第21話 初召喚

フェンディルから泉発見の報告を受けたアルセリスはクリミナティ調査の事など完璧に忘れ上機嫌な足取りで滝に向かって居た。



その右手には虹召石が握り締められ、いつでも召喚出来る状態だった。



辺りには滝が流れる音が響き渡る、目的地は直ぐそこだった。



この世界に来てまだ1日……色々な事が起こり過ぎて少し疲れて居た。



光の巨人やクリミナティ、SKO時代とは違うアダマスト大陸……そこそこにレベルの高い元NPC達……アルセリスと言うアバターで異世界転移したからいいと言うものの、元の冴えない自分でこの世界に来て居たらと考えると少しゾッとした。



SKO時代に召喚魔法は無かった、だからその代わりに召喚士とガチャ機能があったのだ……だがこの世界は触媒を介してモンスターを従える事も出来る、王国でウルスが見せてくれたクラーケンがいい例だった。



だが光の巨人の様な例外もある様だった。



自身に見合わない魔力量の召喚だったのか元からかは分からない、だが彼が召喚した光の巨人はコントロール不可だった……まだまだ調べる必要がありそうだった。



前を見ず考えをごとをしながら歩いて居ると右足を前に踏み出した瞬間地面がない事に気がつく、ふと前を見ると目の前には轟々と激しい水しぶきを立ててかなりの高さがある滝の光景が広がって居た。



「確かあの裏だったな」



アルセリスは激しい滝を諸共せずに突っ込むと滝裏の洞窟に着地する、滝の真後ろと言う事もあって尋常ではない程に音がうるさかった。



「確かこの奥だったな」



自身の足音と滝の音が混ざり合わさって響く洞窟の中を進む、すると洞窟には不釣り合いな大きい扉が薄暗いながらも見えてきた。



扉の周りには微かだが誰かの魔力が漂って居た。



「誰の魔力だ?」



光の魔力と邪の魔力……恐らくリリィと誰かが戦った後なのだろう。



流石階層守護者と言った所だった。



アルセリスは漂って居た魔力を実体化させると黒いモヤの様な物が現れる、それを小瓶に詰めると別空間へとしまい込む、そして半開きの扉を開けると中へと足を踏み入れた。



中は滝の音が一切聞こえない不思議と癒させる空間だった。



「またお客様ですか、今日はやけに多いですね」



洞窟の中に女性の声が響く、アルセリスは辺りを見回すが姿は無かった。



「何処だ?」



「此処です」



そう言うと声の主、女神は泉の中から姿を現した。



「あんたが使役の女神様か?」



「そうですが貴方は?」



「アルセリスだ、突然で悪いが泉を使わせてくれ」



「泉をですか、この泉の水飲んでも不老不死にはならないですし斧を投げても金の斧は貰えませんよ?」



そう言いクスクス笑う女神、彼女が少し小生意気な正確な事にも驚いたがこの世界に金の斧、銀の斧の童話がある事にもっと驚いた。



全くの異世界の筈なのだが何処か向こうの名残もある……不思議な世界だった。



「そんな事には使わないさ」



そう言って虹召石を5個取り出し泉に投げ入れる、すると泉は眩い光を放ち始めた。



「これは召喚……虹召石はもう無くなったものと思ってました」



そう言って光る泉をアルセリスの隣に移動して眺める女神、予想はして居たが石はこれ以上増えないと思った方が良さそうだった。



泉の光は青から銀へと変わり、そして金になる、もう一つ変化して虹になればSSR確定なのだが正直この世界ではどうなるのか分からない故にあまり期待はせずに居た。



すると金色の光が消え虹の光が洞窟中を照らす、その演出に少しゲーム時代を思い出しテンションが上がった。



光は召喚されるキャラのシルエットを映し出す、人型の様だった。



光はやがて消え去り、泉の上に一人の少女を出現させた。



「召喚により馳せ参じました、リカと申します」



そう言ってお辞儀をする高校生の様な白い制服を着て刀を携えた少女、その姿にアルセリスは驚きを隠せなかった。



SSRが出た事もそうなのだが見た目が完全に向こうの世界の人と変わらなかった。



「私を召喚したのは貴方ですか?」



「ああ、お前は何処から来た?」



リカの言葉に頷くと驚きを隠しながら毅然とした態度で尋ねる、こう言うの最初が肝心、威厳ある印象を与えて置いた方が良さそうだった。



「私はアダマスト大陸より西のフィルディア大陸から参りました」



「フィルディア大陸……」



恐らく未知の大陸と言われている場所の事の様だった。



「貴方が私の主人に相応しいか、見極めさせて頂きます」



そう言ってリカは刀を抜くと両手で持ち構える、その行為にアルセリスは少し驚くも剣を構えた。



召喚して戦闘する、そして自身の力を認めさせ配下にする……何とも分かりやすいシステムだった。



心底アルセリスのアバターで良かったと隼人は思った。



「参ります!」



そう言いリカは剣に鋭利な氷を纏わせる、属性は氷の様だった。



アルセリスは突っ込んでくるリカの攻撃を軽く躱すと彼女の身体能力を測る、強化魔法無しの速さだとオーフェンと同等かそれ以上……守護者クラスと言った所だった。



リカは攻撃を交わされ背を取られるも直ぐ様前を向き距離を詰めて刀を振りかざす、それをアルセリスは剣で受け止めるとリカはアルセリスの腹部に蹴りを入れた。



「少しだけ衝撃が来たな」



大体の攻撃ダメージを激減してくれる鎧を着ているにも関わらず少しだけ衝撃を感じた……力はそこそこに強い様だった。



「クッ……強い」



「もう終わりか?」



実力差が少し見えて来た事にリカは少し表情を歪める、だが刀を持ち直し気合いを入れると刀を地面に突き刺した。



「まだ……本気は出してないです!」



そう言って魔法陣を地面に出現させる、すると洞窟の中は一瞬にして凍り付いた。



そして氷からは無数の人型をした謎の生物が現れた。



「これは……興味深い魔法だな」



見た事も無い魔法だった。



氷で出来た生物は氷の剣を持ってアルセリスに斬りかかる、それを拳で叩き割るが一体減るとまた一体新たに出現する……一見無限湧きに見えるが何か仕組みがありそうだった。



刀は依然として魔法陣を形成しつつ地面に突き刺さっている、それに現れる氷の人形もそこそこに強い……刀を介して地面の氷に魔力を送り強化しているのだろうか。



「溶かせば分かる事か」



そう言ってアルセリスは様子見を兼ね手に第3位階の炎を纏う、それを見たリカは不敵な笑みを浮かべた。



謎の笑みに不信感を抱きながらもアルセリスは地面を殴ると同時に炎を放出する、すると地面を殴った衝撃は吸収された。



「物理吸収……?」



炎で氷も溶けずおまけに物理を吸収する氷のフィールドとは流石SSR、いくつもの魔法を併用して使っている様子だった。



「私はフィルディア大陸の中でも極寒の地帯で育ちました、その地は元々暖かく作物も良く育つ土地だった……ですが氷の魔女と呼ばれる魔女がその土地を凍らせ死の地帯と呼ばれる様になりました、その魔女の娘が私……私の氷魔法は第1位階です」



そう言って拳を構えるリカ、フィルディア大陸の事は知らないが魔女の娘とは珍しい人を召喚した物だった。



この世界で魔女なんてあまり聞いた事が無い、フィルディアとアダマスト大陸とでは色々と違う様子……ますます興味が湧いた。



「第1位階か……骨が折れるな」



「え?」



アルセリスの言葉に首を傾げるリカ、第1位階は最高位の魔法、それを打ち破る術は中々無い、そしてここまで肉弾戦で強さを示していたアルセリス、彼がこの状況を打破出来る訳が無いとリカは勝手に思い込んでいた。



それ故にアルセリスの言動に首を傾げたのだった。



「右手に第1位階の炎魔法、左に同じく炎魔法、単純計算で威力二倍だ」



そう言ってアルセリスは辺り一帯を火の海へと変えた。



「クッ……第1位階をこんなに軽々と……」



リカはアルセリスの驚くべき程に高い魔力量に驚くを通り越し呆れていた。



第1位階を片手で魔法陣も無しに発動出来る者が居る……世界は広いものだった。



氷はやがて溶けて人形達も消えていく、それを確認するとアルセリスは炎を消した。



「参りました、貴方に従います」



そう言って片膝つくリカ、しかし従わせたは良いものの、この世界の召喚と言うものの仕組みがイマイチ理解出来なかった。



リカを見る限り召喚するのは恐らくこの世界の人物、アルカド地下神殿のキャラ達はゲーム時代に親密度も上げて忠誠心も高く納得出来るのだが彼女が負けたからと言って自分に従う意味が分からなかった。



「リカは何故俺に従おうと思うのだ?」



「私は負けましたので」



「いや、そうではなく召喚されても国へ帰れば良いじゃないか」



よく分からない場所に召喚され負ければ従う……正直ゲームなら理解出来るが現実だと理解し難かった。



そもそも何故リカが状況を把握して力量を測りに来たのかも謎だった。



「その点は私が説明します」



混乱するリカ、そこに割って入る様に先程まで少し燃えていた女神が燃えた部分を鎮火して話に入って来た。



「まず召喚と言うのは私こと女神セレスティアの魔力と虹召石の不思議な力の呼応によって行っています」



そう言って地面に自身と虹召石の絵を描くセレスティア、正直下手くそだった。



「次に召喚される人物はランダムです、今回はリカさんが出ましたがゴブリンも出ればクラーケンも出ます、基本的に純粋な人間は出ません」



そうドヤ顔で説明するセレスティア、だがその説明だと色々と気になる点があった。



「純粋って事は他種族との混血なら出るって訳か、それより何故召喚される奴は召喚主に忠誠と言うか従うんだ?」



「それは召喚士の方に備わって居る特別な力のお陰です」



「特別な力?」



「『万物、創造主の子なり』創造神様の力のごく一部です、召喚士に転職する際に神殿でご加護を受けましたよね?」



その言葉に首を傾げるアルセリス、召喚士のジョブを獲得したのもかなり前の事で全く思い出せなかった、それにゲームだった故にあまり気にもして居なかった。



だが女神が言うのであれば多分受けて居たのだろう。



「だがその力があるからなんなんだ?」



「つまりその力のお陰で召喚した子は貴方の力量次第で従うって事です」



「成る程」



確かにリカは魔女の子と言っていた、つまり人間では無い……気になる事は色々と残るが一先ずは納得した。



そうとなれば次の召喚だった。



アルセリスは再び虹召石を泉に放り投げる、だが石は魔法陣を形成せずにプカプカと浮いて来た。



石が浮くと言う事にも驚くが召喚できない事にアルセリスは女神の方を見た。



「すみません、実は私の魔力が今は足りなくて……正直彼女を召喚する分が残っていた事が驚きのレベルで」



「魔力が足りないってどう言う事だ?」



女神、神と言うぐらいなのだから魔力位どうにかなりそうなものだった、それに魔力は大気に浮いて居る、自然と回復する筈だった。



「私の魔力は特殊と言いましたよね」



「あぁ」



「私の魔力は信仰心なんです、この滝がまだこれ程勢いが強く無い頃、ちゃんと道も舗装されて近隣諸国の人々が聖地として崇めセレスティアの略であるセティア教と言うのがあったのですが……今は見ての通りです」



そう言って辺りを見回す女神、確かに美しくはあるがどこか閑散として居た。



「と言う事はあんたの存在を再び世に出して信仰させれば召喚出来るって訳か?」



「そうですね、信仰心が集まればあの木が成長します、御神樹ですね」



そう言って中心にあった気を指差すセレスティア、よく見るとリカの召喚で少し小さくなって居た。



「取り敢えずセレスティアを名を広めれば良いんだな……分かった」



「頼みました」



そう言って泉を出て行くアルセリスとリカに手を振るセレスティア、これからが忙しくなりそうだった。

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