第2章 怪盗の正体は

失敗ばかりしている拓は、立ち止まっている暇などない。


また、発電機の試作を作っていた。


「この前は、温度が高すぎたんだ。今回は手前で。」


だが接着剤が上手く溶けてくれない。


「うわー!ダメだ。って、おっと。」


コテを落としそうになって、間一髪取る事ができた。


「またコテを落として、カーペットが燃えたりしたら、怒られるだけでは済まされないぞ。」


そんな事だけは、よく分かっている拓。


「ただなぁ。これに変る部品は……」


こうなると、悩みに悩む。



「ただいま。」


父親が帰って来ても、挨拶にも出ないで、ひたすら部品だけを考えていた。


「拓は何してる?」


「また部屋にこもりっぱなしで、何か発明しているみたい。」


父親は2階へ上がり、拓の部屋のドアを開いた。


「拓。お父さん、帰って来たぞ。そろそろ夕食の時間だから、降りて来なさい。」


「はーい。」


そして悩みながら階段を降り、悩みながらダイニングの椅子に座った。


えい!こうなったら、直接部品屋に行って、探した方が早い!


拓は、時計を見た。


まだ店は営業している時間だ。



「お父さん!」


「どうした?急に。」


急に呼ばれて、驚く父親。


「部品買いたいんだ。連れて行ってよ。」


「こんな時間に?」


「早く!お店が閉まらないうちに!」


拓は帰って来たばかりの父親の腕を引きながら、玄関まで連れて行った。



「どこへ行くの?もうすぐ夕食できるわよ。」


「拓が部品を買いたいって言うんだ。」


「ええ?」


母親が困っている中、拓は家を飛び出した。


街の部品屋までは、家から10分程で着いた。


「わぁー。いろんな部品がある。」


まるで玩具を見て、目をキラキラさせている幼稚園児みたいだ。


「で?どんな部品が欲しいんだ?」


「全然決めてない。」


あっ、そう。と半分呆れている父親を他所に、拓は手前の棚から、部品を一個ずつ見て行く。


「うーん。やっぱり、接着剤から攻めていくか。」


今度は、二番目の棚に行って、一つずつ接着剤を見ている。



「おっ!発明家さん、また発明かい?」


拓を見つけた店主が、面白そうに声を掛ける。


「しーっ!黙っていて。」


「すまん……」


発明に関しての時の拓は、大人顔負けの表情をする。


玄関前では、拓の父親が店主に、『生意気ですみません。』と謝っているが、今の拓には関係ない。


結局、接着剤だけで30分も時間を費やした。


「拓ちゃん。もう店、閉めるよ。」


「うーん。分かった。」


「なんだ、今日は物分かりいいな。」


30分かけても、接着剤は決まらなかった。


他の部品も、パッとしない。



「それで部品は、決まったのか?」


「それが、決まらないんだ。こういう時は、一度家に帰って考えた方がいいんだよ。」


拓は時々、サラリーマンみたいな事を言う。


「よし。じゃあ、今日は帰ろうか。」


「うん。」


拓と父親はお店を出ると、家に向かって歩き始めた。



「どんな部品がよかったんだ?拓。」


「うーん。部品と部品を止める物なんだけど、どれがいいか、思いつかない。」


「発明って言うのは、難しいんだな。」


父親も理科系の大学を卒業しているので、全く分からない訳ではないが、拓の言う事は、それを上回っている。


なまじ母親が、『お父さんみたいにならなきゃね。』と、拓が小さい頃から理科系の本を読ませたのが、いけなかった。


いつしか発明に、没頭するようになったからだ。



その時だった。


「怪盗マリアが出たぞ!」


どこからか、声が聞こえた。


「お父さん、怪盗マリアだって!」


「怪盗マリア?」


「知らないの?今、街を賑わせている女泥棒だよ!」


そう叫んで拓は、急に走りだした。


「おい!どこへ行くんだ、拓!」


「俺、どんな奴が見てくる!」


「忙しい子供だな。」


父親も拓の後を追いかける。


好奇心旺盛な子供を持つと、親も苦労する。



そして怪盗マリアが出た宝石店についたが、警察が取り囲んでいて、中まで詳しく見えない。


「怪盗マリアは、もう逃げたか。」


「そりゃあ、そうだろ。」


拓はうーんと唸りながら、周りを歩き始める。


「あっ、拓。あまり遠くへ行くなよ。」


「はーい。」


拓は空をチラッと見た。


その時、薄暗くなった空に、人影が見えた。


「えっ……」



黒いスーツに、金髪の髪。


そしてダンスパーティーに使うような仮面。


それはまだ、小学生の拓にとっては、強い印象を残した。



「ん?」


下の方から、熱い視線を感じた利亜奈は、ビルの屋上に避難する。


「見られた?」


だがチラッと見た感じでは、まだ子供のようだ。


「なんだ、子供か。」


利亜奈は安心して、盗んだ宝石を隠しながら、家に戻った。


「お嬢様。どこに行かれていたのですか?」


窓から戻ったばかりの利亜奈を、執事が迎える。


「ちょっと、散歩よ。」


利亜奈は奪った宝石を、自分の机の中に隠した。


宝石店での騒動は一段落して、拓と父親は家路に着いた。


「結局、怪盗マリアは見れなかったな。」


「実は俺、見たんだ。」


「えっ!?」


父親は、突拍子もない拓の言葉に驚いた。


「仮面をつけた、金髪のお姉さんだったよ。」


「んー。」


父親も考えてみるが、誰だか分からない。


何せ土地柄、この街には金髪の人がうじゃうじゃいたからだ。


「それだけの情報じゃ、ちょっと分からないな。」


「ガクッ。お父さん、肝心な時に役に立たないね。」


生意気な言葉も、ここまで頭がいい少年ならば許せる。


「さあ、帰ろう。お父さん、お腹空いたよ。」


「うん。俺もお腹空いた。」


父親は、ため息をついた。


「小学生でこれなんだから、大人になったら拓はどうなるんだろうな。」


「きっと立派な発明家になっていると思うよ。」


自分で言うんだから、父親も呆れる。



そして二人は、家に帰って来た。


「お帰りなさい。夕食できてるわよ。」


母親が迎えてくれて、一家は遅い夕食を摂った。


メニューはオムライスだったのだが、その黄色から金髪の怪盗マリアが思い浮かんだ。


少しだけソバージュがかっている金髪。


そして、仮面を被ったあの顔。


どこかで見た事があった。



拓は発明家のせいか、一度見たモノは忘れない癖があった。


どこかで会った気がする。


どこでだ?


拓は必死に、記憶の片隅を探した。


そして頭の奥から、高級車が映し出された。


乗っている人は、金髪だ。


あの人だ。


あの人は、誰だ?


そして記憶は、顔を写した。



領主の娘、利亜奈だ。


「そうだ!あの人だ!!」


食事中に、拓は急に立ち上がった。


「急にどうしたの?」


母親は冷静に尋ねた。


「分かったんだ!怪盗マリアの正体が!」


「怪盗マリアって、あの宝石店に現れるって言う?」


母親と父親は、顔を見合わせた。


「拓。一体誰だって言うんだい?」


拓は一つ咳払いをすると、得意気に言った。


「怪盗マリアの正体は、領主の娘・利亜奈だ!」


すると両親は、お腹を抱えて笑った。


「利亜奈さんが?有り得ない。」


「そうよ。よりによって利亜奈さんだなんて。」


「だって俺、見たんだよ?」


拓が真面目な顔をすればする程、両親は涙を流すほどに笑っている。


「ないない。」


「利亜奈さんは、領主の娘よ?お嬢様大学にも通っているし、可憐で美しい方なんだから。」


結局、その日は両親に笑われて、終わってしまった。



眠りにつこうとする拓は、あの夜の中を、颯爽と飛び跳ねる怪盗マリアの姿が忘れられない。


あの金髪。


そしてあの顔。


領主の娘・利亜奈である事は、間違いないのに。



そして翌日。


小学校に通う途中で、近所の人が噂をしていた。


「また宝石店に、怪盗マリアが現れたんですって。」


「何でも、高級な宝石しか盗らないんですってね。」


そこで拓は、その近所の人に近づいた。


「あら、発明家拓ちゃん。どうしたの?」


「俺、怪盗マリアの正体、知っていますよ。」


「えっ!?」


近所の人達は驚いた。


「正体は、領主の娘・利亜奈です。」


ここでも拓は、大笑いされた。


「そんな事ないわよ。」


「どうかしてるわよ。発明家さん。」



拓は、不機嫌になりながら、学校に急いだ。


絶対、正体はあの女なのに。


そうだ。俺の発明品で、あの女を捕まえてやる。


拓は、固く胸に誓った。

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