第32話 その少女ちんちくりんにつき
ギルドの壁に背を預け空を眺める、中からはアルラが任務達成を報告する声が聞こえていた。
騒がしい街、街の中心にそびえ立つ城はオーリエス程豪華では無くこの国の経済状況がそれほど豊かでは無いのが目に見えて分かった。
所々黒ずんでいる、それに街に商人があまり居ない、その代わりなのかは知らないが他種族が多く見られた。
エルフに獣人など、主にアルカド王国でよく見るラインナップだった。
この国は他種族に理解があると聞いたが周りの人の反応を見る限りまだ全員理解があるようでは無かった。
「ねぇ、貴方少し良い?」
目の前に立ちアルセリスに話し掛ける真っ白なコートを着た金髪の少女、その言葉にアルセリスは何も言わなかった。
「聞いてる?」
目を閉じて腕を組む、あまり他の冒険者と話したくは無かった。
冒険者と絡むと自分自身の出生や過去話に踏み込まれる危険がある、偽ったとしてもいずれはボロが出る、それに俺は嘘が苦手な性格だった。
少女は真っ暗な兜の中を必死に覗きこもとして居た。
「ねぇ!!聞いてるの!?無視してるなら怒るわよ!」
アルラの帰りを待ちアルラに対処してもらおうと待っているが彼女は戻ってくる気配が無い、その間にも少女の怒りは増して居た。
「もしもーし」
兜をコンコン叩き反応を見る少女、ここまでしつこく付き纏うとは何の様なのか、少しだけ興味が湧いた。
「うるさい、何の用だ」
「やっと話した!あんた草原で誰かと戦ってたでしょ」
アルセリスの反応を見てパアッと表情が明るくなる少女、そして指をさしてそう言うとアルセリスは固まった。
アルラとの戦闘が見られて居た……何処に居たのかは分からないがあれ程の力を見られたのは完全に誤算だった。
「それがどうした」
毅然とした態度で尋ね返すが内心は焦って居た、ちゃんとサーチの魔法も使い周囲に人が居ないのを確認したのだが……ふとアルセリスは少女のコートを見るとある事に気が付いた。
真っ白の頑丈な強化繊維で作られたコート、バレない様にサーチの魔法を掛けるが少女の事を調べる事は出来なかった。
(成る程……何位階まで無効化は知らないが魔法無効のコートか)
サーチの魔法が効かないのも納得だった。
「貴方相当強いわよね、ゴールドタグに見合わない程に……プラチナ、いえ……ダイヤモンドタグ並みには強い、だからその実力を見込んで頼みがあるのだけど良い?」
少女の言葉にアルセリスは頷く、中々見る目のある少女だった。
「貴方アラサル盗賊団って知ってる?」
「アラサル盗賊団?」
少女の言葉に首を傾げる、全く聞いた事も無い名前の盗賊団、ゲーム時代には少なくとも存在して居なかった。
「この国だけでなく大陸全土に拠点を構えている最大規模の盗賊団の名前よ、リーダーがアラサル、ライノルド騎士団長と肩を並べる実力を持つと言われている人物よ」
「それで、俺が介入せずとも良く無いか?」
「それが必要なのよ、アラサルが居るとされる拠点の候補は三つ、そして彼を倒せるだけの技量を持つ人物は私とライノルドの二人しか居なかった……でも貴方なら倒せると見込んでお願いしてるのよ」
少女の言葉にアルセリスは少し考える、アラサルには少し興味があった。
大陸最大規模の盗賊団頭領ならクリミナティの何かを知っているかもしれない……それにライノルドと言う男には一度会っておきたかった。
自分をその二人に並ぶ強さと言うちんちくりんの少女にも少し興味がある……この依頼引き受ける価値はありそうだった。
「俺はセリスだ、その依頼引き受けよう」
「私はシェリエル・ブラッシエル、グレーウルフ所属のダイヤモンド冒険者よ」
そう言って懐のタグを見せるシェリエル、そのタグを見てアルセリスは少し驚いた。
見た目からは想像も出来なかった、こんなちんちくりんでデコピンしたら倒せそうな少女がダイヤモンドタグ……だがプレイヤーの匂いはゼロだった。
サーチが出来ないことには技量を図る事も出来ない……彼女の実力が少し気になるが戦闘する訳にもいかなかった。
「セリス様、そちらのチビは誰ですか」
背後からアルラのただならぬ気配を感じ振り向くと女性と二人で話して居た事に妬いたのか、少し不機嫌なアルラが立って居た。
「だ、誰がチビよ!!私はシャリエル!あんたこそ誰よ!」
「私はセリス様の大事な大事なパートナーのアルラですけど!」
いつにも増して感情的なアルラ、少し新鮮だった。
今思えばゲーム時代アルラはお金がかかったのとビジュアルがドンピシャに好みだった事からずっと相棒設定にしたりと使っていた……この世界で彼女がアルセリスと言う人物を好いているのもそれが関係して居るのだろうか。
「セリスこいつとコンビ組んでるの?」
アルラの言葉に少し驚いて尋ねてくるシャリエル、戦いは目撃したようだがアルラの姿までは見えて居なかったようだった。
「あぁ、実力はピカイチだぞ」
「貴方よりも数十倍ね」
その言葉にシャリエルはそっぽを向く、二人の相性は最悪の様子だった。
「シャリエルちゃーん、ライノルドさんがお待ちですよ!」
そう言い広場を抜けた大通りから一人のシスターがモーニングスターを軽々と持ち上げ旗のようにこちらへ向けて振って居た。
「あれは?」
「グレーウルフのメンバー、サレシュ・ストーン、聖職者で内のヒーラー兼バフ役なんだけど馬鹿力でね」
そう言って視線をサレシュに戻すシャリエル、確かにモーニングスターを軽々持ち上げれる聖職者はそうそう居ない、恐ろしいシスターだった。
「ライノルドが待ってるみたいだから行きましょう、そこで作戦内容が話されるから」
そうシャリエルは告げ先に歩いて行く、グレーウルフ……しっかりと連携が組まれたパーティーだとすれば少し注意しなければいけないかも知れなかった。
今後王国と対立する時に守護者と戦闘になれば負ける可能性が出て来る……使う技や連携などを記録する必要があった。
「アルラ、奴らの行動や攻撃をしっかり記憶しておけよ」
「は、はい」
アルセリスの言葉に不思議そうな顔をしながらも頷く、守護者の強さは桁外れで心配無いと思うが念には念を……一人も掛ける事無くこの世界を征服したかった。
アルセリスは先に歩くシェリエルの後ろを付いて歩いて行く、周りの国民はシャリエルやサレシュの姿を見るとまるでスターを見るかの様に興奮して居た。
「あんたら人気なんだな」
「グレーウルフって言ったら知らない人は居ないからね、自分で言うのもあれだけど大陸最強って名高いから」
「大陸最強(笑)ですか」
プククと笑いながら言うアルラ、その言葉にシャリエルは過剰に反応すると二人は後ろでもみ合って居た。
「サレシュさんは何タグなんですか?」
「私はプラチナです、グレーウルフでダイヤモンドはシャリエルちゃんだけですよ」
そう言ってプラチナのタグを見せるサレシュ、人は見かけによらないとはこの事だった。
ダイヤモンドタグ……ゲーム時代にはNPCでその称号を持つなどあり得なかった、だがこの世界では一人しか確認出来ないが居る……となればアダマスト級冒険者も居る可能性があった。
伝説級の強さを誇るとされて居たアダマスト級……本当にいるのなら戦って見たいものだった。
アルセリスは揉み合う二人を放ってサレシュと共に城の中へと入って行った。
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