第7話 うさぎさんの事情

『こいつ、いつから俺の意識を覗いてやがったんだ? 遠距離からでも意識が覗けるのか?』


 俺はうさぎの小憎たらしい顔を睨み付けた。


「「察しが良くて、話が早いから助かるよ。それじゃあそろそろ僕らの願いを聞いてもらおうかな~。」」


 うさぎは思考を覗いていたことなど何とでもないという風に飄々とした態度のまま、俺に要望を突きつけてきた。


「「僕らの望みはこの邪魔な」「右の」「左の」「頭をその終焉の光……。ぶぷっ。それで、吹き飛ばして欲しいんだよ」」


 うさぎはそう言いながら右手で左の頭を、左手で右の頭を指差した。2つの頭はお互いに睨みあっている。


『こいつ、お互いに殺したいって言ってるのに、何で終焉の光を馬鹿にするときは息ぴったり何だよ!!』


 俺は無駄なツッコミをいれてしまったことに軽い自己嫌悪を覚え、気を取り直して質問することにした。


『いくつか質問いいか?』


「「どうぞどうぞ~」」


『まず、何で俺に頼む? 殺し合いたいだけなら勝手に自分達だけで殺ってれば良いだろ。それに何で互いに殺し合いたいんだ?』


「「話すと長くなるんだけど、うん、それじゃあ、」」「まずは僕から説明させてもらおうかな」


 と右の頭のうさぎだけが話し始めた。


「僕はもともと普通の善良なうさぎさんだっんだ。とある森で大人しく暮らしていたんだけど、ある時、森の悪い魔法使いに捕まってしまったんだよ。そしてその悪い魔法使いが悪霊を僕の体の中に封印してしまったんだ。」


「この悪霊ってのがヤバイやつでさ。」


「生きとし生けるもの全ての感情を読み取れて、その感情の揺れ幅を糧にするんだ。そして無限に増殖する。ほっとくとどうなるかわかるだろ?」


 右の頭のうさぎはそう言うとこちらに話を振ってきた。


 俺が答えずにいると、うさぎは話しを続け始めた。


「それで魔法使いはなんと、この、いたいけなうさぎさんを犠牲にしたってわけさ。この体に悪霊を封印しちまったのさ。そしたらこの左の頭がにょきにょき生えてきたってわけ。」


 うさぎはそう言って左の頭を指差す。


『悪霊を倒すことは出来ないのか?』


「物理的な攻撃は無効だったね。なんたって実体がないし。魔法もほとんど効かない。効くのは、神の威光に類する攻撃だけ。そこで君の出番ってわけさ! サクッとこの左の頭をぶっ飛ばしておくれよー」


 俺はそこまで聞いて、納得したこともいくつかあったが、疑問が逆に増えてしまった。しかしうさぎの左の頭を吹き飛ばすこと自体には気持ちが傾きつつあった。


 その時、左の頭が話し出した。


「じゃあ次は僕の番だね。僕はもともととある森の精霊だったんだ。」


「僕の役割は心が傷ついてしまったものの心を癒したり、荒ぶる者の心を静めたりすることだったんだ。僕に会いに、昔は色んな所からあらゆる生き物が集まってきてて、それなりに尊敬を集める存在だったんだよ。」


「そんな僕もある時森の悪い魔法使いに捕まってしまったんだよ。そしてこのうさぎを封印するために、この体に縛り付けられてしまったんだ。」


「このうさぎは、性格は残虐非道で、周辺を暴れまわっていたんだ。しかも厄介なスキルを持ってたんだよね。そのスキルってのがこの世界のあらゆるものを食べることができて、しかも食べた分、自身の超回復と寿命を延ばすことができるってもんだったんだ。」


「考えてみてよ。ほぼ不老不死の存在が、あらゆるものを貪り喰らい続け、しかも性格も非常に残虐。放って置けばどうなるかわかるよね?」


 そう言うと左の頭のうさぎも俺に話を振ってきた。


 俺がまた答えずにいると左の頭のうさぎはまた話し出した。


「それでこのうさぎを抑えるために、僕が生け贄にされちゃったってわけ。僕はこいつの荒ぶる感情と無限の食欲を抑えるために、力を使い続けるように悪い魔法使いに呪いを掛けられちゃったんだ。そしてこの左の頭の中に縛り付けられてるんだよ。だから右の頭を君の終焉の光で吹き飛ばして欲しい。君の終焉の光なら不老不死の存在でも消し去ることができる。僕を助けて。」


 そう言うとうさぎは両方の頭でこちらを懇願するように見つめ始めた。

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