第2話 地下王国
「アルセリス様、目を覚ましてください」
身体が揺さぶられる振動とツンっとした少女の声に目を覚ました。
「んん……誰だ?」
いまいち寝起きで状況が把握出来ない、確か俺はメンテナンスが明けるのを待つ為に寝て……
「アルセリス様、アルラです、お迎えに上がりました」
「お迎え?」
その言葉にキョトンとする、そして少し視線を上に向けるとそこには半袖の和服を着て腰に刀を差した黒髪パッツンの少女が立って居た。
その姿に隼人は混乱した。
何故ここに人がと言う理由では無い、何故彼女が此処に……彼女はアルラ・フィナード、俺の使役する召喚獣のNPCだった。
NPC、つまり彼女に自我は無いと言う事……だがアルラは何の命令も施して居ないのに迎えに上がったと言った、つまりそれは彼女自身で判断し、そして俺の元に来たと言う事だった。
「皆がお待ちです、このゲートをお潜り下さい」
そう言って片手をあげるとアルラは目の前に禍々しい負のオーラに包まれた扉を出現させる、そして扉が開くとその向こうには神殿が見えた。
その光景に自然と足が前に進む、そして扉を潜り神殿の中に入ると中は何もなく、目の前に大きな祈る女神の像があるだけの殺風景な空間が広がって居た。
「此処は……」
この神殿はアルカド神殿、及びアルカド地下王国だった。
SKOで作り上げた言わば自分自身の国、召喚士となり召喚したサモンズ達に役割を与え、自身が王の国だった。
意味が分からない、突然アルラが現れたかと思えばアルカド王国に連れて来られる……この不可思議な状況に取り乱しそうになるもメニューを開こうと指をスワイプさせた。
だが何も起きなかった。
「メニューが開けない?おまけに時刻も消えてる……?」
今まで出来たメニュー操作や視界の右端に写って居た電波状況、充電量、時刻が全て消えて居た。
これはまるで……現実の世界の様だった。
「アルセリス様?どうかなさいましたか?」
心配そうな表情で覗き込んでくるアルラ、彼女にも不思議と人間味と言うのか、NPCでは無い様な感覚があった。
「アルラ、少し触るぞ」
「アルセリス様?!」
突然の宣言に驚くアルラを他所に隼人はアルラの頬を触る、相変わらずぷにぷに……では無くこれは問題無かった。
そして胸を指でつついて触る、するとアルラは恥ずかしそうに赤面した。
だがその他におかしい事は無い……それが逆におかしかった。
このゲームは女性などを使役し、部下と出来るが故にR18行為をするプレイヤーが居た、それを防ぐ為に胸などを触ると警報がなり、強制ログアウトの後に最悪垢バンと言う徹底した対策を取って居た、それが起きないと言う事は運営が機能して無いか……現実的では無いが俺がSKOの世界に転移されたかのどちらかだった。
正直後者は現実的では無い……だがメニューも無く警報も無い以上、考えられないことも無かった。
「あ、アルセリス様……」
「あぁ、すまないなアルラ」
敢えて冷静に謝ると祈る女神像の裏に行き隠し通路を潜る、この世界が本当にゲームでは無いのだとすればなるべく部下には怪しまれない様にしないと行けなかった。
この世界での俺の設定は絶対的な力を持った威厳ある支配者、このアルカド王国の絶対的な王……尊敬される存在だった、それが急に現実のニート丸出しで女性経験がないオタクにでもなったら国が崩壊する、それだけは避けたかった。
だがそれにしても何故この世界に転移されたのか……そもそもこれは転移なのか……疑問は募っていくばかりだった。
ガチャに課金した石も何処かへ消えて居る、これからどうすれば良いのかも全く分からなかった。
「アルセリス様」
「おわっ!?」
急に目の前に現れたアルラに驚いて変な声が出る、その様子にアルラは驚いた表情をして居た。
まずい……いきなり理想のアルセリス像から離れてしまった。
「おわっ……オワスの村をアルラは知って居るか?」
「オワスの村ですか……確かこの神殿より北に30キロ行った地点にある村ですね」
「そうだ、その村だ」
まさか本当にあるとは思わなかった、適当にありそうな村名を言ってみたが……何とか怪しまれずに済んだ。
だが正直これからの事を考えると頭が痛くなる、正直に言って俺は女性が苦手だった。
理由はモテずに全く会話の機会もなく過ごして来たからなのだが……この世界をそのトレーニングに使おうと部下を女性中心で配置してしまって居た。
つまり俺は女性に囲まれて生活しないと行けないと言う事だった。
「アルセリス様、オワス村がどうかされましたか?」
立ち止まり考え込んで居たアルセリスにアルラが鎧を叩き呼ぶ、どうされたと言われても適当に言っただけで何も考えて居なかった。
「あー、後で偵察に行く、把握して居てくれ」
「偵察ですか……失礼ながらお聞きしても宜しいですか?」
「なんだ?」
「何のためにオワスの村を偵察に?」
踏み込んだ質問をしてくるアルラ、正直その質問は予想して居たが答えなんて思いつかなかった。
「アルラ、深入りはするな」
兜の奥が赤く光る、その様子を見たアルラは冷や汗を流した。
「大変申し訳ございません……」
膝をついて謝罪をするアルラ、やはり部下と言うだけあって命令には忠実の様だった。
「気にするな、先程何かを言おうとして居なかったか?」
「はい、この神殿地下は広大な上、何階層ものダンジョンになって居る故、テレポートで移動をと提案します」
「成る程、テレポートか」
アルラの言葉に感心する、魔法の存在を完全に忘れていた。
召喚士はどちらかと言えば魔法職業、故にテレポートは隼人も会得して居た。
ただいつもは魔法メニューから発動していた……今の場合はどう発動すれば良いのか分からなかった。
「どうされましたか?」
テレポートをしないアルセリスを不思議そうに見るアルラ、早くしないと怪しまれてしまう危険性があった。
「テ、テレポート!」
杖を振り上げ高々と叫ぶ、すると目の前が光に包まれ、次の瞬間には王座に座っていた。
成功……した様だった。
「アルセリス様がお戻りになりました!皆の者、跪きなさい!」
アルラがそう叫ぶ、すると目の前に居た姿が多種多様の幹部たちが跪き各々にアルセリスの名を呼んだ。
凄い光景、まるで朝の朝礼に訪れた社長に挨拶をする社員の様だった。
ふとアルラに目線を移す、よく思えば彼女の種族は鬼姫、人間では無かった。
すらっとした細い身体、だが筋力は人間のそれとは比にならない程に強い、下手すれば力だけが自慢のオーガが10体束になっても叶わないほどの力だった。
「アルセリス様、1、2階層守護のフェンディル、報告無しです」
アルセリスの前にすっと現れた2メートルはゆうに超える身長をした斧を背中に背負って居る男、彼はフェンディル・ワーグスト、ネオサイクロプスだった。
普通のサイクロプスでは無く、魔法に特化しつつも本来の身体能力は失って居ない次世代サイクロプスで課金に課金を繰り返してやっと当てた上位モンスターだった。
「そうか、ご苦労」
あの頃の苦労をしみじみと思い出す、ふとフェンディルの隣に視線を移すとそこには全く表情が変わらない身長150にも満たない青髪ロングで頭頂部にちょこんと生えて居る髪の触覚が特徴的な少女、マリスが立って居た。
彼女もまた人間では無い、マリスは水に特化した機械人形、この地下神殿第三階層の海の樹海を統べる守護者だった。
彼女の顔を見ると癒される反面、20万が消えたのを思い出す……癒されるのにトラウマが蘇る……複雑なキャラだった。
「ん」
そう言って紙を渡してくるマリス、紙には寝たいと書かれて居た。
「あー、寝て良いぞ……」
「ん」
そう言ってスタスタと去って居るマリス、その後ろ姿を見てアルラはため息を吐いて居た。
アルラとマリス、二人とも部下なのだが忠誠度に違いがあるのはこのSKOがゲームの時にあった好感度システムが原因だった。
好感度が高ければアルラの様に忠誠を誓ってくれる、ただマリスの様に低ければあの様に自分勝手な事をするのだった。
「アルラ、少し一人になるぞ」
「かしこまりましたアルセリス様」
お辞儀をするアルラを横目にテレポートを使う、そして地下神殿の最深部に作られた自室へと転移した。
「あんな喋り方疲れる……」
ベットと机だけしか無い殺風景な部屋のベットに寝転がるとため息を吐く、いつアルラ達が入って来ても良い様に鎧を脱げないのは窮屈だが一人になれたのは良かった。
フェンディルとは普通に話せるのだがやっぱりアルラやマリスの様な女性、特に美人だとどうしても緊張してしまった。
だがそれにしてもこの世界は一体何なのだろうか。
もうここまでNPCだった守護者達が何のアクションをせずとも話して居るのを見るとゲームとは思えない……やはり転移の線が濃厚なのだろうか。
戻りたい……そうは思わないがそうなるとこの世界でどう生きて行くかの方針を決めるのが面倒くさかった。
この世界は人間は人間と、エルフはエルフと言った様に他種族間の交流が無く、寧ろ互いを憎み合う関係の世界故に争いが頻発して居る、召喚士はそんな因果関係など無視して支配下におけるのだが……何故か安心出来なかった。
そもそも本来ならば俺は冒険者、国に所属して冒険をする身なのだが幸いにも廃課金のお陰で国王スタートでこの異世界生活を迎えることが出来た、だがこの神殿が他の冒険者に見つかるのも時間の問題……考えることは山積みだった。
「はぁ……あいつの所に行くか」
ゆっくりとベットから起き上がる、そして大きくため息を吐くと杖をコンコンと2回地面につきテレポートをした。
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