アイデアのちから/チップ・ハース

記憶に焼き付くアイデアとは、以下のチェックリストに基づく。


・単純明快さ :核となる部分+簡潔さ

・意外性がある:関心を払う

・具体的である:理解し記憶する

・信頼性がある:同意する、あるいは信じる

・感情に訴える:心にかける

・物語性がある:そのアイデアに基づき行動できる



 本書は実に物語的で、ほぼ全ての内容に「具体例」が書かれていて、読み物として大変面白い。


 出だしの「腎臓泥棒」のエピソードは、正直嘘だと分かった跡で読んでもゾッとする。

 是非本書を読んで震えてもらいたい。



 以下、個人的に面白かった部分を抜粋。


・差別の恐ろしさを知ってもらうため「差別する」


 とある教師が

「キング牧師暗殺がどれだけ深刻な問題かを、『白人の学生たち』に分かってもらいたい」

 と思っていた。

 白人学生にとっては、ただ他人事だった。

 黒人が殺されただけという認識ですらなかったからだ。


 そこで彼は行動を起こす。


 生徒を「青い目」と「茶色い目」のグループに分けて、

「青い目の子を差別するように」

 と、生徒に命令したのだ。


 すると、生徒たちは「嬉々として差別する」ようになった。

 

 これは成功し、未だに生徒間は差別を受けた当時を振り返るようになり、誰も人を差別しなくなった。



・信じてもらう


 とある研究生が、「ピロリ菌、潰瘍の原因説」を主張し、医師団からバカにされた。

 事実を証明するため、「研究チームの目の前で、自分で飲んで立証」し、ノーベル賞を獲得する。



・マザー・テレサの法則

「私は社会を見たときには動かない。個人を見たときに行動する」


 寄付を募るとき「社会にはこれだけの貧困が起きて言える」と訴えるより、「○○たんは可哀想なんですよ!」と個人を支えるように訴えかける方が、多く寄付される。



・自己利益に訴える

「私がピアノの前に座ったら、みんな笑った。しかし、私がピアノを弾くと皆黙った」

 これは、有名なキャッチコピーである。




・イラクで駐留米軍用の食堂を開いている男性


 彼は米兵の士気を上げるため、殺風景な軍用食堂の壁に野球チームのポスターを貼り、照明も無骨な蛍光灯からファンの付いたライトに変えた。

「食事を出すのは自分の『仕事』だが、兵士の士気を高めるのは自分の『使命』だ」

 と、彼は語っている。




・「テキサスを怒らせるな」


 テキサス州は、道路ポイ捨てに気を揉んでいた。

 警告ポスターを貼っても、効果なし。

 関係者はポイ捨ての大半が、

「スポーツ好きで権威者嫌いの南部野郎」

 と断定する。


 そこで関係者は、南部野郎に「刺さる」フットボール選手を啓発CMに出した。

 決めぜりふは、「テキサスを『怒らせるな』」。

(「散らかすな」と同じ意味)


 結果、ポイ捨てが四〇%も減った。


 タフな奴の怒りをぶつけようとしても、手話ちゃんはテキサスらしさは皆無だ。

 ジョージ・フォアマンでもダメなのだ。彼は権威側だから。

 



・「数学が何の役に立つの?」「役に立たないよ」

 数学を身につければ、優れた学者にも、立派な親にもなれる。

 目的達成のための手段だから、数学を覚える必要があるだけ。

 数学のマスター自体が大切なのではない。





◇アイデアを、聞き手の記憶に焼き付けられない原因


 本書は、「知の呪縛」についても触れている。



 スタンフォード大学が教えている「記憶に焼き付くアイデア作り」講座では、グループに学生を分けてスピーチをしてもらい、どんなメッセージが記憶に焼き付くかを競う。


 高得点を取ったのは、話術に長けた学生たちだった。


 ところが、「モンティ・パイソン」を見せてから、スピーチで覚えている内容を書き出せと指示すると、なんと「たった一〇分の間で、ほぼ全部忘れてしまっていた」のである。


 なぜか?


一.大量の情報の中に、リードを埋没させてしまうから


 知識が豊富な人や、多くの情報を入手できる人の最大の弱点は、「全部伝えたがる」こと。

 この手のタイプはたいてい、全部ノートに取ろうとする。

 目的や正確さよりも、集めたデータの量に値打ちがあると思っている。


「中核となる部分を際立たせるために、情報量を減らすこと」 

 は、自然にはできない。


二.メッセージより、プレゼンテーションを重視するから

 情報量が多くてまんべんない着飾ったスピーチでは、記憶には残らない。


三.判断力の低下

 選択肢が多すぎるから。


四.知の呪縛  

 メッセージを相手に届けるプロセスは、「答え」の段階の次に「他者に伝える」段階がある。


 答えの段階では強みになったモノ、つまり専門知識が不可欠だ。

 が、「他者に伝える段階では裏目」に出る。





 実はコレらの問題は、小説執筆にもほぼ同じことが言える。

 一、二に関しては、「文章のうまさに捕らわれている」人に多い。

 知っている情報を全て教えたがり、文章のキレイさに心酔してしまう。


 こういうトラブルに陥らないように、チェックリストと照らし合わせて推敲すると、「他者に伝わる作品が書ける」かなーと。

 


 前回紹介した『ずるい考え方』から更に踏み込みたい人は、ぜひぜひ。

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