第2話 サーシャの独白

 実家から嫁いで二年。

 今年、私は念願の子宝に恵まれました。

 名前はウェルダ。

 元気な女の子です。

 

 時を同じくして、領主様にも世継ぎが誕生しました。

 名前はグレイス様。

 カルディア・グレイス様。

 やっぱり元気な男の子です。

 

 グレイス様の乳母役を任じられたときは、驚きで胸が飛び跳ねました。

 しかし夫のヒューゴ商会はカルディア男爵家と深いつながりにあったので、それも納得でした。


 ウェルダもグレイス様もすくすくと育っています。


 ただ、二人の赤子を同時に育てているからこそ、気がついたこともあります。

 

 ウェルダは一日中意味もなく泣いてばかりいるというのに、グレイス様はめったに泣きません。それはいっそ異様とも思えるほどでした。

 

 泣くのは決まってお腹がすいたときか、粗相をした時だけです。


 それも用が済むとまるで泣いていたことなんてきれいさっぱり忘れたように、すました顔でいらっしゃるのです。泣くというよりは呼ぶというほうが適切かもしれませんね。

 

 泣いてばかりいるウェルダを悪いとは言いません。

 きっとこのグレイス様が特別な子なのでしょう。

 それとも貴族のご嫡子はみな泣かないのでしょうか?


 グレイス様はいつも退屈したような顔をしていらっしゃいます。

 ぷっくらとした頬を膨らませてすねたような顔をしています。


 だから最近は絵本の読み聞かせを始めました。

 絵を見せながらゆっくり単語を教えていくのです。はじめは無意味な自己満足だと思っていました。毎日繰り返される代わり映えのない日々に飽きて、ちょっとした刺激が欲しかったのだと。


 しかし思いのほかグレイス様は喜びました。

 真剣な眼差しで熱中されていました。


 私がやめようとすると、手をたたいてもっともっととおねだりするのです。私の勘違いでなければ、その瞳には紛れもない知性が宿っていたと思います。

 心なしか表情も柔らかくなっていました。


 こうして私はウェルダが寝ている時間だけ、グレイス様に絵本をご用意するようになりました。二人だけの静かな時間です。


 小規模ながらヒューゴ商会でも取り扱っていたので、新しい絵本には事欠きませんでした。

 

 今日も私は絵本を読み上げます。

 好奇心もあらわなグレイス様のために。

 隣のベビーベッドで眠るウェルダを見守りながら。


 私のかわいい赤ちゃんたち。


 どうかこの子たちに精霊の導きと、安らぎがありますように。

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