第7章 隣町に?
怪盗マリアを捕まえる事に失敗した拓は、より一層発明にのめり込んだ。
「一つだけじゃダメだ。もっと量を増やさないと。」
だが部屋を探しても、部品になるようなモノはない。
拓は父親が仕事から帰ってくると、早速部品屋に誘った。
「部品屋?この前、部品はなかったんじゃないっけ。」
「改良型ネズミ捕りは、従来のネズミ捕りよりも、部品が少なくていいんだ。ねえ、お願い!」
拓の発明に一目置いている父親としては、なるべく部品を買ってあげたいけれど、何でもかんでも買っていたら、生活費が無くなってしまう。
「今度な。給料が入ったら、買ってやる。」
「あーん。それじゃあ、間に合わないんだよ!」
「何に。」
「怪盗マリアを捕まえる事だよ!」
父親は、こけそうになった。
「まだ、そんな事言ってるのか。」
「怪盗マリアは必ず捕まえる。」
拓は厳しい顔をして、手を握りしめた。
それを見て父親は、やれやれとため息をついた。
「分かった。部品を買ってやろう。」
「やったあ!」
足が弾むように、父親と部品屋に行った拓。
部品屋のドアを開くと、真っすぐにレジへ行った。
「おじさん。この部品、3個ずつちょうだい。」
「はいよ。」
発明少年で有名な拓に、そんな事言われたら、二つ返事で用意してしまう。
部品はちょうど、3個ずつ用意できた。
「13,000と820円ね。」
拓の父親は、渋々カードを出した。
「ああ、うちの店。カード使えないんだ。」
「ええ!?」
拓の父親はがっくりしながら、財布のお金を出した。
「小遣いが全部無くなった。」
「大丈夫だよ。お母さん、優しいからまたくれるって。」
拓はスキップしながら、家に帰った。
「ただいま!」
「お帰りなさい。夕食の準備できてるわよ。」
母親がキッチンから覗いた。
「いらない。俺、2階で改良型ネズミ捕りを……」
「ダメです。」
母親は、拓の首根っこを掴んだ。
「そう言う事は、ちゃんとご飯を食べてからね。」
「はーい。」
拓は部品をリビングに置き、夕食のテーブルについた。
「今回は、どういう物を作るの?」
「同じだよ。但し、あと三つ作るんだ。」
拓は意気揚々と答えた。
「しかし本当に、発明好きね。」
母親も父親と目を合わせて、呆れている。
「発明好きじゃなくて、発明家だから。」
拓はご飯をかき込みながら言った。
一方の利亜奈は、拓をもっと敵視していた。
美術館に忍び込んだあの日。
実は、あの改良型ネズミ捕りに気づいていた。
そして柱の陰から、あの少年がちらっと見ていた事も。
「なんであの子は、私の邪魔をするのかしら。」
利亜奈は、爪を噛んだ。
「そうだわ。あの家族を、他の町に移住させればいいじゃない。そうすれば、あの子だって私の邪魔をしなくなるはずだわ。」
立ち上がった利亜奈は、早速執事に相談した。
「あのね。街に有名な発明少年がいるでしょう?」
「ああ!あの少年ですね。」
自分の執事まで知っているとは、侮れない少年。
利亜奈は、口を歪ませた。
「その少年のご家族なんだけど。」
「はい、何でしょう。」
「この家に、招待したいの。」
「ほう。何かありましたか?」
「発明少年の、今後の将来について、ご提案があるの。」
「分かりました。早速お手配致します。」
執事は頭を下げると、部屋を出て行った。
「ふふふっ。」
利亜奈の笑いは、止まらない。
「これで、いい方向に向くわ。」
頬杖をついて、足を組んだ利亜奈。
手を伸ばすと、この前奪ったルビー色の宝石がある。
「そうしたら、宝石は全部私のモノね。」
利亜奈は、そのルビー色の宝石に小さなキスを落とした。
そして数日後。
拓とその両親は、利亜奈が住んでいる屋敷に招かれた。
「立派な屋敷だな。」
「まるでお伽話に出てくるお城みたい。」
両親は、見た事もない屋敷に、目を奪われてばかりだ。
だが拓だけは、違った。
この屋敷は、怪盗マリアが住んでいる家だ。
奴は、ここにいる。
拓の心は、既に怪盗マリアに向けられていた。
「ようこそ、尾崎様。」
執事が3人を迎えた。
「さあ、お嬢様がお待ちかねです。」
執事は、扉を開けた。
「いよいよ、利亜奈様とお話できるのか。」
父親は、ネクタイを直した。
開かれた扉の先には、豪華な椅子に座った、利亜奈が待っていた。
「初めまして。利亜奈と言います。」
その綺麗な金髪の髪と、モデルのようなスタイルの良さに、拓の両親は喜んだ。
「初めまして。尾崎拓の父親です。」
「母親でございます。」
両親は、利亜奈に深々と頭を下げた。
そして案の定拓は、利亜奈を指さした。
「おまえだな!怪盗マリアは!!」
利亜奈は早速、ハンカチを口元に寄せた。
「す、すみません。」
父親は、拓の頭を押し下げた。
「私を、巷で噂になっている怪盗と一緒にするなんて、失礼な。」
「本当にすみません。」
両親は来て早々に、謝りっぱなしだ。
「いてて。嘘じゃないよ!こいつが、怪盗マリアなんだよ!」
「また、そんな事言って!」
「利亜奈様が、怪盗マリアな訳ないだろ!」
終いには、拓の口を手で覆った。
「まあ、いいわ。そこの椅子に、お座りになって。」
「有難うございます。」
両親はヘコヘコしながら、椅子に座った。
拓は、ここぞとばかりに、勢いよく座る。
そんな拓を利亜奈は、横眼で見た。
「早速お話なんですけど、ご子息は街でも有名な発明少年だそうね。」
「お恥ずかしい限りです。」
父親は、拓の頭を下げさせた。
「そこでなの。ご子息の才能を生かすために、隣町の小学校に転校させては?」
「隣町?」
両親は、顔を合わせた。
「隣町の小学校は、才能溢れる子供達を集めて、将来の研究者を育てようとしているの。ご子息にとって、この上ない環境になると思うわ。」
「まあ、そんなお話頂けるなんて。」
母親は父親の腕を掴んで揺すった。
「息子の事をそこまで考えて下さるなんて。さすが利亜奈様。」
「いいえ。素晴らしい才能を、潰したくないからよ。」
利亜奈が、満面の笑みを浮かべた時だ。
「待って!」
拓が待ったをかけた。
「どうしたの?拓。」
「俺、隣町には行かないよ。」
「拓!」
母親は再び、拓の口を覆った。
「すみません。この子ったら、せっかくの利亜奈様のご好意を。」
利亜奈は、余裕の笑みを見せた。
「いいんですよ。お友達もいる事ですし。ゆっくりお考えになって。」
「はい、有難うございます。利亜奈様。」
だが拓は、利亜奈の魂胆を見抜いていた。
「どうせ俺を、この街から追い出したいだけだろ!」
「ちょっと拓!」
「そうすれば、怪盗マリアとして宝石を奪いたい放題だからな!」
すると拓の頭上に、父親の拳が落ちた。
「こら!利亜奈様に、なんて口の利き方をするんだ!」
「そうよ!拓。謝りなさい!」
「なんで俺が、謝んなきゃいけないのさ。」
尚も失礼な態度を取る拓に、両親は何度も何度も、利亜奈に頭を下げた。
「何回でも言うね。俺は、隣町に行くなんて、い・や・だ!」
さすがの利亜奈も、顔がぴくッと動く。
「本当にすみません。お詫び申し上げます。」
「いいえ。元気なご子息なのね。」
利亜奈は、何とか笑みを保とうと必死だった。
「じゃあ、ご両親。家に帰って、ゆーっくりとご子息と、お話なさって。」
「はい。それでは失礼します。」
両親と拓は、ドアの外に出た。
父親と母親は、全身汗だくだ。
「拓。なんで黙っていなかった。」
父親は、拓の額にデコピンした。
「だって!あいつ、怪盗マリアなんだぜ?お父さんとお母さんが、あんな態度取らなかったら、直ぐに捕まえていたところだよ!」
「おまえが捕まえても、利亜奈様は笑って許して下さるだろうよ。」
両親は拓の態度に、さすがに呆れていた。
そして利亜奈は、ワナワナと体を震わせていた。
「あの少年!目に物を言わせてやるわ!!」
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