第9話 円環の回 二回目

 意思の混濁が覚めると、腹の下に地面を感じた。

 目を開ける。

 やや暗い。


『今は夜なのか? さっきまで俺は、確か双頭のうさぎと……』


 周りを見回すが相変わらず暗い。上に点々と光るものが見える。


 真上の樹冠にはぽっかりと丸い穴が空いている。


『あの穴、どこかで……。そうか、最初にこの世界にきた時にいた場所か!』


 そうして、注意して辺りの地面を見回す。


『襲ってきた狸の残骸がない! どういうことだ?』


 とっさに後ろを振り向くが、鼻につく悪臭もせず、襲い掛かってくる影も見当たらない。


 俺はゆっくりと背後の草むらに近づくも、生き物の気配はなかった。


『これはどう言うことだろう。死体の残骸が無いのは、他の生き物が食べたのか? しかし、ここまで綺麗に片付けるのは無理だろう。』


『意識が途絶える前に、呪いだってアナウンスがあったよな。円環の呪い? 語感的には、もしかして、時間も巻き戻っている可能性があるのか。あとは祝福が上書きとか、どうとかも言っていた……。』


 俺は頭上を見ながら考える。


『終焉の光で殺したものが上書きされてるのか?』


 星の瞬き。


『それなら樹冠に穴が空いていたり、襲い掛かってきた狸がいなくなっているのにも説明はつく、か?』


 俺は思考を続ける。


『だいたい、呪いって何だよ。やっぱり双頭のうさぎの頭を両方吹き飛ばしたのが原因か?』


 俺にとってはつい先程の出来事を回想する。


『あっ! 悪い魔法使いとかの仕掛けたカウンタートラップか? それとも、この世界の仕様で、この称号を受けるとかかるのか。』


『ふむ、両方の可能性もあるのか。この世界の仕様なら、他の存在も呪いを受けることを知っていて、双頭のうさぎに手出しはしなくなる。それを、悪い魔法使いが狙っていた可能性があるか。これはもしかしたら双頭のうさぎの頭を、片方吹き飛ばしただけでもこの呪いを受けていた可能性もあるぞ。そうだとしたら、あの性悪うさぎめっ! 全て知っていて無知な俺に話を持ち掛けやがったな!』


 俺は双頭のうさぎへの憤りも新たに、全ては推測でしかないことを意識して、検証出来ないか考え始めていた。


『大切なのは、まず本当に時間が巻き戻っているか、終焉の光の結果が上書きされているのか、称号も継続しているのか、の3つだな。』


『ひとつめの巻き戻りの確認は難しいな。この世界がずっと暗いままなのが痛い。せめて月でもあれば時間経過もわかるのに!』


 俺はイライラと前肢で地面を掘る。


 掘った穴を見て、最初の寝床のことを思い出した。


『確か寝床のために木の根と地面の隙間を掘り返したよな? あの場所を確認しに行くか。ついでに、ここをもう少し念入りに掘り返しておくか。』


 俺は前肢を動かしつつ考え続ける。


『終焉の光を使ったのは三回、最初の狸と、光る親熊と、双頭のうさぎ。特に光る親熊に使ったときは森を切り開いている。そこを要確認だな。』


 俺は無意識に前肢を動かし続ける。


『そして、一番大事なのは称号が継続しているか。もし円環の破壊者の称号が継続していて、また呪いが発動するなら、最悪だ。双頭のうさぎが終焉の光の上書き効果でこの世界にいないとなったら、本当に終わっている可能性がある。最悪、円環の破壊者の呪いで永遠にループに嵌まるとかあるぞ。どこのバグゲーだよ。』


 俺は最悪の可能性を考えて憂鬱になりながら、自らの予想が外れることを期待して、検証のために歩き出した。

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