4 儀式

 リコはハイだった。

 最初から液体を試すのは怖かったので、マリファナだけを吸って練習することにした。リコは思いきり煙を吸い込んでしまい、思いきりむせた。涙目になりながら次はゆっくりと吸ってみた。しばらくは何も起こらなかった。最初から効果は出ないとかバッドトリップが多いとか、悪い話はたくさん知っていたので、内心ビビっていた。

「あはははは」

 リコは自分が笑い声をあげているのに気がついた。ボングを見て笑った。間接照明の薄暗い部屋を見回して笑った。お気に入りのアンモナイトの化石や、アノマロカリスのぬいぐるみ、三葉虫のぬいぐるみ、ダイオウグソクムシのアクションフィギュアを見て笑った。聞いていた音楽のエレキギターのノイズが輝く奔流となって押し寄せた。音に形が感じられた。リコはアノマロカリスのぬいぐるみを抱きしめ、ソファにひっくり返り、断続的に笑い続けた。ハイな体験が無限に続くように感じられた。リコは自分に何でもできるような気がしてきた。これほど自信があるという経験ははじめてだったが恐怖はなかった。リコは今日やるつもりではなかった本来の計画を実行に移すことにした。リコは新しいマリファナをボングに詰め、その上から小瓶の液体を垂らし火をつけて、泡立つ煙をゆっくりとできるだけ多く体内に吸収できるように吸い込んだ。

「あははひゃうん」

 リコは笑いながら気を失った。


「繝ェ繧ウ窶ヲ窶ヲ繝ェ繧ウ窶ヲ窶ヲ」

「んにゃ? 誰かわたしを呼んだかな」

「繧上◆縺励r蜿ャ蝟壹@縺溘?縺ッ縺翫∪縺医°」

「何しゃべってんのかわかんなーい」

「繧上◆縺励?蜿、縺ョ遞ョ譌」

 リコは暖かな光に包まれた世界で声だけを聞いていた。自分はハイだから変な幻聴が聞こえるのだと思っていた。

 光の中から何か細長いものがにゅるりと現れた。蛇のように長い体の前部分は太くなっていて、細長い人間の腕のようなものがそこから多数ぶら下がっていた。体の表面は明るいグレーの皮膚で覆われており、背骨が浮き出て背びれのようになっていた。先端部には別々にぎょろりと動く眼が八つついており、口らしき開口部を取り囲んでいた。開口部にはヤツメウナギのようにやわらかい歯が放射状に生えており、その生物はその異形の口から言葉を発していた。

「あなたが教授の言ってた古の種族なのね?」

「縺昴?縺ィ縺翫j」

「すごい、実在したんだ」

「繧上◆縺励r蜻シ縺ウ縺?縺励◆逅?罰縺ッ?」

「わたしは人間をやめたいの。あなたならそれを叶えてくれるって聞いたから」

「縺ェ繧九⊇縺ゥ」

 古の種族は思索するように八つの眼を動かした。

「蜈ア逕溘@繧阪→縺?≧縺薙→縺九?ゅ>縺?□繧阪≧縲ゅ″縺ソ縺ォ縺昴?隕壽ぁ縺後≠繧九?縺ェ繧」

 古の種族がするりとリコに覆いかぶさるように移動し、たくさんの腕でリコをしっかりと掴んで持ち上げた。古の種族はリコの想像より大きかった。

「え……? 何ちょっとにゃぶっ」

 古の種族の口がリコの顔面に吸いついた。顔を完全に塞がれたリコは息ができずしばらくもがき、自由になっている足をばたばたさせていたが、体を大きく痙攣させると足はだらりと垂れ、それっきり動かなくなった。細かいたくさんの歯が体の表面から自分の肉を削っていくのをリコは感じていたが、そのことに自分が性的な興奮状態にあることに驚きつつ、その快楽にこの事態を受け入れていた。

 リコは絶頂に達した。

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