第29話 ジャルヌ教編 終

「こりゃやり過ぎだ……」



悲惨な街の光景を傷一つ付いて居ない王宮の屋上から座って眺め呟く、空に浮かぶ光の玉は今にも割れそうだった。



デラ・エルド、第一位階の最上級範囲光魔法、プラチナタグレベルの者なら致命傷は避けられる程度の傷で済むがそれ以下の者が光に包まれると即死する、光魔法の癖に闇魔法の様な効果をして居る魔法だった。



アルセリスはひび割れる光の玉を見ると立ち上がりスッと右手を上げる、そして手を握ると光の玉を一枚の薄い膜が覆った。



そして次の瞬間デラ・エルドは発動される、だが視界が一瞬光るのみで街は光に包まれなかった。



「さーてと……そろそろ行くか」



グッと伸びをして屋上から飛び降りると隕石の如く地面に着地する、小規模なクレーターを作るとアルセリスは大きめの大剣を持ち街の方へと向かった。



街には悲惨な光景が広がって居た。



建物の下敷きになる人や天使なのか骸骨なのかよく分からないモンスターに襲われる人、ジャルヌ教……少し事が大きくなり過ぎた。



襲い来るモンスターを軽くあしらい街を歩くアルセリス、すると遠目だが天使ジャルヌがアダムスを襲っているのが見えた。



その手には槍の形をした光が纏われ、今にもアダムスは刺されそうだった。



「あいつだけでも助けるか」



アルセリスはボソッと呟くと一瞬にしてジャルヌの背後を取る、そして真上に蹴り上げた。



「な、何ですか!?」



突然の事にジャルヌは焦りを見せて居た、その隙にアルセリスはアダムスとフィルディアを担ぐと物陰に移動させた。



「あんたは……セリス!」



死を覚悟して居たアダムスはアルセリスの姿を見て驚いて居た。



「こっからは任せろ、この国は守ってやる」



そう言いグッと足に力を入れると飛び上がる、そしてまだ驚きの余韻が残っているジャルヌを掴むと建物の中に突っ込んだ。



「ふぅ……これで良いんですかアルセリス様?」



ジャルヌは周りを見回して誰にも見られて居ない事を確認するとグッと伸びをして首の骨を鳴らした。



「まぁ少しやり過ぎだが良いだろう、良くやってくれたなリリィ」



リリィ……そう名を呼ぶとジャルヌはローブのような服を脱ぎいつものリリィの姿に戻った。



ジャルヌ教は架空の宗教、セティア教を手っ取り早く広めるための踏み台だった。



筋書きはリリィをジャルヌと名乗らせ適当な場所で死者を蘇生する、そして信仰すれば死者を蘇生してもらえると言うデマを流し大陸にその名を広める、生贄の子供が出て来たのは予想外だったが一ヶ月経った頃に仲間が殺されたと言う理由でジャルヌが街を襲うのはシナリオ通りだった。



だが……流石にこの状態は酷いものだった。



燃え盛る街を見てアルセリスはため息を吐く、此処からどうセレスティアの名を広めるべきか悩ましかった。



リリィの役目は此処で終わり、死闘の末逃げられたと伝えれば良いだろう……



「リリィ、もう帰って大丈夫だぞ」



「かしこまりました、アルセリス様……いえ、やはり何でもありません」



リリィは何かを言いかけるがそっとアルセリスから目線を外すとその場から立ち去った。



その様子に首を傾げる、何かやり残した事があるのだろうか……だが今はセレスティアの事が先決だった。



「そう言えばウルスがドッペルゲンガーだから変身魔法が使えたな」



ふと頭の片隅でウルスの事を思い出す、今は大賢者の様な姿をしているが彼は自在に姿を変えるドッペルゲンガー、ステータス共有をして居る俺ならばセレスティアにも変身出来るはずだった。



頭の中でセレスティアの姿をイメージする、するとアルセリスの鎧姿は足元から魔法少女の変身シーンの様に裸のセレスティアへと変わって行った。



「頭でイメージする姿になるのか……」



頭で裸のセレスティアをイメージした自分が恥ずかしい、すぐ様女神が来て居る様な服をイメージして着せると美しい翼を生やした。



「うん、こんなものか」



羽を広げて動作を確認する、アルセリスのアバターは男で現実でも男だった隼人にとってセレスティアの胸はやはり気になるものだった。



「でけーな……」



久し振りに素の自分に戻った気がした。



胸に付いている大きな物体を眺め続ける、この世界に来たばかりの時アルラの胸を触ってしまったがあれとは比にもならない程でかい……Gカップはあるだろうか。



アルセリスと言うアバターの時は不思議と何も怖くないのだがやはり女性関係は皆無だった故少しばかり興味があった。



「いや……仮にも女神の体、触るのはいけない事だ……」



胸に伸びて居た右手を左手で抑える、異世界に来てまでこんなしょうもない攻防をするとは思いもしなかった。



「あぁ!!早く済ませよう!!」



アルセリスはバッと羽を広げると空へと飛び上がる、そして拡声魔法を使い声を大きくすると同時に暖かい光の魔法で街を包んだ。



『安心して下さい人の子よ……天使ジャルヌは冒険者セリスの手によって逃亡しました、そしてこの街も特別に私の力で戻しましょう』



暖かい光は傷ついた人々を癒し、壊された建物を修復して行った。



「て、天使様!!」



1人の市民が立ち上がると祈りを捧げる、それにつられて次々と市民達はセレスティアの姿になったアルセリスに祈りを捧げた。



作戦は成功だった。



『私は女神セレスティア……信じる者は救われます……どうか女神の守護があらん事を』



少し胡散臭い言葉を残しその場から消えると王宮の書庫へと転移する、そしてアルセリスの鎧姿に戻ると大きくため息を吐いた。



「やはりこの姿が落ち着くな……」



セレスティアの身体は言ってはなんだが目のやりどころに困る、女神にしては露出度が高い、それに何より胸が大きい……出来ればもうなりたくは無かった。



いや、なりたく無い訳では無いのだがなってしまうと理性が蒸発してしまう……暫くはこの鎧姿で落ち着いて置く事にした。



「さて……と、ジャルヌは強敵だったって事で鎧に傷つけて皇帝の所に向かうか」



魔法で似たような性能は全く違う鎧を生成するとその鎧を魔法で瞬間的に装着する、そして息を荒げる演技をすると皇帝が居る皇室へ向かった。



王宮内は兵士が出払って静寂に包まれて居た。



アルセリスが歩く音が鮮明に聞こえる、その時別の足音が皇室に向かって居るのが聞こえた。



一瞬護衛の兵かとアルセリスは思い気に留めなかったが直ぐに異変を感じ取った。



アルシャルテの護衛は近くから動かない、だが足音と気配はアルシャルテに近付いて居る……つまり外部からの侵入者、ジル達が出払って居る今半端な兵士が護衛して居る……皇帝の身に危険が及んで居た。



アルセリスは転移魔法で皇室付近の廊下まで転移すると1人のフードを被った男の様な背中が見える、その男は皇室の扉に手を掛けるかと思いきやすり抜けて行った。



「ちっ……忙しいな!!」



皇帝を今攫われるのは少し困る、クリミナティの事や書庫の事など冒険者セリスをかなりの好待遇で扱ってくれて居る、皇帝が変わる事態は避けたかった。



扉を蹴破り中に入ると其処に兵士が2人、口から血を流し倒れて居た。



「セリス!」



アルシャルテはベランダに追い詰められては居たものの無事だった。



それを見たアルセリスは咄嗟に剣を投げる、それを男は弾くとその弾いた場所にアルセリスは転移する、そしてすかさずに剣を手に取り振りかざした。



「!?」



男は驚いた声を出すとアルセリスの攻撃を間一髪で躱す、その際にフードが外れる、その下の姿は右目に若干かかる程の髪をした不気味な黒髪の男だった。



男は手をグッと伸ばす、その手はアルセリスの鎧に当たり止まるかと思いきやそのまますり抜けた。



「成る程」



その光景を見てアルセリスはすぐ様剣を投げ投げた先にアルシャルテと共に転移するといつも着用して居る鎧に着替えた。



「貴方……強いですね」



男はにたりと笑って口を開く、すり抜けの魔法……恐らく倒れて居る兵士は心臓を直接抜き取られたのだろう。



アルセリスは実験も含めて下に落ちて居たティーカップを男に向けて投げる、するとカップは男をすり抜けてベランダの地面に落ちると割れた。



「予想通りか……何者だ?」



「クリミナティ……とだけ伝えましょう、私達を潰そうとする限り貴方達の命はありません……それを肝に銘じて置いて下さい」



そう不気味な笑顔と共にそれだけを言い残すと男は灰の様に散り姿を消した。



不思議な魔法……少なくとも王国メンバー内で使える者は居ない、魔法ジョブもカンスト済みなのだが……不思議なものだった。




「セリス……助かった」



アルシャルテは男が去ると安堵の溜息を吐きその場に座り込む、アルセリスは一礼すると辺りにあの男の気配が無いかを確認して皇室を後にした。



調べるべきことが出来た……今は王国に戻り指示を出すのが先決だった。



アルセリスは転移の杖を出して地面を突くとその場から姿を消した。

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