ガチャ召喚士〜ガチャを使って目指すは最強の王国〜

餅の米

第1話 始まりのダイブ

ピコンっと言う音が薄暗い部屋に鳴り響く。



カーテンの隙間から入ってくる明かりは朝になって居る事を伝えて居た。



ベットの中からぬっと手が伸びると一人の青年はヘッドギアを取りは外して携帯の電源を入れる、デジタルの時刻は午前7時30分を示して居た。



「もうこんな時間か」



ボサボサに伸びた髪を掻き毟りベットから起き上がると物が散乱して居る部屋を器用に歩き冷蔵を開ける、だが中には調味料と缶ビール一本しか入って居なかった。



男は欠伸をして台所に行くと戸棚からカップ麺を一つ取り出す、そしてポットでお湯を注ぐとゲームソフトでいっぱいの机に冷蔵庫から取り出したビールと共に置いた。



3分測ろうとする携帯を開く、その瞬間大きな着信音が部屋の中に響き渡った。



男は声には出さずとも身体をビクッとさせ、かなり驚いたリアクションを取った。



画面には母と表示されて居た。



その瞬間男は大きな安堵のため息を吐いた。



そして着信ボタンを押すと携帯を耳に近づけた。



『隼人?元気にしてる?』



弱々しく、受話器を耳に密着させないと聞こえない程の声で言う母、それに男は唾を飲み込んだ。



『元気だよ母さん、次の就職先も前の会社に紹介して貰ったし心配しなくて大丈夫だよ』



『だけどお金は大丈夫かい?何なら私が仕送りしても……』



その言葉に男は慌てて断った。



『大丈夫だよ母さん、まだ貯金もあるし……これからちょっと忙しいから切るね』



『身体には気を付けてね……』



その声を最後に通話は途切れる、男の目には涙が浮かんで居た。



自己紹介が遅れたが俺の名前は榊 隼人、20でエリート企業に就職、そして1年と言う破格の速さで部下を持つようになったエリート……だがその2年後、ある部下の甚大なミスのせいでクビ宣告をされた23歳の社会人だった。



いや、今は社会人と言うよりもニートの方が正しかった。



会社勤めの時に溜めた貯金を切り崩して生活する現状、朝から夜までずっとゲーム三昧の生活だった。



母には心配させない為に仕事を紹介してもらえたと言ったが人生はそんなに甘くない、次の就職にアテも無ければ働く気も無かった。



理由は前の企業にある、部下を持つ前は昇進の為にと死ぬ程努力をした、だがいざ昇進して部下を持つとある事に気が付かされた。



俺には部下を導く才能が無いと。



指導をしても他の人の様に分かりやすく出来ず、チームで案件を抱えても失敗に終わる、しかしそれは俺が無能なのでは決して無かった。



後々に気が付いたがそれは全部俺よりも年上だが部下の男……小西が行った俺を失落させる為の工作だった。



だがそんな事も知らずに俺は会社に在籍中失敗を繰り返し、自分の実力を信じられなくなった、そして大手との取引を失敗して会社に甚大な被害を与えた所でとうとうクビを切られたのだった。



社会と言うのはつくづく難しいものだった。



「おっと、麺が伸びるな」



ボーッとしているといつの間にか3分が過ぎていた、側にあったリモコンでテレビを付けると麺を啜る、食事もなるべく節約だった。



こうして部屋が暗いのも電気代を節約する為、だがそれは生活を引き延ばす為にする節約では無かった。



『サモンズキングダムオンライン、絶賛配信中!!』



テレビから聞こえてくる楽しげなBGMと大御所の芸能人がヘッドギアを付けて楽しそうにはしゃぐCMが視界に入ってくる、そう……全てはこのサモンズキングダムオンライン、通称SKOに課金する為だった。



サモンズキングダムオンライン、モンスターと人間、他種族が相容れない、敵同士と言う設定の異世界アダマストが舞台のMMORPGゲーム、今や様々なMMORPGゲームが登場している中で根強い人気を誇るのには訳があった。



それは豊富なキャラクターに様々な職業、そしてMMORPGには珍しいガチャでモンスターを獲得出来るシステムだった。



普通のゲームは課金要素があっても武器やアバター素材のみ、だがこのゲームはそれに加えて召喚士と言う職業があり、その職業のみに使える使役と言うスキルがあった。



使役を使えばモンスターを使い戦う事が出来る、他には無いシステムに新規層も増え、課金する人も多くなり……SKOは無類の人気を誇っている訳だった。



「10万奮発して課金したし……早速潜るか」



仕事を辞めて切羽詰まっている反面、目の前の楽しさに心踊る自分が少し怖い……だが今は全て忘れてSKOの世界を楽しむ事にした。



食べ終わったカップ麺を台所の流しに置くとベットに寝転がる、そしてヘッドギアを装着すると頭部の横にあるボタンを押した。



すると機械的な音が響き渡り、脳に催眠信号を送る、そして次第に隼人の意識はゲームの中へと吸い込まれて言った。



次に目を開くと目の前には広大な自然が広がっていた。



「この世界はいつ来ても気持ちいいな」



グッと伸びをして辺りを見回す、大きな木々を見下ろせるほどに大きな大樹の上に隼人は立っていた。



いや……この世界では隼人よりもアルセリスと名乗った方が良さそうだった。



上から下まで黒金の鎧に身を包み赤い玉が付いた杖を持っているこの身なりで隼人と言う名はカッコがつかない、アルセリス……ユーザー名の方が良かった。



「さてと……早速ガチャでも回すか」



指をスワイプさせてメニューを開く、そしてガチャのボタンを押そうとした時、ある事に気がついた。



「そう言えばテレビの電源切るの忘れてたな」



テレビを点けっぱなしだった、このゲームに平均7〜8時間は潜る俺からしたら無駄な出費でしか無い、すぐさまログアウトしようとしたその時……もう一つの異変に気が付いた。



「ログアウトボタンは……?」



メニューからログアウトボタンが消え去っていた、いや……ログアウトボタンだけでは無い、設定や武器、アイテムの欄も全て消え、残っているのはお知らせとガチャのみだった。



「どう言う事だよこれ……」



アルセリスもとい隼人に焦りが募る、何故ログアウトボタンが無くなっているのか……理解不能だった。



ログアウトが出来ないなんて異常はラノベだけで良いのに……現実で起こるとここまで焦るものなのだろうか。



一先ず深呼吸をしてお知らせを開く、するとつい1分程前にメンテナンスが開始されていた。



「メンテナンスか……焦って損したよ……」



安堵のため息を吐く、メンテナンスならばそのうち出れる様になるだろう……そう思った時、一つの違和感を感じた。



ボタンが消えたのはメンテナンスの影響で納得が行く、だが何故俺はこの世界に入れたのだろうか。



本来ならばメンテナンスの1時間前には全ユーザーはログアウトをし、してないユーザーは30分前に強制ログアウトさせられる……だが俺がログインしたのはつい数分前、つまり入れるはずの無い時間帯だった。



「どう言う事だよ……閉じ込められたのか?」



ガチャガチャと金属音を立ててその場を歩き回る、いつ出られるのか、俺の他にユーザーは居ないのか……気になることは沢山あったが時間が経つにつれて次第に落ち着いて来た。



理由は単純、向こうの世界に戻れなくとも未練などないという理由だった。



向こうの世界での俺は無職でニート、いつ資金が尽きるかも分からないジリ貧の生活を強いられている、それに比べてこの世界は自由、誰もが億万長者になれるしヒーローになれる……この世界で生き、この世界で死んでも良かった。



勿論異世界転生の類で無ければ死ぬ事は無い、だからこの世界での死は向こうの身体が栄養を取れず死ぬ事を意味する、あまり良い死に方では無いがこの世界に居られるだけマシだった。



「死を前提にしても意味ないか……一先ずメンテナス終了時刻の9時まで待つか」



左上に表示されている時間になるまで待つ為に隼人は大樹の幹に背を預けると目を瞑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る