第6章 奪われた宝石

拓は翌日、改良型ネズミ捕りを持って、警察に向かった。


警察署は、街の中央にあった。


「すみません。」


「あれ?君は確か……発明少年!」


街の中で、拓を知らない人はいない。


それほど、色んな発明をして皆の役に立っていると言うか、失敗して迷惑をかけているというか……



「それで?今日は何の用だい?発明少年。」


警察官がそう尋ねると、拓はテーブルの上に、改良型ネズミ捕りを置いた。


「これは何?」


「改良型ネズミ捕り。これで、怪盗マリアを捕まえられるんだ。」


すると警察署に、笑い声が聞こえた。


「そんなモノで、怪盗マリアを捕まえる事ができたら、警察はいらないよ!」


「面白い子供だなぁ。」


周りの大人は、皆拓を子供だと、馬鹿にした。


「本当に捕まえられるんだよ!」


拓はネズミ捕りの装置を、ONにした。


そしてネズミ捕りの前に、石を置いて、それを取ろうとした。


すると筒がシュッと締まって、警戒音が鳴った。


「おっ!この音は、警察の音に似ているね。」


「ねっ?これで怪盗マリアを捕まえられるし、捕まった事も直ぐ分かるでしょ!?」


「うんうん。」


周りの大人は、一応拓の発明を認めているようだ。



「そうだね、発明少年。」


警察官が腰をかがめた。


「この発明が、素晴らしい事はおじさんも認めるよ。」


「やっぱり!!」


「だけど、これで怪盗マリアを捕まえられるかどうかは、ちょっと分からないな。」


そう言って警察官は立ち上がった。


「これからも、発明に勤しめよ。」


拓の頭を撫でて、警察官は行ってしまった。


「ちょっと、待って!」


拓はその警察官を引き留めた。


「この発明は、よくできているんでしょ!?」


「ああ、よくできているよ。」


「だったら、遊びだと思って、これを使ってみて!」


するとまた周りから、笑い声が上がった。



「遊びでもいいからって。」


「警察は、遊び場所じゃないんだぞ。」


「大丈夫だから!使ってみて!」



その時だった。


「よし!いいだろう。」


一人の刑事が立ち上がり、拓の元へ来た。


「坊主。名前は?」


「尾崎拓。」


「拓か。発明が好きなのか?」


「好きってレベルじゃないよ。俺、発明家だから。」


すると刑事は、フッと鼻で笑った。


「何生意気言ってんだか。」


そして、テーブルに置いてあった、改良型ネズミ捕りを持ち上げた。


そして拓と警察官は、怪盗マリアが現れそうな、美術館にその改良版ネズミ捕りを設置した。


拓の狙いで、赤いルビーの宝石の箱に、装置を設置。


捕りそうになった時、ネズミ捕りで捕獲。


そして警察が動き出すという計画だ。



「坊主。本当に怪盗は捕まえられるんだよな。」


「このネズミ捕り装置があればね。」


拓は、確信を持っていた。


実験で何度も成功しているからだ。



だが、遅い時間になっても帰ってこないせいか、家から電話が架かってきた。


「はい。」


『拓!今の時間まで何やってるの!』


「わー。今、帰れないんだ。怪盗マリアを捕まえるんだよ。」


『馬鹿言ってないで。早く帰って来なさい!』


母親は、一切怪盗マリアの事は信用していない。


すると拓を信用してくれた刑事が、電話を替わった。


「中央署の広瀬と言います。今日はお子さんの発明品を用いて、怪盗マリアを捕獲したいと思いますで、しばらくお子さんを預からせて頂いてよろしいですか。」


『まあ。中央署の!?え、ええ……いいですけど。』


「では終わりましたら、家までお送りしますので。」


それで電話は切れた。


「おじさん、ありがとう。」


拓はお礼を言った。


「いや。怪盗マリアを捕まえる事ができれば、それでいいんだ。」


刑事のおじさんは、拓本人と言うよりも、その腕を買っているらしい。



そして、陽が暮れて行った。


周りが暗くなる。


美術館にも、静寂が訪れる。



誰もが息を潜めて、怪盗マリアの出没を待った。


そして、夜の帳が降りた時、何者かが、美術館の屋根のドアを開いた。


警察官達と拓は、息を飲んだ。


何者かが息を潜め、足音を消し、このルビー色の宝石目がけてやってくる。



いつの間にか、展示室のドアがキィーッと開いた。


怪盗マリアだ。


誰もがその姿に、驚いた。


金髪の美女。


スタイルもよく、一同見惚れるような容姿だ。



だが、怪盗だ。


美術品を盗む、泥棒だ。


皆、ハッとした。



その時だった。


箱に備え付けているネズミ捕りに気づいたのか、怪盗マリアは透明の箱を、直接上に持ち上げてしまった。


皆が、目を点にしている中で、怪盗マリアはルビー色の宝石を手に取った。



「捕獲しろ!」


警察官達が一気に動いた。


それでも怪盗マリアは、ロープを使って天井に釣られて、左右に我が身を振る。


その下を警察官達が、ワーッ、ワーッと捕まえようとする。


「えーい!誰か上に昇れえええ!」


警察官達は2組に別れ円陣を組み、それぞれに数人が上に昇った。


それでも、怪盗マリアはスーッと上に昇り、通気口から中に入ってしまった。


「通気口を探せえええ!」


すると円陣を組んでいた警察官達が、一気に崩れ落ちた。


「何やってるんだ!」


広瀬刑事の一声で、またワーッと展示室の外に出る。



それを見終わると、拓は透明の箱に備え付けた改良型ネズミ捕りを見た。


全く起動していない装置。


まさか透明の箱が、いとも簡単に取り外せるとは、思ってもみなかった。



「残念だったな、坊主。」


広瀬刑事は、拓の肩を叩いた。


「全く役に立たなかったな。その装置。」


「そりゃ、そうだよ!宝石が入っている箱が、簡単に開くなんて思ってないもん。警察の方が悪い!」


「なんだ?坊主。警察にたてつく気か?」


拓と広瀬刑事は、お互い顔を合わせ、睨み合いを決め込んだ。



「だが、坊主の言う事も一理ある。あまりにも、装置に頼りすぎた。」


「そんなに頼りにしてくれるのは嬉しいけれど、改良型ネズミ捕りだって、100%じゃないからね。」


拓は腕組みをして、偉そうに言い放った。


「まったく、生意気な坊主なんだよな。」


広瀬刑事も呆れている。



「さあ、坊主。家に帰るぞ。そのネズミなんちゃらを持って来い。」


「家まで送ってくれるの?」


「約束だからな。」


拓は喜んで、改良型ネズミ捕りを取って来た。


「俺の車はこっちだ。」


広瀬刑事は、美術館の駐車場に、拓を案内した。


その車は黒くて、キーのボタンを押すと、鍵が解除された。


拓は広瀬刑事が運転席に乗るよりも早く、助手席に座った。


手には、改良型ネズミ捕りを持っている。



「そんなに大切な物か。」


「俺にとってはね。なにせ、怪盗マリアを捕まえる装置だから。」


拓は装置を愛おしそうに、抱きしめている。


「その装置が、今回は役立たずだった訳だ。」


「だーかーらー。宝石が入っている透明の箱が、簡単に外れるのがそもそもダメだったんでしょ。」


「まあ、それもあるって、言っただろう。」


そして車はゆっくりと、動き始めた。



「で?どうするんだ?その装置。」


広瀬刑事は、拓に聞いた。


「また使うよ。」


「改良しねえのか?」


「実験では上手くいってるからね。後は実際使って……」


「また役に立たなかったら?」


拓は広瀬刑事をチラッと見た。


「一度宝石を盗まれているんだ。これ以上、宝石を盗まれる訳にはいかない。それには、そのネズミなんちゃら装置も、必要になるって事だ。だが、実際使って捕まえられませんでしたってなったら、警察の信頼が落ちる。」


「分かってるよ。絶対大丈夫。これなら、怪盗マリアを捕まえられるよ。」


拓は、窓の外の景色を見ながら言った。



警察のサイレンが、所々で鳴り響いている。


宝石を奪って行った、怪盗マリアを捕まえる為だ。



そんな事を考えているうちに、拓の家に着いた。


拓は助手席を降りると、広瀬刑事にこう伝えた。


「おじさん。俺を信じて。」


その目に、迷いなどなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る