第28話 ジャルヌ教編7

凄まじい爆発音と街の人々の声でアダムスは目を覚ました。



それと同時に腕の痛みがアダムスを襲う、尋常では無い痛みを堪えつつ目を開けると眼前には燃え上がる街が広がって居た。



「な、何が起きてるんだ……」



とめどなく聞こえてくる爆発音……建物は所々崩壊して居た。



アダムスは痛む腕を押さえて立ち上がるとまだ瓦礫に埋まって居たフィルディアを担ぎ安全な場所を探す、ふと街の外側を見ると街全体が光の様な壁で覆われて居た。



「何が起こってんだよ……」



突然崩壊した街、光の壁……意味が分からなかった。



どれ程の時間気絶して居たのか……フィルディアが埋まって居た事を考えるとそれ程長くは無いはずだった。



考え事をしながらふと目線を上に向ける、するとそこには大きな白い翼を広げた真っ白の服を着ている天使の様な女性が浮いて居た。



彼女の周りには天使には似つかわしく無い骸骨の様な羽の生えたモンスターが飛び交って居た。



「なんだよ……あれ」



この世の終わりの様な光景だった。



あまりの情報量に頭が追い付かない……一先ずこの場から去ろうとしたその時、天使と目が合った。



まずい……そう思った頃には天使は既に羽をたたんで目の前に降りて来て居た。



見えない程の速さ……アダムスはフィルディアを守る様に前に立つと剣を構えた。



だが天使の威圧感は半端なものでは無かった、幾度の戦場に立って来たにも関わらず足が震えている……此処まで恐怖したのは初めてだった。



「愚かな人間ですね、私に剣を向けるのですか」



透き通る様な声でそうアダムスに言う天使、彼女の周りにはいつの間にか取り巻きの天使が集まって来て居た。



「何故こんな事をする!」



「貴方達のお仲間が私の同胞を殺しました……だから復讐ですよ」



そう言ってにったりと笑う天使、仲間と言うことはアルスセンテのメンバーである可能性があった。



死んでいる……その可能性は考えたく無かったが目の前の彼女を見ると死ぬのも当たり前とも言える……氷が熱に当てられたら溶ける様に、天使はそっと手を挙げるとアダムスは反射的に剣を片手で切り上げた。



だが剣が腕に当たった瞬間消滅したのは剣の方だった。



「低級な者じゃ私に触れる事すら出来ないですよ」



そう言ってゆっくり手をアダムスに近づける天使、そして手が頬に当たった瞬間アダムスは目を瞑った。



消滅する……だが意識はあるままだった。



「怯えなくても良いんですよ、私から触れる分には大丈夫ですから」



そう言ってアダムスの顔を指でなぞる天使、彼女の意図が分からなかった。



「貴方は可愛いから生かして上げても良いですよ?」



「生かす……?この国の人を殺す気か?」



「その予定ですよ、何せ私の部下を殺しただけでなく私に楯突いたんですから」



そう言って片腕を天に掲げる、すると光の中規模な球体が出現し上空に浮かぶ、そしてそれは一瞬にして弾け飛ぶと光の雨が街に降り注いだ。



その瞬間街中に人々の悲鳴が鳴り響く、その光景にアダムスは呆然と眺める事しか出来なかった。



「可哀想に、腕を失ったんだね……」



天使はアダムスの腕を見てそう呟くと光を無くなった腕に当てる、すると一瞬だけとてつもない痛みが走り一瞬にして腕が再生された。



「こ、これは……」



生え変わった腕を驚きながら見つめるアダムス、斬り離された腕を綺麗にくっ付ける事なら可能だが消えた腕の再生は人類が知る魔法の中では不可能……神の域だった。



「自己紹介が遅れたね、私はジャルヌ……大天使ジャルヌです」



そう言って天使の様な笑顔で微笑むジャルヌ、薄々気づいては居た……だが本当に存在するとは思っても居なかった。



アダムスはジャルヌの隙を探すが周りを飛んでいる取り巻きの所為で逃げ出せる機会が無い……フィルディアの事が心配だった。



「アダムスから離れやがれ!!」



突然聞こえた声にアダムスは辺りを見回す、すると上空に槍を構え降下して来ているアルドスが見えた。



アルドスは叫び声を上げながらアダムスが意識を失い掛けてまで行った四種類の魔法を併用して使う、だがジャルヌはその姿すら見ずに手を掲げた。



「五月蝿いハエですね」



その言葉を言い放った瞬間手から光魔法と見られる魔法が発動される、その魔法は一瞬にしてアルドスを包むと塵一つ残さず消しとばした。



その光景にアダムスは固まって居た。



あまりにも突然の出来事に理解が追い付かなかった……だが魔法無効耐性を持っているアルドス武器が地面に落ちる音が聞こえた瞬間、これは現実だと理解した。



「あ……アルドスさん!!!」



落ちた武器を見て叫ぶアダムス、あのジル団長と並ぶ強さを誇るアルドスさんがあんなにも呆気なく……もしかすると団長も死んでいる可能性があった。



シェリルさんは別任務に、アルドスさんは経った今死にジル団長も安否が分からない……そしてフィルディアさんも意識を失って危ない状況、アルスセンテは自分1人しか残って居なかった。



「何震えているの?」



ジャルヌは小刻みに震えるアダムスを見て首を傾げる、アダムスは飛び交う取り巻きを無視して少し開けた周りに倒壊する建物も無い安全な場所にフィルディアをそっと寝かせると剣を握った。



その様子にジャルヌはまた首を傾げた。



「何をしてるんですか?」



「この国を守るのは俺しか居ない……」



「守るって……貴方が気絶してる間に大勢の人が亡くなってるんですよ?それに実力差……分かってます?」



突然雰囲気が変わりジャルヌの顔から笑顔は消えた。



「分かっている……だがまだ生きて助けを求めている国民も居る!彼らを……皇帝陛下を助ける為にも俺はアルスセンテとして……1人の騎士としてお前に立ち向かわないと行けないんだ!!」



喉が痛い程に叫び剣を構える、身体能力向上の魔法しか使えない程に体力は減っている……万全でも勿論勝ち目は無い、だがアダムスは震える足を止め恐怖を振り払ってジャルヌに向かって突っ込んだ。



「やはり人間は愚かです」



残念そうにジャルヌは呟く、そしてアダムスはいつの間にかアルドスが消された光に周りを囲まれて居た。



「こんなもの!!」



剣を振って光を消そうとする、だが案の定剣は消し飛んだ。



「まだ……まだだ!!」



アダムスは諦めなかった、殺そうと思えばいつでも殺せる程に実力差のあるジャルヌに遊ばれていると分かって居ても……落ちて居たアルドスの槍を拾い上げると槍を回転させ光の魔法を消した。



「魔法無効の槍……面倒くさいですね」



ジャルヌはそう呟くと空に浮こうとする、それを見たアダムスは咄嗟に勢い良く走り出した。



『付与/闇属性 展開/オートワーム』



槍に闇の魔法を付与すると腕の義手に仕掛けてあった一度限りの瞬間超絶強化の魔法を展開する、そしてグッと足を踏み込むと飛び立とうとしている女神向けて槍を放った。



『ダ・リアク・ラス!!』



槍の名を叫ぶと槍は二つに分身した、そして二つの槍はジャルヌ目掛け飛んで行く……だが倒れ側に見えたジャルヌの表情は余裕そのものだった。



「全く……このリリ……じゃなくてジャルヌ様に効くわけが無いじゃないですか」



咳払いをして何かをごまかすとジャルヌは意図も簡単にアダムスが放った渾身の一撃を受け止めた。



「くっ……そ」



ふらふらと立ち上がるアダムス、もう万策尽きて居た……だがそれでもなおジャルヌに立ち向かって行った。



「何故敵わないと分かっていながら立ち向かうのですか?」



ボロボロでフラフラのアダムスを見てジャルヌは少し引き気味に尋ねた。



「この国の希望であるアルスセンテの俺が立ち向かわなくてどうする……敵わないと知っていても立ち向かう、国民が居る限り!!」



その言葉に何処に居たのか隠れて居た国民が次々と辺りから姿を現した。



「ま、負けるなアダムスさん!」



「この国を救って下さい!!」



国民の声が聞こえる……その応援にアダムスはグッと強く拳を握った。



「はぁ……人間とはこれ程までに鬱陶しい種族とは思いませんでした……もういいです、死んでください」



そう言ってジャルヌは先程とは比にもならない程の大きな光の玉を上空に浮かばせると指を鳴らそうとする、あれが割れればこの街は跡形も無く消えるとアダムスは直感で分かった。



「皆んな逃げろ!!!」



咄嗟に叫ぶがもう遅かった。



「残念です」



そう呟きジャルヌはゆっくりと指を鳴らした。



その瞬間、光の玉にはヒビが入り溢れんばかりの光が辺りを包んで行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る