこの世界にアルセリスと言う人物が自分が来るよりも前に存在して居たのならアルラ達を自分は騙して居る事になる……果たしてそれを伝えるべきなのか、分からなかった。



ただ今では無いのは分かる……今はランスロットの仇を討つのが先だった。



「しかし情報が無いな……」



余りにも情報が無さすぎる……クリミナティ、ただの犯罪者が集まった集団だとばかり思って居たが情報管理が徹底され外部に情報が漏れない様になって居る……ここまでボロが出ない組織は珍しかった。



どんな組織も末端の殆どが責任感無く死の一歩手前まで追い込めば簡単に吐く……だがクリミナティは誰も吐かない、アラサルの残党を拷問したが皆死を選んだ……余りにも徹底されて居た。



何故そこまでして秘密を守るのか……不自然だった。



そもそもクリミナティの目的は何なのか、王は結局即座に暗殺されて居なかったとシャリエルは言っていた……アラサルと対峙した時に言っていたが『あの方』と言う言葉……やはりクリミナティにもトップが居るのだろうか。



様々な盗賊団や犯罪者を束ねる王……一度会ってみたいものだがクリミナティの尻尾も掴めて居ない今、叶わぬ願いだった。



「今から何をすれば良いんだ」



ベンチに座り当てもなく地面に足で絵を描く、こんな所でのんびりしてる場合では無いのだが出来る事も無く八方塞がりだった。



アルセリスは静かにため息を吐く、その時遠くからこちらに駆けてくる足音が聞こえて来た。



(誰か……来る)



アルセリスはそっと剣を出現させると腰に携えいつでも抜けるように準備をする、だが足音の主がアイリスだと分かると剣を消した。



こちらへ駆けて来るアイリスは酷く焦って居る様子だった。



「あ、アルセリスさん……ここでしたか」



「どうした、また招集か?」



息を荒げるアイリスに面倒くさそうな声色で尋ね返す、だが彼女は首を振った。



「違います!シャリエルが……居なくなったんです!」



そう切羽詰まった表情で言うアイリス、だがアルセリスにはその緊急性がイマイチ分からなかった。



シャリエル程の強者なら居なくなった所で問題は無いはず、彼女も子供では無いのだからそりゃ何処かへ行くはずだった。



「それの何が大変なんだ?」



「アーネストがクリミナティに連れてかれて……恐らくそれを追って行ったんだと……」



クリミナティ、その言葉にアルセリスは反応した。



「行き先は分かるのか」



「え、手伝ってくれるのですか?」



アルセリスの即答ぶりにアイリスは驚きを隠せずに居た。



「当たり前だ、一時期とは言え戦地を共にした仲間だ」



「あ、アルセリスさん……」



立ち上がり堂々と言うアルセリス、彼女に好印象を与えた所で早くクリミナティの居場所が聞きたかった。



こんなにも早く機会が訪れるとは思わなかった、ランスロットの仇を取り王国の部下に示しをつける……ようやくツキが回ってきた。



「場所はオーエン城跡と言っていました」



「オーエン城跡……何でまたそんな所に」



オーエン城、元々オーエンと言う国があった場所に立つ城で海に背が面しているのが特徴の城……そんな所に潜んでいるとは完全に盲点だった。



てっきり独立国を立ち上げているとばかり思っていた、だがこれでクリミナティの情報が掴めないのかハッキリした。



オーエン城はモンスターの巣窟、誰も近づこうとは思わない……身を隠すには打って付けの場所だった。



「俺は今すぐに立つ、情報提供感謝する」



アルセリスはそう言い残し立ち上がると転移の杖を使いその場から姿を消す、先程までの不安感が消える事は無い……だが戦闘で多少紛れる筈だった。



アルセリスは情報を貰ったオーエン城の前に転移すると杖を消す、そして顔を上げると辺りにはモンスターが不気味なくらいにひしめき合って居た。



陸にはアンデットなど……いつもなら面倒くさいこの状況も何故か今は笑って居た。



「楽しそうだ」



アルセリスは剣を握り締めるとモンスターの群れの中へと駆けて行った。

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