第31話本気

強すぎるが故の疎外感、剣も持たずに大量のゴブリンやゴブリンキングの死体が並ぶ草原の真ん中で佇むアルセリスの拳は血まみれだった。



「お見事ですアルセリス様」



「今はセリスだ……」



隣にスッと現れタオルを差し出すアルラ、アルセリスはそのタオルを取ると血のついた鎧を拭く、攻撃を受けてもダメージを通さないこの鎧、一振りすれば命を奪う鎌……チートなまでに強い武器の数々、それを封印してもステータス共有やジョブのカンストボーナスで上がったステータスの所為でダメージを受ける事は無かった。



「アルラ……本気で戦って見ないか?」



アルセリスの突然の提案にアルラは驚きで固まって居た。



アルラは王国の中で1番と言ってもいい程に強い……つまり俺の知る中では1番強い存在、彼女と戦えば何か変わるかも知れなかった。



「分かりました……アルセリス様が望むのであれば」



そう言って刀を構えるアルラ、するとアルセリスは剣も構えず拳を握り締めると一瞬にしてアルラの目の前に移動した。



そして拳を繰り出す、だがアルラは刀で上手く軌道を変えると拳は地面に当たった。



その瞬間大地は割れる、そして辺りに轟音が響き渡った。



「やるじゃないか」



「お褒め頂きありがとうございます」



そう言ってアルラは地面に拳が埋まって居るアルセリスの顔面目掛けて蹴りを入れようとする、だがそれをアルセリスは空いている片手で掴むと軽々上に放り投げた。



そしてハマっていた腕を抜くと高々と飛び上がりまだ上に上がって行くアルラを地面に投げつける、するとアルラは音速を超える様な速さで地面に激突し土煙を上げた。



滞空魔法を使い土煙が晴れるのを上から眺める、やり過ぎた……と言うことはなさそうだった。



土煙が晴れるとアルラは刀を構えず拳を握っていた。



息は荒くあまり目立って居なかった小さなツノが大きくなって居た。



「鬼神化を使ったか」



鬼神化、オーガ族の中でも最上位の部類のものが使える身体能力を向上させる魔法とは別の特殊技能、効果は身体能力を十倍にする事……つまりは誰でも化け物になれると言うことだった。



アルセリスは鎧を偽物に変えると地面に降りる、そして拳を構えようとしたその時、さっきまで目の前に居たアルラが消え脇腹に鈍い痛みが走った。



アルラの拳が鎧を突き破り脇腹にめり込む、だがアルセリスは吹っ飛ぶのを堪えるとアルラの顔目掛けカウンターの一撃を放つ、だがアルラはそれを簡単に躱すとマシンガンの如く無数の打撃をアルセリスに浴びせる、だがアルセリスはその全てを手の平で受け止め続けた。



速さと言い力と言い全てにおいて最高級の実力、気を抜けば痛い一撃を貰いかねない……だがそれでもアルセリスと言うアバターには遠く及ばなかった。



アルラの打撃を全て受け止めるとアルセリスはゆっくりと息を吐く、その瞬間辺りの空気が凍りつく様な感覚をアルラは覚えた。



鬼神化は理性を保つのが難しくアルラでさえも少し飛ぶ時がある、そしてほぼ意識が無かったアルラの意識が鮮明に戻ると同時にある事を告げた。



もう一歩踏み出すと死ぬと。



そして気が付けばアルセリスは目の前に居た。



「俺の勝ちだな」



「ひうっ……」



アルセリスがアルラにデコピンをするとアルラは少し痛そうに額を抑える、流石王国最終守護者、SKO時代のプレイヤーでもそうそう勝てない強さ……だがトップランカーには遠く及ばない強さだった。



アルラは典型的な筋力をアップしてゴリ押しするタイプ、デバフの魔法などを掛けることはない……トップランカーと戦うとなれば対策は必須、そう考えるとアルラは強いがその分対策はしやすかった。



「まぁ……依頼は達成したな」



「そうですねセリス様」



辺りのゴブリンを見るとアルセリスは頷く、だがこの程度ではプラチナタグまではまだまだ遠そうだった。



クリミナティを探すに置いて貴族は必要不可欠、だが彼らは最近警戒心が強くプラチナタグの傭兵でないと雇わないらしかった。



それ故にクリミナティを探るにはプラチナタグになる必要があると言うことだった。



正直強行突破して聞けば良いのだがなるべくこの世界を征服する前にゲームバランスと言うのだろうか……そう言うのは崩したくない、周りからはかなり強い冒険者程度の評価のままで通しておきたかった。



ふと隣のアルラを見ると珍しく笑顔で揺れて居た。



「なんだかご機嫌だなアルラ」



「そ、そうでしょうか?」



アルセリスの言葉に見られて居ないと思って居たのか急に恥ずそうにした。



「まぁ良い、とにかく街に帰えるか」



「はい」



二人はお互いに言葉を交わすと転移は使わずにゆっくりと歩いて帰って行った。





「なんだ今の闘いは……」



「やばい……なんてものでは無いですね」



長い金髪の少し身長が小さめな真っ白のコートを羽織った少女と聖女の服を着てモーニングスターをもった物騒なシスターが言葉を交わす、少しだけ離れた場所から二人の闘いを見て居た両者だがその人間離れした動きに目をこすって居た。



「暫く王国に帰らない間に化け物でもギルドは雇ったのか?」



「さぁ……?でも二人とも人間の様でしたよ?」



遠目ではアルラの角は見えず二人には人間として見えて居た。



「うーむ、まぁ人間の仲間ならなんでも良いさ、私達グレーウルフの敵でも無いし」



「そうですね」



二人は互いに言葉を交わすとその場から一瞬にして姿を消した。

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