第3話
今日は視線が痛い。何か嫌なことでもあったんだろうか。
まぁ、そんなことで煽ろうと思うほど、自分の性根は腐ってない。
「・・・」
ただ時折、首を少し向けてやるだけだ。
「ねぇ、今日も喋ってくれないの?」
気まぐれで声をかける。
返事は期待通り返ってこなかった。
なんてことだ、そんな眼で、聞いて欲しそうな眼でこちらを見ているというのに!
・・・いや、別に見ていないのだけど。
「ねぇ」
「・・・」
「ねぇねぇねぇねぇ!」
「・・・」
そこまで頑なに喋らない気かこの堅物監視官。しょうがない、今日くらいはコレを使ってあげよう。
塵の山を漁り、布の切れ端を見つける。染みそうだけど十分だろう。
「喋ってくれないのなら、喋らせてみようホトトギス」
あの監視官はホトトギスなんて可愛らしいものじゃない気がするけど。
今日、というか今の願いは監視官の声が聞きたい。
さぁ、叶えられるか叶えられないかは私次第だ。一応ダミー用の布も持ってと。
「よーっし、今日こそ一発で決めちゃうからね!」
そう意気込んで、走る。
やっぱり思ったとうり追っかけてきた。最近暇すぎたし捕まるわけにはいかない。
左手と両足を使って、登る。もう貼り付けていい高さだけど、まだ登る。
上がれ、高く、伸びて、届いてっ!
布を握りしめた右手を必死に伸ばした。
「・・・っ!?」
足首が締め付けられるように痛い。掴まれていることがすぐ分かった。でも今日は、最新記録だ。
だって顔を上に向ければ、二十センチほど先には天井が見えるんだから。
布をテレビの下にねじ込んだ。コレで、大丈夫。私の願いは天へと届けられた。もし監視官が喉の病気だったりしても、コレで治る。
さぁ。
「声を聞かせろ!」
そう足の下を見れば、願いを知らない監視官が絶望しそうな眼でこちらを見ていた。
バランスを崩したのは、その顔に驚いた私だ。
流石にあの体制から私を掴みあげるのは無理なようで、一緒に山の上から落ちる。
ただじゃすまないだろうなと思っている自分の頭が呑気すぎて、緩やかに落ちて行ってる気もしてしまう。
実際には急降下なのだけど。
グシャという音を立てて、左腕が塵の間に突っ込んだ。意外にも軽症で済んだんだけど、監視官の方は顔からビターンと落ちていた。随分と間抜けだと揶揄ってやりたくなる。
頭を足で踏むとかそういうことはせず、近くの鉄パイプでつつくことにした。
「・・・ねぇ、せっかく叶えたのに」
お喋り、してくれないの。
「何か言ってよ。無視しないで」
その行為が一番嫌いだった。
「こっち見てよ、ねぇねぇ」
反応がないことが、怖かった。
それから何度も呼びかけたけれど、返事はなく、呼びかけは別の監視官が入ってくるまで止まらなかった。
希望の短尺 朝梅雨 @karanokakeranohikarikata
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