第2話

「約束ね」

優しく笑った彼女は、確かに生きていた。

懐かしい夢に浮かされているだけで、一切成長できない自分は好きになれない。

あの時は与えられる側であった。食事も寝室も希望も、与えられるだけ。選ぶことなんてできなかった。

「遅いぞ、新入り」

ゆっくり指定された場所に行くと、ガラス張りの部屋の奥に鉄格子が見えた。広いドーム状の檻のような部屋に、横たわる一人の少女。

似ていた。顔の形、髪の色。ドッペルゲンガーと言われても、俺は驚かないだろう。

「お前には、彼女を監視してもらう」

そう言って、上司である男は書類を手渡してきた。彼女のプロフィールや今回の仕事について記載されている。

「期待しているからな」

肩を叩き、横切っていく上司を一発殴りたかった。

「なんだよ、これ」

少女の力。願いを叶えるための条件。願いの阻止。必要と判断した場合、檻の温度を急激に下げる等の自由封じを許可。片足までなら銃の使用も許可する。言語の共有は禁じる。

人を、何だと思っているんだ。俺には到底想像がつかない。

・・・本当に、バケモノを扱うような。

相手は年端もいかない少女だぞ。上の者は、願いで殺されるのが怖いのか?それとも、出してはいけないような危ない思考を持っているのか。

とにかく、会わなければ。

表情を読まれないように、感情を持たないように無心になろう。意思疎通は、許されていない。そう決意を固めて檻に直接繋がる部屋の扉を開けた。

「あ、貴方が新しい人?こんにちは!」

すぐに気付き、此方に顔を向けた。

太陽のような笑顔を見せる彼女に、内心動揺する。書類に書かれているほど危険人物には見えなかった。

「返事、返してくれないの?前の人はいっぱいお喋りしてくれたよ?」

あぁ、それで。

前の担当者である俺の知り合いは、数日前に外されたんだったか。そりゃぁ禁止事項破れば外されるよな。

「つまらない顔ね、お喋りしてくれないし」

そういう風にしろと命令されているから。本当は聞きたいことが沢山ある。

「外に帰りたい。あの場所に帰りたい。そうだ、リアンは元気?」

リアン?誰のことだろうか。彼女と顔を合わせないようにしながら書類をめくる。

・・・友人。あの最終処理場の子供か。

「ねぇ、元気かって聞いてるの。それくらい答えてくれてもいいんじゃない?」

そんなことは知らないし書いていない。君のことを知ったのも今さっきだっていうのに、友人のことなんて調べていない。それに、君とは話せない。

しばらくの沈黙が続くと、彼女は黙ってしまった。

何かを書いているように見える。

大人しくなったのならそれはそれでいい。自分も静かに書類をめくる。目を通していると、先程の“阻止”の項目が。

「・・・」

何か書き物をしているところを見かけたならば、即刻捕らえろ。塵の山に登られる前に捕らえろ。願いが叶ってしまう。

「ふんふんふ〜ん」

呑気に鼻歌を歌いながら何かをもって塵の山を登っていく少女が見えた。

急いで檻を開けて少女を捕らえる。どうにか上に着く前に捕まえられた。紙を無理矢理奪い取り、急いで破く。

「あーあ。前の人より早いんだね。残念、ここからやっと出られると思ったのに」

全く残念そうに言っていないように聞こえるのは気のせいだろうか。

俺には、喜んで見えたのは・・・気のせいだろうか。

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