第3話 守護者

テレポートした先は大きな洋館の玄関先だった。



ここは最終階層の端にある監視室の様な場所だった。



玄関前にある僅かな段差を超えると扉を叩く、すると数秒もしないうちに扉は開いた。



「これはこれはアルセリス様、私目に何用でしょうか」



中から出て来たのは執事服を着たかなりガタイの良いダンディーな白髪の男、彼はアウデラス、階層守護者補佐統括兼アルカド王国の頭脳だった。



「いや、少し気になることがあってな」



「気になることと言いますと?」



「この世界についてだ、変わった事はないか?」



そう問いかけるアルセリスの言葉にアウデラスは悩む仕草を取る、正直言ってこの世界の事はゲームを通して知っているが今のアダマストはゲームとは違う様子、その証拠にNPCが自我を持っているのだから。



「そうですね、他国に動きも無く、侵入者の報告もありません、我々はアルセリス様の一声でいつでも動く準備は出来ています」



そう言って跪くアウデラス、やはり彼に聞いても駄目な様子だった。



俺はゲーム外から来た故にこうして現在の状況に混乱しているが彼らは元々この世界の住人、彼らからすれば何の変化もない……せめてプレイヤーでも居てくれればこの気持ちを共有できるのだが。



「ん……?プレイヤー?」



よく思えばプレイヤーは本当に自分だけなのだろうか……現に俺はこうしてこの世界にいる、俺だけが取り残されたとは限らなかった。



メッセージ機能などは全て消え去り連絡手段は無いが恐らくこの世界で古参のプレイヤーは桁違いの強さを誇っている、どうにかして探し出したかった。



見つけたらどうするか、そんな事までは考えていない、向こうの世界に戻りたいとも思わないがやはり同じ世界に居た人が居ると気持ち的に安心感が違うはずだった。



しかし強いプレイヤーは拠点をバラさない、このゲームは略奪システムもあった、だから俺はこうして防衛しやすい地下を選び国を作ったのだ。



「アウデラス、アダマスト冒険者の情報は無いか」



その言葉にアウデラスは扉を開き洋館の中に入って行く、赤い絨毯の上を歩くアウラデスの後ろをついて行くと一番奥の部屋へと入って行った。



閉まりかける扉を手で止めて開けると中に入る、部屋の中は壁に本棚が敷き詰められ部屋の中央に机と椅子が置かれその上に大量の資料が置かれている如何にも執務室らしい部屋だった。



「すみません、冒険者の情報は少ない様です」



そう言ってアウデラスは申し訳なさそうに一枚の紙を手渡して来た。



「気にするな、お前は良くやっている」



「そんな……勿体無きお言葉に感謝致します」



そう言って深く礼をするアウデラスを他所に紙に目を通す、この世界には7階級に分けて冒険者が存在する。



ホワイトタグ

ブロンズタグ

シルバータグ

ゴールドタグ

プラチナタグ

ダイヤモンドタグ

アダマストタグと言った風に冒険者達はタグと呼ばれるものを首から下げて居る。



大体のNPCはゲーム時代ゴールド止まりだった、要するにプラチナ以上の冒険者はプレイヤーの可能性が高かった。



そして紙にはプラチナタグが一人、ダイヤモンドタグが一人記載されていた。



アーネスト・ファラン、ライノルドの二人だった。



「アーネストにライノルド……聞かない名だな」



「はい、アーネストはグレーウルフと言う冒険者のリーダーでライノルドはセルナルド王国の騎士長、厳密にはプラチナタグ級の強さです」



アウデラスの言葉に再び目線を資料に移す、騎士長に冒険者のリーダー……どちらともプレイヤーと言う線は薄そうだった。



まざライノルドは確実に違う、プレイヤーは基本王国関係者の職には付けない、つまり彼は元NPCと言う事だった。



問題はダイヤモンドタグのアーネスト、プレイヤーとして見る事も出来るが確定付ける要素が少なかった。



アーネスト・ファラン

魔剣を操りし魔剣士。



それだけが紙に記されて居る、あまりにも情報が少なかった。



「アーネストは何処を拠点に冒険して居るんだ?」



「セルナルド王国です」



「セルナルド王国か……」



今から出発するのも良いが……一先ずは先に自身の国の状況を把握しておいた方が良さそうだった。



「すまないなアウデラス」



「いえ、アルセリス様の命令ならば何でも従いますとも」



そう言って笑うアウデラス、あまり悪い気分では無かった。



彼らはゲーム時代NPC、決まった言葉しか言わずこうした感情表現も無かった……会社を辞めて以来人間関係を絶っていた俺からすれば新鮮だった。



「そうか、それじゃあまた頼む」



「はい」



跪くアウデラスと言葉を交わすと隼人は赤い杖を取り出す、そして二回地面を突くとテレポートを発動した。



「転移の杖、相変わらず便利だな」



赤い宝玉が付いた杖を再びしまうと顔を上げる、転移した先は湖に囲まれた神殿だった。



地上に出たのでは無い、此処は第六階層、賢者の神殿だった。



神殿の地下に神殿と言うのもおかしな話だが信仰者と言うスキルを持つキャラを神殿に配置すると相性が良い故仕方なかった。



何本もの石柱が並ぶ神殿の中を辺りを見回しながら歩く、中の作りは地上と大差無く白い大理石で出来た床に白い石柱、そして白い両手を広げた天使の像……至って普通の神殿だった。



「これはこれは、アルセリス様、こんな老いぼれに何用ですかね?」



奥の小部屋からゆっくりとこちらに杖をつきながら近づいてくる白い髭を蓄えた老人、彼の名はウルス=キュルス、ドッペルゲンガーの魔法使いだった。



「少し様子を見に来ただけだ」



そう言って辺りを見回す、彼の顔はあまり長く見て居られなかった。



理由は課金額、彼には36万を費やしやっと当てたこのアルカド王国でも最高峰の魔法戦力、第1位階まで使う事の出来るキャラだった。



ただ性格に少し難がある、それはキレやすい……こんな穏やかそうな見た目をして居るが本来の姿では無い故、簡単な事でキレてしまうのだった。



それ故にこの神殿に一人だけ彼を配置して居た。



「アルセリス様、そう言えば最近新たな魔法を開発したのですよ」



「ほう、新たな魔法か」



その言葉に少し興味を抱く、彼の魔法への探究心には尊敬すべきものがあった。



ゆっくりとした足取りでウルスは神殿を出ると断崖絶壁の側まで行く、そして杖を上に掲げた。



「我が魔力を持って創生する、悪魔よその魂を我に与え給え……」



詠唱を始めると湖に渦が複数発生する、そして詠唱が終わると渦の中から禍々しい闇に包まれたクラーケンが三体出現した。



「おお、召喚魔法か」



「はい、クラーケンクラスを同時に三体、しかも消費魔力は無いに等しいです」



「媒体か何か必要なのか?」



「居るのはクラーケンのゲソと水です、それさえあれば水溜りからでも召喚可能ですぞ」



中々に使い勝手の良さそうな魔法だった。



ただクラーケンのゲソを集めないと行けないのは少し怠い……その辺は追々考えておいた方が良さそうだった。



「すまない、邪魔したな」



「何を仰いますか、この国はアルセリス様のもの、邪魔などと」



「ははっ、そうだな、それじゃあ俺は行くぞ」



「かしこまりました」



そう言って見送るウルスを横目に隼人は杖を取り出し地面を突いた。

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